LastKaixa
【ラストカイザ】
【第03話/奪われし記憶】

―う…身体が…酷く痛む…それに暗い…? ここは…?

全身を走る苦痛が草加を安息の眠りから呼び覚まし、過酷なる現実に気が付かせた。

「嘘だ…嘘だぁぁぁぁ!!!!」

………
……


ソファーに寝転んだままテレビを見ている、テコでも動こうとしない同居人の1人、
巧の態度に真理は頬を膨らましてもう1人の同居人、草加を急かしながら外に出
た。時間差で出て来た草加と一緒に歩き出すや真理は火を吹いた。

「もー、巧ったら…こんな大事な日に参加しないなんて信じられない!!」
「乾君はきっと、日頃の疲れが溜まっているんだよ」

淡く街灯だけが照らす街並みで、寄り添うように隣を歩いている草加のフォローを
聞いて真理は勢いよく反論した。

「今日は流星塾の同窓会なんだよ!? 皆が集まるのに巧だけ来ないなんて…」

今にも回れ右をしてやっぱり巧を連れて来る!…と、言い出しそうな真理の不服そ
うな態度に、草加は言葉を付け足した。

「…きっと、気をつかっているんだよ」「え?」
「乾君が流星塾に居た時、みんなと衝突ばかりしていた。多分そのことを思い出し
 て、自分が参加することで今日という大切な日を壊したくないんだよ」
「それは…でも巧にだって、いつも何か理由があったでしょ!」
「ああ。それは間違いない」

迷う素振りも見せずに頷くそのタイミングで、草加が巧のことをどれだけ信用して
いるのか感じ取れる。真理とて同じだ。他人とよく衝突することはあっても、決し
て筋が通っていない行動はしない乾が、皆のことを考えて自分だけソファーに寝転
がっている。真理は軽く溜め息を漏らした。

「…ホント、巧って不器用な性格なんだから! よーし! こうなったらうんと楽
 しんで、うんと自慢しちゃうんだから!」

真理の言葉から巧を挑発して次は絶対参加させようということを察し、草加もニヤ
リと笑う。

「ああ見えて負けず嫌いな乾君のことだ、そしたら今度は参加してくれそうだね」
「うん! じゃあ草加君、早く行こっ!」

言うが早いが真理は草加の手を掴むとタクシー乗り場まで走り出した。

―乾君に今度、ご馳走でもしないといけないな。

走りながら草加は、自分が持つ真理への好意に、巧がそれとなく配慮してくれたこ
とに、真理の手を通して今更ながら気が付き感謝した。

「え? 草加君何か言った?」「なんでもないんだ」

満面の笑顔を真理に向けて、今度は草加がリードをするように真理の手をしっかり
と握り締め、間近に迫ってきたタクシー乗り場に向かって走り続けた…

いくら時間が経過しても少しも変わろうとしない風景を前にして、これが自分達が
普段生きている現実だということを、草加は認めざるを得なかった。

胃が反転するような嘔吐感。
生命自体が流れるような血。
身体を襲う暴風の如き激痛。

問題なのはそんな痛みや苦しみなどではない。問題なのは…

「ぅあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

獣の如き哀しき咆哮が大地を奮わせる。だがその咆哮に応じるものはもはや…誰も
いなかった。

「ぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!」

過去と現実の祝日である筈の同窓会のこの日。草加は除く全ての流星塾生が大地を
床に砂埃を毛布に石を枕にして永遠の眠りを貪っていた。草加は身体を襲う全ての
痛みと苦しみを無視して、寄り添うように倒れていた真理の背中に手をやった。

「っ…!!」

生温い感触に鳥肌立ち、ガタガタと音を立てて震えながら自らの手を見た草加はこ
うして倒れ伏せている仲間達全員が、生あるものの最後の宿命を受託していること
を確信した。

「真理…」「…」「真理…」「…」「真理ーー!!!!」「…」

それでも草加は真理の名を呼び続ける。想い人である真理を、同居人である真理を、
長馴染みである真理の名を…

「…真理、流星塾に着いたよ」

悲惨な事故で両親等を失い、孤児となった子供達を養育する為の施設、流星塾。も
っとも、そうした目的で流星塾が運営されていたのはもっぱら10年前までの話で、
今日という特別な日まで門は堅く閉ざされていた。たくさんの想い出が残っている
懐かしき母校、流星塾が真理と草加の目の前にそびえ立ち、歓迎するように開かれ
た校門をくぐり抜けて同窓会の会場である職員室へと真理と草加は足を運んだ。

