あずまんがー龍騎!
【あずまんがー龍騎!】
【第37話 : 目覚めの時】

全てが乾き尽くした大地の上で千尋という名の少女が1人途方に暮れていた。

『ここって…どこだっけ?』
『お前の無意識の世界だ』

千尋が振り返った先に1人の男がいた。熱気さえ漂う大気の中、顔色1つ変えること
なくロングコートを羽織っているその姿は奇怪であった。だが、なによりもその男を
印象付けるのは姿かたちではなく、その吸い込まれていきそうな深淵の瞳であった。
千尋はしばし状況を忘れてその男の瞳に魅入られていた。

『…』
『…』
『え、えっと、あなたは誰ですか?』
『神崎士郎…千尋よ。約束の時だ…』
『?』

神崎士郎の言葉に首をかしげる千尋。

『…ボルキャンサー』

その言葉を合図に突然千尋の前の大地が盛り上がって何かが現れた!

「きゃあああああ!!」

悲鳴を上げながら千尋はベットから身を起こした。

「な、なに?今の…」

千尋の尋常ならざる悲鳴は隣の部屋で寝ていた母親にも聞こえたのだろう。ベットに
座った母親は千尋の手を握り締めながら心配そうに声をかけた。

「千尋どうしたの?」
「あ、お母さん…ううん。何でもないよ」
「そう…何かあったらいつでも呼ぶのよ」
「うん。お母さん」
「おやすみなさい千尋」
「おやすみなさい」

―バタンッ

部屋の扉が閉められ、千尋は再び1人になった。時計を見るとまだ午前3時であり、
千尋はもう一眠りすることに決めた。

「ふあああ…おやすみ」

誰にともなく挨拶して再び千尋は夢の中へと戻っていった。醒めない悪夢の中へと…

『きゃあああ!!』

ミラーワールド内に連れ込まれた千尋は背後から迫り来る醜悪な怪物から必死で逃げ
惑っていた。その怪物は両手に巨大な鋏を持ち、見るからにがっしりとした装甲で、
大地に紛れ込み目標をを捕獲する為の保護色である黄土色の身体を持つモンスター、
ボルキャンサーであった。

『ぐっ!?』

追い詰められた壁際で、喉を捕まれ持ち上げられた千尋はそのまま為す術もなく怪物
の開かれた口が近づいてくるのをただ黙って見つめることしか出来なかった。

(お母さんより先に死んじゃうなんて…ごめんなさい)

不思議と落ち着いた心で千尋は目を閉じて最後の時を受け入れた。ミラーワールドに
しばしの時が刻まれた。

『…?』

しかし一向に始まろうとしない終焉に疑問に感じた千尋は恐る恐る目を開けてみた。
見るといつのまにかモンスターの鋏の拘束から解除されており、その隣に見知らぬ
男が立っていた。

『…死が、怖くないのか?』
『え?』
『何故死を恐れない?』

男は食い入るように千尋を見つめていた。男の様子にためらいながらも千尋は答えた。

『…私には何もないから受け入れるしか出来なかっただけ…』

千尋は寂しそうに笑いながら言葉を続けた。

『私はいつだってそう。何もないから…黙って受け入れるの』
『…おまえはそれでいいのか?』
『それしか出来ないから…』
『おまえの名前は?』
『わ、わたしの名前は千尋です。あの…あなたは?』
『神崎士郎…』

神崎は千尋に近づくと黒く、長方形の薄い箱、カードデッキを渡した。

『これはなんでしょうか?』
『すべてを凌駕する力だ。いずれわかる』
『力?…きゃ!!』

カードデッキから一瞬電流が流れた感じがして千尋は再びデッキに目を向けた。する
と先ほどまで黒だったデッキが黄色く輝きながら中央に蟹とおぼしき紋様が刻まれて
いたのである。

