あずまんが大王で仮面ライダー龍騎in名無士郎
【名無士郎】
【第03話】

榊のデッキはコウモリの、歩のカードは龍の、それぞれ紋章のついたケースに収まっている。
 まず榊がケースからカードを取り出し、テーブルに並べた。

 「これがデッキの内容…カードの枚数はそんなに多くない」

 「ふむふむ」

 「基本的には、トランプみたいにカードをシャッフルする必要は無い。同じカードが一つ
のデッキに入ってる事は稀だし、むしろカードをどういう順序で並べるかが重要だ」

 「そうなんやー? なんか適当に切って(シャッフルして)入れといたらええんか思とったわ」

 「…例えば、自分の素早さに自信があれば、ソードベントを最初に使ってまず剣を持ち、
一気に相手の懐に入り込むという方法もある。逆に…」

 榊が歩を一瞥して言う。

 「足に自信がなければ、相手が自分の間合いに入ってくるまでの間にガードベントを発動、
攻撃を受け止めるという方法もある」 

 彼女の説明は一つ一つが解り易く、また親切だった。
 本来ならばライダーは敵同士である。その敵に対し有利な情報を与えるばかりか、自らの
デッキの中身まで晒して戦い方を教えるなど本来は自殺行為に等しい。これは榊に、歩と戦
う意志が無い事の証明であり、且つ彼女を“仲間”と認識し、信頼 している故の事であろう。
 果たして彼女―歩―にどこまで理解できているかは定かでないものの、榊は基本的な戦い
の流れを順当に説明していった。

 「取り敢えず、私が知る限りの…戦いの流れはこんな感じだと思う。後は実際に使ってみ
たほうが早いかも」

 「そうかあ…」

 「あと、殆どの…いや、全てのライダーに共通のカードに……“ファイナルベント”が在る」

 「あーそれなら知っとるでー? 榊ちゃんがクモの怪獣に使ったやつやろ?」

 「うん。あれがライダー同士の戦いの勝敗を左右する、大事なカードだ」

 「あー…でもあかん。あたしあんな派手にとんだりはねたりは出来へんねん」

 「それは大丈夫。あれは身体が自然に動いてくれるから…」

 「そうなんやー…」

 「私もそうだったけど…初めて使うときは多分、怖いと思う」

 「怖い?」

 「うん…」

 榊の言う通り、ファイナルベントはライダーバトルにおける重要な鍵となるカードである。
 完全な形で決まれば、その一撃だけで相手を確実に死に追いやることが可能な、文字通り
必殺の切り札だ。
 榊自身もこのカードの威力は十分に知っているし、だからこそこれまでも、モンスター相
手に使うことが殆どだった。

 「ほんなら榊ちゃん、まだライダーをやってもうた訳や無いんや」

 「うん…いや…」

 榊は否定した。一度だけ使った事があった。

 「神楽…さんに…」

 神楽(かぐら)…。
 当然、歩もその名前は知っていた。やはり嘗てのクラスメイトである。
 水泳部所属、運動能力では一目置かれた、そして何かと榊に勝負を挑んでいた女性だ。
 歩にとっては何よりも、高校時代に“ボンクラーズ”なるトリオを組んでいた仲間でもあった。
 しかし、その彼女に対し榊がファイナルベントを使ったという事は…。

 「ま、まさか! 榊ちゃん、神楽ちゃんを…こ、殺…」

 「い、いや…。勝てなかった………」

 「え? ちゅう事は、榊ちゃんが死…い、いや…うー…」

 「だから、その…、引き分け…」

 「あー…」

 そう、榊は、初めてライダーとしての神楽と再開した時、彼女と戦っている。
 互いのファイナルベントが正面からぶつかり合い、共に倒れる結果となったのだが、直後
に意識を失った榊は時間切れ寸前、神楽の手によってミラーワールドから救出されていた。
 勝負としては引き分けだが、榊自身は破れたと感じていた。
 神楽にとってもその時の戦いは納得いかないものであったらしく、彼女は再戦を望んだが
榊にその気が無く、結局そのまま別れてしまった。

 神楽は神楽で、きっとどこかでモンスターと戦っていることだろう。或いはライダーと…。

 その時、二人の耳にあの音が聞こえてきた。
 モンスターがミラーワールドと現実世界の境界に接近してきた事を知らせる音だ。
 まるで魚が水面を揺らし、それが空気中を音として伝わるが如く、彼女らはモンスターが
揺らした鏡面の“音”を聴く事が出来るのだ。

