AzuΦ'z
【アズファイズ】
【第02話/目覚めの夜】

【No.05―かおり】

女性。
当病棟で観察中のNo.04―榊の看護をしていた。
No.04の容態が急変後、自殺。数時間後、蘇生する。
体組織再構築能力―オルフェノクとして覚醒する。
しかし当初錯乱状態であった為、精神安定剤を投与。

7月24日
No.04の容態が変化するまで精神安定剤にて現状維持せよとの指令あり。

オルフェノクとしての特質、容姿を確認できるまで5号室にて隔離、保護せよ。

草木も眠る丑三つ時。美浜病院の『霊安室』と書かれた場所で。
白いベットに寝かされていた女性がゆっくりとまぶたを開いた。
夜の海を連想させるロングヘアーにすらっと伸びた四肢。名は―榊。

(ここは…?)

壁の色、灯り、部屋の構造…榊はそのどれにも見覚えが無かった。榊は戸惑いながらも
寝かされていたらしいベットの上で改めて部屋を見渡した。照明灯が周りをぼんやりと
照らし、徐々に薄暗さにも目が慣れてきた榊はそこがどうやら部屋の中央に設置され、
今現在自分がいるベット以外は何もない部屋だということがわかった。だが、それ以上
はわからない。

(…?)

再び胸に疑問が浮かんだが部屋には自分以外誰もいないのでベットから降りた榊はドア
のノブに手をかけた。

―ガチャッ

ドアから顔を出した榊はしばらく部屋の外を観察した。部屋の外の世界は白い壁と消毒
薬の匂いがする。両端の廊下から白衣の女性や男性が歩いていくのを見て榊は

(病院、なのかな…)

と感じた。しかしそれと同時に首をかしげた。そもそも何故自分が病院にいるのかを思
い出せないからである。

(…誰かに聞いてみよう)

決断するや榊は今までいた部屋のドアをそっと閉め、とりあえず左の廊下に裸足のまま
歩き出した。曲がり角の先には階段があり、誰かが降りてきた。鋭い眼をした若い男の
医者である。医者はこんな時間に、しかもこの病院の地下病棟にいる榊が廊下からこち
らを見ているのに気がついて注意した。

「君、ここは立ち入り禁止だ。すぐに戻りたまえ」
「あの…」
「何かね?」
「私はどうしてここに…?」

医者も戸惑いながらも答えた。

「見ただけでは健康そうだが…ともかくここは私達以外は立ち入り禁止なんだ。上に送
 って行こう。君の名前は?」
「…榊、です」
「榊…」

ふと、何かが引っかかった医者は榊を普通の病棟ではなく地下病棟の受付に案内した。

「…少しそこに座って待っていてくれ」
「…」

うなずく榊を確認した医者は受付へと姿を消した。白いソファーに座り、真正面に掛け
てある壁時計を眺めながら、先程の医者を待つ榊。時間だけが黙々と過ぎていった。

(私は…いつ入院したんだろう…?)

どう考えても心当たりの無いので榊は先程の医者が来るまで時計を見続けた。5分程で
先程の医者が受付のドアから出てきて少し蒼ざめた顔で榊の前に現れた。

「あ、あの大丈夫ですか?」
「ああ…大丈夫だ。それよりもちょっと失礼。診察させてもらうよ」

医者はそう言うと榊の脈や瞳孔、心臓の鼓動を診察し、再び押し黙った。

「何か…私の身に…?」
「い、いや君の身体は健康なようだ…」
(この子も…オルフェノク…)



【No.04―榊】

女性。
事故に遭遇し、当病院へ運ばれる。
運ばれる途中に身体に出来ていた怪我を全て修復。
自己再生能力―オルフェノクの素質あり。
しかし、どんな刺激にも反応せず、眠り続ける。

7月24日
容態が急変し、死亡。原因不明。

遺体は7月25日まで霊安室にて保管し、容態が変化次第報告せよ。



「大丈夫みたいだ。これなら今すぐに退院出来る。早速手配しよう」
「あ…」

榊がお礼を言う暇も与えずそそくさと受付に再び姿を消した医者はこの病院のもっとも
重要な人物へとつながる直通の回線をつなげた。

「はい。美浜です。何でしょうか?」

少し眠たげな可愛らしい少女の声。奇妙なことに榊を診察した医者はその相手に緊張し
た声で報告を始めた。

「美浜総合病院地下病棟です…コードナンバー04、榊が目覚めました」
「榊さんが…それで容態はどうでしたか?」
「全て正常です」
「わかりました。今すぐ行きますねー。それと…榊さんが事故のことを憶えていなかっ
 たら全て伝えてください」
「全て…ですか…」
「はい。そうです。それとかおりんさんの場所も伝えてください」
「かおりん?」
「コードナンバー05で登録されている女性のことです…それから自殺ではなく、未遂と…」
「…未遂?」
「未遂です。お願いしますね」
「…はい。わかりました。それでは…」
(ふう…気が重いな…)