『やはり…ボルキャンサーに選ばれてたのだな』
『ボルキャンサー?』
『お前を襲った後ろのモンスターだ』

士郎の言葉に千尋が目を向けると膝をついていたボルキャンサーが主人に心の声を送った。

―マッテイタ…ワガアルジ…
『今のは…ボルキャンサーの声?』
『そうだ…』
『でも、どうして私が?それにここは?』
『…時がくればすべてわかる…だが…』
『だが?』

その時、士郎の頭を駆け巡ったのは一体何だったのだろうか?
戦いを止めるために戦っていたかつての龍騎?
刻々と迫る己の命のタイムリミットと戦っていたかつてのゾルダ?
いずれにせよ士郎は決断した。

『…タイムリミットを作らせてもらう…すべての生命よ、ここに集え…ソウルベント』
『う…』

千尋は強い脱力感に襲われ、徐々に目の前が真っ暗になっていった。

『なにを…したの?』
『お前の命を時がくれば失われるように設定した。今はすべてを忘れて戻るがいい』

―戦え…戦え!―

…この人を私は知っている…

―急げ…終わりが近づいている―

…終わり?…

―それだ。ミラーワールド、そしてお前の永遠の眠りの日が近づいている―

…そんな…どうしたらいいの?…

―最後の1人になるまで戦え―

…最後の1人?…

―そうだ、思い出せ千尋。いや仮面ライダー、シザースよ―

…シザース?…

―デッキを使え。そして―

―ライダー同士の戦いに決着を着けろ―

「…」

朝のさわやかな光が部屋の中に差し込み、全身に朝日を浴びながら千尋は身を起こし
たが、その瞳は虚ろだった。

「そう、私は仮面ライダーシザース。最後まで、戦い続ける存在…」

士郎によって潜在意識に刷り込まれていたミラーワールド、戦い方、現在のライダー
達の姿が急速に千尋の頭の中を駆け巡る。そして、自らの命のタイムリミットの日も。

(私はもう受け入れない…永遠の眠り、望まない未来…かつての友達だって…)

千尋は立ち上がると机の上に置いてあったカードデッキを握り締め、脳裏に浮かんだ
かつての友人の1人を襲撃することに決めた。

「…急がなきゃ」

【千尋が眠りにつくまであと―3日】

《ファイナルベント》

「てやー」

間の抜けた声ではだったが、ベルデのバイオグリーザの舌を利用したファイナルベン
ト、デスバニッシュは狙い違わずシアゴ―ストを高速で掴み上げると大空高く飛び上
がって一気に地面に叩きつけた。逆さまのまま動かなくなったシアゴ―ストを見つめ
ながらベルデは何かを考え込んでいた。

(どうした?)
「え…何でもないでー…なあグリーザちゃん」
(…何だ)
「今度一緒に海に行かへんか?」
(海?何だそれは?)
「グリーザちゃんは海に行ったことないのん?」
(ああ、記憶にはないようだ)
「ほなら今度連れてってあげるー」
「春日歩…仮面ライダーベルデ」
「?」(?)

ベルデがバイオグリーザと他愛もない安息の時を刻んでいた時、最後の戦いへとライ
ダーを導く神崎士郎の声がベルデとバイオグリーザの耳に届いた。

「あんたは誰やー?」
「神崎士郎…お前は理解している筈だ。ライダーの、宿命を…」
(この男は危険だ!逃げるぞ!)
「…ライダーの宿命って何なんや?」
(大阪!)

バイオグリーザは本能的に神崎士郎が危険な存在だと理解していた。しかしベルデは
ここのところずっと離れない心のもやもやを解決してくれるのが神崎士郎ではないか
と期待して会話を続けた。

「ライダーは戦い続ける存在…だが、それはモンスターと戦うための力ではない」
「そうやったら、私は誰と戦えばいいんやー?」

あの日ゾルダとナイトを見た時からベルデの心にわき上がっていた一つの想いを神崎
士郎は決定付けた。

「同じ仮面ライダー同士で戦え」

その言葉を聞いた途端、大阪は今の今まで自分を悩ませていたもやもやが晴れ渡って
いった気がした。

「…そうなんや。私はこんな奴等と戦ってもちっとも楽しくないで」
(どうしたんだ歩?あんなに同じライダー同士で戦うのを拒んでいた筈だぞ…)
「そうだったん?でも、もういいんやー」