「…!! 三原君、真理ちゃんと草加君が来たわよ!」

廊下に取り付けられている窓から腕を組んで外の景色を眺めていた里奈は、職員室
目指してやってくる真理と草加を発見し、職員室の扉を飾り付けをしていたおっと
り者の流星塾生、三原に報告した。

「え、もう!?」

同窓会決定の連絡があった日、里奈と一緒に飾り付けの手伝いを申し出た三原は、
予定より早くかつての流星塾生達が来訪して来たと知って思わずまだ貼り付けてい
なかった折り紙の飾りを落としてしまった。ちなみに隅の方で壁に貼ってある狸や
馬などの動物折り紙を折っていた折り紙好きの澤田も、真理という単語に反応して
一瞬手を止めたりする。落とした飾り付けをあたふたと拾う三原に苦笑しながらも、
一緒に拾い集めていた里奈はパッと顔を明るくして2人に提案した。

「そうだ! 三原君、澤田君!」
「…あれ? 電気、点いてないね?」

懐かしき廊下を歩きながら職員室に辿り着いた2人は集合場所である筈の職員室が、
照明灯も点いていない人気の無い状態を見て首を傾げた。

「早過ぎたんじゃないかな?」「そんなことないと思うんだけど…」

困惑しながらもハンドバックを探って葉書に書いてある集合時間を確かめようとし
た真理と草加に、ひやっとした感触が襲い掛かった!

「きゃっ!」「んっ!?」「い、今のなに草加君? もしかしてお、お化け?」

微かに開いている職員室の扉から、再びひやっとする物体が真理と草加目指して飛
来してきたが、目敏く気が付いた草加が、左手で真理を自分の後ろに押しやり、右
手で3つのひやっとする物体を叩き落した。おそるおそる、草加の背後から床に落
ちている物体の正体を確かめる真理。

「…こんにゃく?」「どうやら、そうみたいだ!」

勢いよく職員室の扉を開けた草加の顔に幼少の光が甦った。同じく真理も悪戯っ子
のような光を宿して元気よく職員室に飛び込んだ。ぼんやりとした月の光の中、置
き去りにされているハサミや壁に貼り付けてある折り紙から、ここで誰かが作業を
していたことがわかり真理と草加は顔を見合わせて笑顔になった。

「隠れたって無駄だよー♪」「かくれんぼ…って解釈でいいのかな?」

無邪気な笑みを浮かべて長テーブルの下やソファーの後ろ、個々の机の下からこん
にゃくを投げた犯人達を探す真理と草加。しかし誰も見つからない。

「おっかしいなー?」「隣の部屋も探してみようか?」

職員室の扉を開けたその時!

「「「わっ!!!」」」

里奈、三原、澤田の3人は声を合わせて最後のトラップを発動させた。そう、こん
にゃくを投げた里奈と三原と澤田は、素早く反対側の職員室の扉から外に出て、廊
下で真理と草加を待ち構えていたのだ。

「もー! 里奈、三原君、それに澤田君まで…心臓が止まっちゃうかと思ったわよ!」
「ごめんごめん」
「ごめん! 久しぶりだし、里奈がどうしても驚かしたいって言うから…」
「真理…それに草加、元気?」「ああ。君も元気そうだな」

一部火花が飛び散っていたりするけど、何はともあれ再び職員室の飾り付けが再開
された。時間が経つにつれ増田先生、太田、沙耶、西田、青沼…と次々と仲間達が
集まり、予定時刻になる頃には巧以外の流星塾生が全員揃って、宴が始まった。

「沙耶すっごい美人になったね!」「え…そんなことないよ…」
「おーい新井、見ていないでおまえもこっちで何か食えよー」
「澤田、ほら、おまえの分」「ありがとう」「折り紙のお礼だ」
「乾君はどうしたのかね?」「乾君は、身体の調子が悪いらしく…」
「そうか…残念だ。ところで草加君は今…」