 「榊ちゃん、これはもしかして…」

 「うん…」

 二人は立ち上がり、その部屋の主の印象と程遠い、愛らしいぬいぐるみが飾られたショー
ケースの前に立った。
 榊がそのガラス戸に向けてカードデッキを突き出すと、歩もそれに習い、デッキをガラスに映した。
 ガラスの中の自分にベルトが装着される。榊には馴れた事であったが、歩はいつのまにか
現実世界の自分にもベルトが着けられている事に少し驚いた。

 「変身!」

 榊が叫ぶ。

 「へんしん!」

 継いで歩も叫んだ。
 室内が眩い光に包まれ、傍で見ていたマヤーも思わず目を閉じた。
 ほんの一瞬の出来事だが、次にマヤーが目を開けた時、二人の姿はそこに無かった。

 二人が現れた先はミラーワールドだった。
 既に両者ともにライドシューターを降り、デッキからカードを抜いていた。
 ナイト―榊―が最初に引いたのは“ソードベント”
 榊のバイザーは剣の姿をしており、“ダークバイザー”という名が付いている。
 スロットを開きカードを挿入すると、認証を伝える声と共に契約モンスター“ダークウィング”
が彼女に剣を与えた。

 龍騎―歩―が引いたのは“ストライクベント”
 彼女の左手に装着された“ドラグバイザー”にカードが挿入されると、彼女の契約モンスター、
ドラグレッダーがその頭を模したグローブを彼女の右腕に装着させた。

 「怪じゅ……モンスターはどこやー?」

 「気をつけて、姿が見えなくても…気配はある!」

 「……」

 榊の勘は半分的中していた。
 その時確かに、物陰から二人を見つめる者が居たのだ。
 しかし………。

 《ソードベント》

 「!?」

 聞き慣れた認証音声と共に榊めがけて飛びかかって来たのは、モンスターではなく…。

 「ライダー!?」

 辛うじて斬撃を受けとめ、腕力で圧し戻す。
 瞬間、相手も転倒を避ける様に後ろに跳び、榊も後退した。
 
 榊と歩には初めて見る相手だった。
 キングコブラを模した表貌…王蛇である。

 「驚いたな、あたし達以外のライダーなんて初めて見たよ。」

 「…達?」

 榊もその言葉に驚いていた。
 彼女の言う“達”が、自分を指す言葉で無いのは明白だ。
 歩もついさっきまでライダーの事など知らなかった筈…。

 榊は戦況が不利であると直感した。
 少なくとも一人…。或いはそれ以上のライダーがまだ何処かに息を潜めて隠れている。

 短い沈黙の後、先に口を開いたのは王蛇の方だった。

 「解るよ。あんたはあたしの仲間が何人いるのか警戒している…」

 「……」

 「安心してよ、あたしの他には一人しか隠れていない。つまり…二対二さ!」

 二対二…。
 榊は彼女から異様な殺気を感じていた。このライダーは自分を倒す気だと。
 恐らくは…手加減すれば命は無い!
 王蛇はカードを引かない。
 榊も引かなかった。相手のカードが読めないのだ。出来る限り手の内を晒すのは避けたい。

 二人は剣と剣の戦いを選択した。
 数秒の睨み合いの後、先に間合いを詰めて来たのは榊だった。
 10余メートルの空間が一気に意味を失う。

 「なにっ!?」

 王蛇の剣が辛うじて間に合った。華々しい火花が幾条もの線を引き、その隙間を縫う様に
剣がすれ違う。
 その場に立ちすくむ暦と、利き足で素早く制動し、暦の方向に剣を向ける榊。剣の方向を
固定したまま、僅かに遅れて榊の身体も暦の方へ向いた。

 「流石だね、高校時代の俊足は全く衰えてないじゃないか………なあ榊?」

 「なに…!?」

「なんだ、声聞いて判ってくれないのか?」

 その声に先に気付いたのは龍騎―歩―だった。

 「あー、よみちゃんやー!」

 「水原…さん…」

 榊も水原 暦の事はよく覚えていた。彼女がライダーになっているであろう事も、ある程
度予測はしていた。
 しかし、まさか彼女から本気の殺意を感じようとは…。

 「ライダーになるって、意外に面白いもんだね…。普段の自分に出来ない事が出来るのは爽
快だ。特にモンスターを血祭りにあげた時なんて、柄にも無く…ぞくぞくするよ。ましてや…」