医者は電話を置くと深く息を吐いた。まだ子供と言ってもよい少女がここの病院の全て
の指示と関わり、運営している。美浜病院のトップシークレットは余りにも非現実的な
話であった。

「…すぐに迎えに来るそうだ」
「…ありがとうございます。あ、あの私は一体どうしてこの病院に…」
「君は…何も憶えていないんだね…?」

黙ってうなずく榊を確認した医者はしばし考えた後、重い口調で伝えた。

「君は…交通事故に遭ったんだ…」
「交…通…事…故…」

『榊さん、こっちですよー』

医者の言葉で榊はその日に戻った。よく晴れた休日。榊はかおりんと一緒に街を歩いていた。

『ほら、見てください榊さん!とっても可愛いですよ!!』
『…うん』

(そうだ、あの日私はかおりんと新しく出来たペットショップに…そして、そして…)

『可愛かったですね榊さん。あ、あの…お昼たべませんか?』
『…』
『やったー!!榊さんこっちこっち!』
『かおりん!車が!!』
『え…』

(…!!)

ドンッ!!

『いやああああ!!』
『…』
『誰か救急車を早く呼んでください!!…榊さん死なないで…死なないで榊さん!!!!』

「…思い出したかい?」
「…」

一生分の勇気を全て使って新しく出来たペットショップに誘ったかおりんは榊と一緒に
街に出かけ、そして…交通事故に遭遇したのであった。

(…そうだ!かおりんは!!)

徐々に意識が遠くなる中、救急車の中でポロポロと涙をこぼしながらひたすら祈り続け
るかおりんの顔を思い出した榊は慌てて自分が守った少女の行方を聞いた。

「その日私と一緒に運ばれた子は…?」
「…毎日まめに君の世話をしていたが…」
「その子は?」
「…今日君の容態が急変してからその子は…私のせいだと言いながら自殺…未遂をしたんだ…」
「!!」

一瞬どちらも口を閉ざしたが普段からは考えられないほどの強い調子で榊は再び問い詰めた。

「それで今どこに!?」
「この地下病棟の5号室にいる…って待ちたまえ!!」

榊はもはや医者を待つことなく疾走した。医者は伸ばした手を力なく下げ、やれやれと
言った感じで溜息を吐いた。

(これで…本当に良かったのだろうか?命令とはいえ消えかけていた事故の想い出を教
 えて、05の居場所も教えるなんて…)
「これで良かったんですよー」

榊の消えた方向とは正反対の廊下から響いた声に医者は慌てて振り向き、そこに両親の
謎の失踪以来、美浜財閥の富と力と栄光と重荷の全てを受け継いだ女性が立っているの
を発見した。

「ちよ様…」
「ちよでいいですよー」「はい、ちよ様」
「…お仕事おつかれさまです。あとは私に任せてください」
「ですが…何故彼女にコードナンバー05の居場所を伝える必要があったのでしょうか?」
「かおりんさんが榊さんを呼んでいるからですよー」
「それは一体どういう…?」
「宮城さん」
「は、はい」

突然名前を呼ばれ医者は緊張すると同時に自分の余計な詮索を後悔した。今、自分の目の
前にいるのはただの少女ではなく、美浜財閥の頂点に君臨する者だからだ。

(迂闊だった…この人がその気になれば俺1人消すくらい簡単なのに…俺は何てことを…)
「…今日はご苦労様でした。おやすみなさい」
「え…?」

戸惑う医者に微笑むとちよは振り返りもせずに榊のあとを追いかけ始めた。

(12号室…11号室…10号室…9号室…)

その頃榊はひたすら5号室目指して走り続けていた。ちよと医者の会話が終わった頃には
長い廊下を走りきり、目的の部屋に辿り着いていたのであった。

「ここにかおりんが…」
『その子は…私のせいだと言いながら自殺未遂をしたんだ…』

大きく息を吸うと榊は『5』とだけ書かれた個室のドアを開けて右奥のベットに近づいて
いった。そしてベットに横たわり静かに眠っているように見える女性は榊の知っているい
つも通りのかおりんであった。