あらかじめ用意していた食事と飲み物は瞬く間に流星塾生達の中へと消え去り、少
し身体を動かそうという増田先生の提案に従って運動場に移動した流星塾生達は、
昔のようにサッカーをしたり、追いかけっこをしたりと、終わりを知らせる異邦人
が訪れるその時まで、かけがえのない想い出を作っていた…

「…っ!!」

今となっては何が原因でこうした惨劇になり、終わったのかなどは草加にとってど
うでも良かった。未知の生物の襲撃から生き残った草加は、仲間達を助けること、
出掛ける前に乾と交わした約束を何としても守ることだけが頭にあったが、素人目
でも真理や仲間達の傷は助からないと容易に判断出来た。そう…普通なら。

「スマートブレインなら、きっと、真理や…仲間達を…!!」

流星塾生として迎え入れられる時、自分達の致命傷を流星塾の専属スタッフであっ
たスマートブレインの医療班が治療してくれたことを草加は忘れていなかった。痛
む身体を暴君の如く鞭打ち、流星塾生達を弔い代わりに木蔭に集めた草加は、最後
に真理を抱き抱えると、ふらふらと闇の中へと溶け込んでいった…

―花形社長を呼んでくれ!早く!
―…私が現社長の村上です。どういったご用件ですか?
―見ればわかるだろ! 真理を…彼女を救ってくれ!
―それは…利益になりそうにない話ですね。
―真理は父さんの…花形前社長の娘なんだぞ!
―関係ありませんね…と普段ならお断りしますが…そうですね…取引をしませんか?
―取引…だと?
―ええ。取引です。彼女を救いましょう。ただし…
―待ってくれ! 他にもまだ助けて欲しい仲間達が居るんだ!
―…彼女達を救いましょう。ただしあなたには3つ、お願いがあります。
―真理を…仲間達を助けてくれるんだったら、どんなことでもやってやる!
―…その言葉、忘れないでくださいね。
―何だお前達は? うわ! なにをす…
―彼女も一緒にラボへ連れていきなさい。良い実験材料になってくれるでしょう…

「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!」

草加は自分の悲鳴でスマートブレインに支給された部屋のベットから目を覚ました。
草加が仲間達を助ける為に村上と交わした契約の1つめである謎の赤い液体が入っ
た注射器の投与によってもたらされた地獄からの贈り物は、草加が気を失うまでひた
すら身体の末端に燃え盛る炎の如き激痛を与え続けていた。

「っはあ…っはあ…っはあ…!! くぅああああ!!!!」

覚醒すると同時に当然とばかりに激痛も甦ってきたので草加は握りしめた拳で痛みを
ベットに訴えた。

「!?」

あっけなく穴が開いたベットにたじろいだ草加が己の拳に気が付いた。

「これは…何だ?」

鋭利な爪先。
無数の凹凸。
灰色の皮膚。

明らかに昨日まではなかった特徴が拳から肩まで侵食していた。草加は覚悟を決めて
自分の上に掛けられていたシーツを剥がした。上半身裸で眠っていた草加の身体は…
一夜で大きく変化していた。両肩から拳に掛けて凹凸のある灰色の皮質で覆われてお
り、鳩尾には白亜の円盤状の組織の塊が浮かび上がっている。骨盤付近にも同様な変
化が見られることから、ズボンの下の両脚も、両腕と同じような変化をしていること
が想像出来る。草加はあまりにも非現実的な実験結果に歯軋りした。

「これが…これが実験の結果だって言うのかー! …うおおおおおお!」

草加は痛みと怒りのあまり、部屋のカーテンや、テーブルに置かれていた花瓶、戸棚
を破壊し続けた。数十分経過した時、草加の手で凄惨な装飾がされた部屋の扉を開け
る者がいた。

「…目が覚めたようですね」「!! きっさまー!!!!」

ベットに内蔵されてある心電図から覚醒を知って来訪した村上。怒りと痛みをぶつけ
る格好の相手を見つけて草加は、壁を垂直に走りながら突進した。殺意がトリガーと
なって草加の両手の爪先1本1本が大型ナイフのように鋭く伸びて村上に振り下ろさ
れた。鋼鉄すらも切り刻める草加の爪は、同じような皮質に変化した村上の拳によっ
て弾かれた。