 榊の背中に冷たいものが走った。声こそ暦のものだが、その言動は明らかに榊の知る彼女
のそれではなかった。

 「ましてや…ライダーを倒した時の、あの快感ときたら…ふっ、ふふ…」

 榊の心臓が早鐘の様に打たれる。彼女は既にライダーを倒している…もしかしたら殺して
いるのかもしれない…。
 暦が片手に剣を提げ、悠々とした足取りで近付いてくる。身じろぎもせず榊はその場に居た。
 いや、動けなかったというのが正確かもしれない。動けない足で、それでも剣を構え、上段か
ら振り下ろされた暦の剣を受けとめた。想像以上に重い剣の一撃、榊の動揺はまだ続いている。

 「どうしたんだい? 榊ってのはそんなに弱い奴だったっけ?」

 暦が剣に全体重を乗せる。未だ気圧(けお)された状態の榊はあっさりと片膝を着いてしまった。
 二つの剣の接点が暦と榊の間で小刻みに震えながら、ゆっくりと往復する。

 「榊ぃ、あんたが強い事はちゃんと知ってるんだ。そろそろ本気だしてくれない?」

 「み、水原さん…」

 ―戦えない―
 榊はまだ、ライダーを倒した事がない。それは彼女の迷い…心の弱さが原因だった。

 しかし…。

 同時に誰一人死なせないという、強い決意によるものでもあった。

 「水原さん…、ライダーを…他のライダーを…………殺したの!?」

 「そうだと言ったら?」

 次の瞬間、暦の足が激しく地面を擦る。榊が立ちあがり、暦の剣を彼女ごと押し戻したのだ。

 「さ、榊…!?」

 榊が剣を構え、暦に向かい突進する。
 無論、殺意はない。彼女の決意がそれをさせない。
 しかし、それで暦を倒せるのか。
 止めを刺す事は出来ない。

 ―ならばどうする?―

 決意と迷いの中、榊の剣が暦の胸に到達する事はなかった。

 「はっ!?」

 暦は軽やかに身をかわし、擦れ違い様に剣の柄を榊の肩に振り降ろした。

 よろけて足が止まる榊、暦はその瞬間を逃す事無く、榊の腹を蹴り上げた。

 「うあ!」

 激しい痛みに榊はその場にうずくまる。
 そして、混乱した頭で考えていた。
 何故、暦にこんな動きが出来るのか…!?

 「驚いた? あたしもビックリだよ。なんかね、ライダースーツってのは着る人間の動きを
補助してくれる様になってるらしいんだ。重要なのは基礎体力、あとは相手の攻撃に合わせて
動きを最適化してくれるんだって」

 「………」

 「皮肉なもんでさ、榊…あんたみたいに自分の動きの型が決まってる人間…体が勝手に動い
てくれるような人間にはその、最適化が働かない事があるってさ」

 「な、なんで…水原さんがそんな事…」

 「なんでだろうね? でも…ちよちゃんがそう教えてくれたんだ。ふふふ、あたしに期待し
てるのかな?」

 暦が剣を振り上げ、榊を滅多打ちにする。遠目に見ていた龍騎―歩―が思わず目を瞑ってし
まう光景だった。
 凄まじい剣の応酬に為す術なく、榊は這いつくばっていた。

 「あああ、どないしよ…このまんまじゃ榊ちゃんえらい事に…」

 歩は榊をなんとか助けようと考えた。
 思考は何度も袋小路にはまり、何も思いつかなくなった時、最後に思い当たったのが…カー
ドデッキだった。

 「こ、これや!」

 早速カードを一枚引こうとする。しかし、失敗。

 理由は彼女の右腕にあった。そこには、真っ赤な龍の顔が…。

 そう、歩は既にカードを引いていた、それを今まですっかり忘れていたのだ。
 歩はそれを見つめ、榊達を見つめ、意を決した様に、その場に仁王立ちになった。
 そして左足を榊達の方に向け、右腕を引き、王蛇―暦―に狙いを定めた。

 「え、えーい!」

 歩が右腕を突き出すのとほぼ同時に、上空から降りてきた龍―ドラグレッダー―が火球を吐
き出した。
 火球は歩の右腕が向いた方角を正確に追いかける。即ち、王蛇の頭めがけて…!

 直前にカードを引いていたのでは多分、認証音声を聞かれて相手に気付かれていただろう。
 今回は歩の「トロさ」が幸いしたと言える。
 多分、暦にとっても…。

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