「かおりん…」

榊の声が部屋で響いたその時。かおりんは一瞬目を大きく見開いた。その顔全体に幾何学的
な銀の紋章が浮かんでいる。不安になった榊は再び名を呼ぶ。

「かおりん?かおりん…かおりん…?」
(あれ…?)
「榊さん」

ギョッとした榊が目を凝らして見た次の瞬間には黒い紋章は消え再びかおりんのまぶたは閉
じた。その後はいくら呼び続けても反応しないので途方に暮れていた榊は声がした方に振り
返ってみると、そこには昔のままの友人がにっこりと微笑んでいた。

「ちよ…ちゃん…?」
「お久しぶりですね榊さん」
(でも…ちよちゃんは…アメリカへ…)
「…色々ありましたのでアメリカから帰ってきました」
(今のは…?)
「榊さん、気にしないでください」

榊の隣に立ったちよはかおりんに声をかけた。

「…かおりんさん、榊さんと一緒に迎えに来ましたよー」
「え、榊さん…どこどこ!?」

かおりんはその一言で先程までその本人に呼ばれても起きなかった意識を取り戻して上半身
だけベットから起き上がると首を左右に振り榊を発見した。

「榊さん!」
「かおりん!…良かった」
「え?え?どうしたんですか榊さん?それにここは…?」
「ここは病院ですよ。かおりんさん。今日はお迎えに来ました」
「え?何だかよくわからないけど2人で迎えに来てくれたんだー。榊さんありがとう!!」
「榊さん…かおりんさんは目覚めたばかりなので前後の記憶を忘れているんですよー」
「え…」

ベットから起き上がったかおりんには聞こえない小声で隣の榊にちよは告げた。

「忘れている…?」
「あとで話しますね…榊さん、かおりんさん行きましょう」
「…うん」
「待ってー…ここって病院にしては暗いわねー」
「かおりんさん、今は真夜中なんですよー」
「ふーん…」
「はーい♪皆さん退院おめでとうございまーす!!」

3人が病院の玄関から出た時、なんの予告もなしに暗闇の中から全身青いドレスのようなも
のを着た女性が現れて近づいて来た。胸には「SMART BRIN」と銀色の文字で書か
れていた。

「…2人は下がっていてください」

榊とかおりんに合図するとちよは一歩進み出て、その女性に声を掛けた。

「スマートレディーさん、用件は何でしょうか?」
「ちよちゃん、そんな恐い顔しないでください。お姉さん泣いちゃう。えーん」

両手を顔に持っていき目を拭くしぐさをする彼女はスマートブレイン社の中核を支える存在
スマートレディーであった。

「…今ここで私と戦いますか?」

ちよは殺気立っていた。後ろから2人の様子を見ていた榊とかおりんは気付かなかったが、
先程のかおりんと同じようにちよの額に純白の紋章が浮かび上がっていた。

「どうしてちよちゃんはそんなにお姉さんを嫌うのかなー?」
「…帰って村上さんに伝えてください。私は決して…あなた達とは手を結びません」
「えーん。悲しい。でも…気が変わったらいつでも呼んでネ!それじゃあまた、ね」

元気よく3人に手を振りながらスマートレディーは現れた時と同じく再び闇夜に姿を消した。

「今のは…」「ちよちゃんあの変な服着た人一体だ、誰なの?」

2人は今の女性のことを尋ねた。ちよはただ一言

「榊さん、かおりんさん、今日は遅いので私の家に泊まっていってください。詳しいことは
 明日お話しますから」
「…わ、わかった」「は、はい」

と言った。逆らいがたいちよの言葉に思わず2人は首を振って同意し、ちよの家に宿泊する
ことになった。かおりんは落ち着かない様子で隣の布団に横たわっている榊に声を掛けた。

「榊さん、私達一体どうしたんでしょうか?」
「…私にもわからない…でも…」
「でも?」
「ちよちゃんは知ってると思う…」

―交通事故に遭遇したはずなのに無傷である自分の身体のこtも
―かおりんの顔に一瞬浮かんだ紋章のことも
―ちよの帰国理由も
―闇夜から現れ闇夜に消えていった謎の女性のことも

「…明日になればきっと、ちよちゃんが教えてくれるよ…」
「そ、そうですよね!…安心したら眠くなっちゃった。榊さん、おやすみなさい」
「…おやすみ」

かおりんに眠りの挨拶をしたあともしばらく榊の頭を口には出せなかったたくさんの謎が駆
け巡ったが、考えることを諦めた榊はゆっくりとまぶたを閉じて長い夜を終えた…

【Open your eyes for the next AzuΦ's】

「誰にも私の邪魔はさせん…」
「はぁーい☆皆さんこんにちわ」
「あかんで!これはちよちゃんのや!」
「神楽行っけーーー!!」

【アズファイズ】
【第03話/Unknown】

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