「中の上…と、言ったところですね」

村上の冷静な分析が、わずかに残っていた草加の理性を奪った。

「おまえは! 俺に! 何をしたんだ!」

指先から奏でられた10の切っ先が閃光を放ち、乱舞したが、村上の変化した右手の
前で刃は全て受け止められ、へし折られた。

「私にこれ以上攻撃を行うのは…愚の骨頂ですよ?」

村上の言葉が終わるや否、空気が急速に冷え、絶対零度を連想させる村上の視線だけ
が周囲を支配していた。草加は村上から、決して埋めることの出来ない実力の違いと、
凄まじいまでの殺気を肌で感じ取って本能的に矛先を収束した。

「よろしい。まずは…おめでとうございます」
「おめでとう、だと…何がおめでたいんだ!」
「…実は、この実験で生き残った人間はあなたが初めてなんですよ」「!!」

村上の言葉に草加は息を呑み、しばらくしてから刺々しい態度で言葉を吐いた。

「…虫も殺さないような笑顔で随分と…あくどい真似をするんだな」
「社長たるもの、笑顔は大切ですから。ところで…ちゃんとした変身は出来ますか?」
「変身、だと…?」「ええ。意図的に皮質の変化を行う、ということです」

村上は今までオルフェノク記号を内蔵しているオルフェノジン溶液を投与された人間
が辿った結末、すなわち全てその場で灰になった事実を知っているので、部分的にで
もオルフェノク記号に適応した草加に非常に興味を抱いていた。

「さあね…自分ではこれ以上、どうにもならないみたいなんでね」
「なるほど…」「そんなことより真理は…仲間達はどうなったんだ!!」
「…安心してください。無事に回収は終了したのであとは蘇生手術を行うだけです」
「そうか…」

何となく村上の言葉が嘘ではないことを感じた草加から急速に刺々しい態度が消えて
いく。そんな草加の態度に満足しながら、村上は言葉を続けた。

「お会いすることも可能ですよ」「…会わせてくれるのか?」
「ええ。ただし、2つめのお願いがあります」「…言ってみろ」
「3つめのお願いが終わるまでの間、あなたの記憶を預からせてもらいます」
「!! …どういうことだ?」
「…現在、スマートブレインではオルフェノクという新たな存在を生み出しています
 が、その中でオルフェノクの義務を怠るもの、即ち裏切り者の処分があなたへの3
 つめのお願いです」
「それが記憶とどう関わりがあるんだ?」
「…処理班が途中で裏切ってもらっては困るのでね、裏切らないように最初に刷り込
 みを行うんですよ」
「その裏切り者に刷り込みは行えば話は早いだろ?」
「…あなたは飲み込みが早いですね。残念ながら、記憶に関してだけは、本人が同意
 しない限り操作は不可能なのですよ」
「…つくづく、吐き気がする会社だな」「ありがとうございます」

厭味すらも軽く受け流す村上の態度の前では、どんな言葉も効力を持たないのではと
いう疑いを持ちながらも、草加は抵抗してみた。

「…もし、イヤだ、と言ったら?」「断れるとお思いですか?」
「…………」

長い沈黙のあと草加は何があっても村上のお願いという名の強制に従わざるを得ない
現状を認識したが、それでも最後の抵抗を試みた。

「…だが、記憶を奪われたら、どうやって真理や仲間達が助かったかわかるんだ?
「ご心配なく。彼女達に関しては私が責任を持って治療します。そして裏切り者を全
 て処分し終えた時は…あなたの記憶も返しましょう」「………本当だな」
「ええ。約束です。必ず守りましょう」「…」

―真理…乾君…みんな…

目を閉じて草加は、かつての友を、かつての想い出を、かつての経験を振り返った。

―俺は…もう、戻れない…

「…決心しましたか?」「………ああ。早く案内しろ」

………
……


―はぁ〜い♪ お目覚めですか?
―おまえは…誰だ?
―私はスマ〜トレディ! 今日からあなたの教育係で〜す☆
―教育係…? 俺の…? …? …変だ…名前が…俺の名前が思い出せない…
―…あなたの名前は…

【Open your eyes for the next LastKaixa】

【お元気ですか啓太郎さん】
「よってたかって1人を苛めるとは、最低だな」
メガネを外した彼女の額に真紅の紋章が浮かび上がった。
「ありがとうございます…あの、名前を…教えてもらえませんか?」「私? 私は…」

【ラストカイザ】
【第04話/No Date】

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