困惑するバイオグリーザ。以前から予兆はあった。戦う度に大阪がぼーっとする時間
が長くなっていったこと、共鳴を聞きつけて場所にモンスターしかいないのを見て大
阪が少しがっかりしたような動きをしていたこと。だが、全ては遅かった。

「私は…私はもっと強い相手と戦いたいんや!」
「そうだベルデよ。戦え…戦え!」
「そうや!私は戦うんや!…グリーデちゃん行くでー」
(バイオグリーザ!)

…大きすぎる力は人を狂わす。ベルデの力は大阪には大きすぎたのだろう。今まで必
死に残っていた理性でモンスターと戦い続けていたベルデであったが、士郎の今の一
言で最後に残っていた理性の欠片が砕かれた。ベルデはミラーワールドをひたすら走
り続けた。命の奪い合いという激しい戦いが出来る相手を、己の力に優るとも劣らな
い好敵手、仮面ライダーを求めて。

「うまいこと大阪さんを戦いに参加させましたねー」
「リュウガか…」

士郎は振り向きもせずに相手を言い当てた。そんな士郎にリュウガは先日のタイガと
の戦いで生まれた疑問をぶつけた。

「榊さんに新しいカードを与えたことを士郎さんはわざと黙っていましたね?」
「…」
「黙っていましたね?」
「…」
「別に責めているわけじゃないんですよー。ただ…私にもください」
「…」

士郎は一枚のカードをリュウガに放り投げた。受け取ったカードを見つめるリュウガ。

「炎のサバイブですか!ありがとうございます!…でも士郎さんはどうして急にまた
 動き出したんですか?」

リュウガには、千尋を期限付きでシザースとして目覚めさせたことや、ベルデをライ
ダー同士の戦いに仕向けた士郎の態度は事を急いでいるようにしか見えなかった。

「らしくないですよー士郎さん」
「…。ライダー同士の戦いの先に何があるか、おまえにはわかる筈だ」
「でも優衣さんの20回目の誕生日まではまだゆとりがありますよ?」
「コアミラーの限界が近づいている…このままだとあと3日で終わりだ」
「!!…それは…予想外ですね」

ミラーワールドの核、コアミラー。コアミラーはエネルギーをモンスターという形で
具現化し新たなエネルギーを獲得する目的で人間を襲撃し、その生命エネルギーをコ
アミラーに補給していた。この一連の流れでモンスターはより一層強くなりその数が
増えていく。だがちよに選ばれた仮面ライダー達は

「モンスターから人を守りそしてコアミラーを見つけ次第破壊して欲しい」

というちよの願いを受け入れ、日々人間を襲撃し、エネルギーをコアミラーに供給し
ようとするモンスター達を撃退していったのでコアミラーの活動停止までもはや時間
がないことを士郎は知って動き出したのであった。最後の戦いに向けて。

「お前も戦え…己の命を守る為に」
「そんな運命に巻き込んだ士郎さんに言われたくないですけどね…」

だがリュウガも士郎の言葉に同意したのだろう。仮面の中に隠れている素顔はいつに
なく厳しい表情をしていた。

―急がないといけませんね。だって私も…

シザース、ベルデ、リュウガ。こうして彼女達はライダー同士の戦いを選んだ。運命
を変える為に、己の全てをかけて戦う為に、自身の命の為に…

【コアミラーの限界まであと―3日】

【次回予告】

「ちぇー。よみのけーち!だから太るんだよ!」
「はい!」
「行こっかボルキャンサー」
「そんなこと、私が絶対にさせない!」

【生き残らなければ真実も見えない。ライダーよ、生き残るために戦え!】

【あずまんがー龍騎!】
【第38話 : 失われた螺旋】

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