あずまんがファイズinミネルヴァの梟
【あずまんがファイズ】
【第零話 [Φ's−ファイズ]】

pi-[5] pi-[5] pi-[5] 
その細い、しかし水を掻くことに適するようにしなやかに鍛えこまれた右手の人差指がボタンを押
すたび、電子音とともに少女の左手が持つ携帯電話のディスプレイに数字が打ち込まれる。

日常の場ならば、それはなんら不自然な光景ではない。
客観的に見て少し目を引く点を強いてあげるとすれば、少女の持つ携帯が、最近普及しているもの
よりも一回り以上大きいという点だろうか。
見るものが見れば、それが世界の最尖端を走る超無節操大企業・スマートブレイン社のロゴが入っ
た製品であることが分かるだろう。そして、その道に詳しいものなら首を傾げるかもしれない。
スマートブレインが新しい携帯電話を開発したなんて聞いたことがない、と。
しかし、それも別に説明が付けられぬほどおかしなことではない。

[SMARTBRAIN]、とロゴの入った、薄暗闇の中でも鈍く光る携帯を持つ少女、ぱっと分かる特徴
としても、身長は高くもなく低くもない。
髪の毛はショートでもないしロングでもない。
胸の大きさは人並み以上だが、それを本人の前で言うと彼女は激昂するだろう。
陽も落ち、生ぬるい闇の中、少女の纏っている黒の上下は闇に溶け込もうとして失敗しているよう
にも見える。その容姿の中で目を引くのは、身に着けている奇妙な金属のベルト。
しかし、それすら、この際たいした問題ではない。

そう、もし少女の目の前に、剣をもち佇む灰色の異形の存在さえなければ。
そしてその後ろに、塵と化した、かつては人間と呼ばれていた存在の成れの果ての姿がなければ。

生物かどうかも分からない異形の怪物。
その姿に似たものを探せ、といわれれば見つけることはたやすいだろう。
ただし、RPGなどのゲームの中において、の話だが。
それはまるで、ギリシャ神話のなかでミノス王が、あのイカロスの父であるダイダロスに作らせた
迷宮ラヴィリンスに閉じ込めた半牛半人の化け物、ミノタウロスそのもの。

当然ながらケンタウロスと違って、ミノタウロスの半分の牛は上半身に位置している。

まるで生命の息吹というものを拒否するように、彫像を思わせる色をしているその体。
動いていなければ、それはどこかの美術館に一流の美術品として飾られていてもおかしくはない。
そして、その事実は、それが動いている姿に、より悪夢的な印象を強めている。

少女に歩み寄ろうとする怪物のその後ろには三人分の人間が倒れ伏している。
いや、正確を記すなら、すでにそれは『人間』とよべる代物ではない。そして、それを為したのは
もちろん少女の前に立つ異形の怪物である。
嬲るようにゆっくりと歩を進めるその怪物は、明らかに少女を次の獲物に定めている。

そんな目の前の怪物にも恐れを見せない少女。少なくともその素振りは外には出ていない。
左手の携帯電話のディスプレイに表示されている、三つ並んだ[5]の文字。
そして、少女は、最後に,ENTERのボタンを強く、しかし確実に押した。
さらに、ただの一動作、勢いよく右手でそれを折りたたみ、そのまま右手に持ち替える。
そして右手とともに天高くかざされるその携帯、ファイズフォン。

『Standing by−』

まるで、次に言う言葉を待ちわびているように、その携帯電話から発せられた意味不明の機械音は、
一旦言葉を切った。それに被さるように少女が言葉を続ける。

「・・・変身!」

その言葉と同時に、ファイズフォンは少女に巻きつかれた、バックル部分がくぼんだベルト―そう
としか形容しようがない―に垂直に差し込まれた。かちりと言う音と共に、折りたたまれたファイ
ズフォンがバックルと重なる形で横倒しにセットされる。
それは、まるでそこが本来あるべき場所であるように、ぴたりと収まった。

『−COMPLETE!』

感情のこもっていないはずの機械音が、なぜかうれしそうに、あるいは誇らしげに響き渡る。

その声と連動するかのようにベルトから伸び、少女の体を覆いつくす、血の色に似て非なる紅きラ
イン。そのラインで囲まれた部分は、その紅と対照的に黒く輝き、少なくとも日常着る服の素材と
は根本的に違うなにかで包まれていく。そして、それと同時にまるでなにかから体を守るかのよう
に、胸に、足に、手に現れる銀色の甲冑。
顔には金色に輝く巨大なる眼と、まるで昆虫のような触覚。そして、見ようによっては牙−それも
肉食動物というより、昆虫のそれ−に見えなくもない口。
少女の体を一秒にも満たぬ間で覆うその装甲。
その姿はどう贔屓目に見ても、人間とはかけ離れている。
といっても、むろん、その眼前の灰色の異形と似通っている部分もない。

「キサマは・・・」

灰色の怪物の、戸惑ったようなその声。
怪物が発するのは、紛れもない、日本語。
そして、怪物の横、その影が映るはずのコンクリートの壁に映し出される、人間の姿。

「そうだな、正義の味方ってやつだろ」

「そうか、キサマ、スマートブレインからのマワシモノか・・・・・・」

「そういうこと」
怪物から発せられるうめき声に小さく頷きながらそう答えつつ、一瞥もせず彼女の手は腰につくフ
ァイズフォンをベルト=ファイズドライバからはずすと、ブラインドタッチでそのボタンを押して
いく。
ボタンを押す指が描く綺麗な三角形。

1−0−6−enter

『BURST MODE』
名称はブーストモードだが聞きようによってはバスターモードとも聞こえなくはない。
どちらにしてもたいした違いはないが。

そのまま、普通の携帯ならありえない、パネルと横方向に曲げられ、ファイズフォンは「く」の形
へと変化する。
それは、そう、見ようによっては銃の形にも見えるだろうか。
そして、それが虚仮脅しでない証に、その先には銃口らしきものまで存在する。

「ダレにもジャマはさせん、オレは、オレはっ!」

「あー、はいはい」
フォンブラスタへと変化したファイズフォンを手にしながらの投げやりなそのせりふ。
そこには余裕すら感じ取れる。
ただ油断していない証拠としてその視線は一瞬たりとも眼前の怪物からはずされてはいない。

「キサマも死ねぇ!」
なにかの危険を感じたか、剣を持ち、彼女、この状態の呼び名は仮面ライダーファイズだ、へと踊
りかかる化け物、否、不死の怪物オルフェノクに彼女はその手の銃を向けた。
そして一度だけ、トリガーにあたる部分に触れている指に力を込める。

don don don
三回の大気を焼く音と赤光に次ぎ、オックスオルフェノクの体に小さく、しかし深い穴が穿たれる。
不死でも痛みを感じるのか、うずくまり動きを止めたオックスオルフェノクを冷酷に見つめると、
彼女は最後の仕上げをすべく、ファイズフォンを元の一文字に戻してベルトに再度はめ込んだ。
ファイズフォンから引き抜かれるスマートブレインのロゴの部分『ミッションメモリ』
右腰からはずされ、ミッションメモリを差し込まれ、そのまま右足にセットされる発煙筒ほどの大
きさの筒、ファイズポインタ。

『READY』

オックスオルフェノクは剣を杖の代わりに起き上がろうとしている。
それにかまわず、彼女は再びファイズフォンのボタンに手を伸ばす。それは時間との勝負。

pi――『EXCEED CHARGE』
その音声とともに、ファイズの体を流れる、人のそれよりもはるかに鮮やかな赤き血潮・フォトン
ブラッドを通り、右足に集結しているのが分かる、何かの力。

一応このスーツのことについてはある程度聞かされているが、理解度はゼロに近しい。
携帯電話やメールの仕組みを理解している人間がほんの一握りなのと同じだ。
理解しなくても使用できるなら、無理してまで理解する必要はない。

この技は仕損じれば後がないだけに、何度目になっても慣れというものは存在しない。
ファイズとなった彼女の切り札、不死の存在であるはずのオルフェノクの存在を無に返す必殺技、
クリムゾンスマッシュ!

跳躍、そして、空中で、立ち上がったオックスオルフェノクにめがけ紅き螺旋が展開される。
さしづめ、オルフェノクにとっては釘を刺される直前の藁人形の気分だろうか、などといらないこ
とが一瞬頭によぎるが、一連の動作によどみは存在しない。

「くそぉぉぉぉぉぉ」

そして、直後、紅き煌きはオルフェノクの体を貫いた。

一瞬の後、断末魔の叫びすら許されず、クリムゾンスマッシュを受け、オルフェノクは不死のはず
の命を失い、青白い炎とともにあるべき姿、塵へと変える。


「・・・」
消滅し、ほとんど残らぬオルフェノクの存在した証、灰色の塵にしか見えないその残骸、そしてそ
のさらに先にある、中身を失った服と元は人間だったものの成れの果てに目をやると、人の姿に戻
った少女は、わずかに申し訳なさそうな表情を浮かべ踵を返した。

その背中の後ろで、彼女の髪をふわりと浮かせた、春に似合わぬ冷たい風に吹かれ、わずかに残っ
たその残骸も闇の彼方と散っていった。



Open your azu for the next Φ’s ------[覚醒‐awaking]

「は〜い、ファイズのモニタ、ご苦労様でしたぁ〜」
「約束は守ってもらえるんだろうな?」
「なんでっ!?」
「逃げても、待っとるんは絶望だけやで、神楽ちゃん・・・」
「・・・覚醒したか」

―――――戦わなければ生き残れない!

【あずまんがファイズ】
【第一話  [覚醒-awaking]】

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