あずまんが大王で仮面ライダー龍騎in名無士郎
【名無士郎】
【第02話】

 「ええっ? 榊さんと春日さんを組ませたの?」

 「はい。榊さんは強すぎるし、大阪さんは…その、弱すぎます」

 その女性の自宅の一室、彼女の愛用する姿見の中で、ちよは語る。

 「バランスをとるためには仕方なかったんですよ。」

 「でもねえ、ちょっと危険じゃないかしら? あ、ほら…春日さん運動あんまり得意じゃなかったでしょう?」

 「はい…でも…」

 「解ってるわ…仕方ない事だものね」

 「ライダー同士の戦いについては、きっと榊さんが教えてくれるでしょうから、いずれ戦いの事も理解してくれるでしょう」

 そう言って、ちよは憂いのある表情に変わった。
 嘗てのクラスメイト達を戦いに誘いこんだ時から、彼女は度々この表情を見せていた。
 一歩間違えば命を落としかねない戦い…。そんな事を仕組む様な少女ではなかった筈だ。
 10歳の時に高校に編入し、トップの成績で卒業した天才少女。それが彼女の評価であった。
 天才である事を鼻に掛けず、持って生まれた愛らしさですぐにクラスにも馴染んだ。彼女自身もとても友達思いの良い子で、
それは鏡を通して少女と話している女性もよく解っている筈だった。

 「まあ…何故あなたが私を誘ったのかは解らないけど…私は私なりの目的があるから…断らなかった」

 「私も…聞かない事にします…“黒沢先生”」

 黒沢みなも…そう呼ばれた女性は、化粧台の椅子に座って、カードデッキを握り締めた。
 姿見からは何時の間にか、少女の姿は消えてしまっていた…。



 春日 歩―大阪―は榊と共に、彼女の住むマンションにやってきていた。
 ワンルームで中程度の広さの部屋だったが、収納の多さと彼女自身のセンスで、狭いと感じる部屋にはなっていなかった。
 そして、戸棚のガラスケースの中には彼女のイメージとは違う、愛らしいぬいぐるみが並び、部屋の真ん中にも大きな犬の
ぬいぐるみがあった。

 「おじゃましますー」

 「適当に座ってて、コーヒー煎れるから」

 そう言って榊はキッチンへ入って行った。
 大阪は榊の部屋を見回し、ソファを見つけて座った。

 「へぇー…榊ちゃん、こんな部屋に住んどるんやー」

 ふと、大阪は何かの視線を感じ、その方向に目を遣った。そこには榊の飼い猫、イリオモテヤマネコが無言で立っていた。

 「ピカニャー、久し振りやなあ、元気しとった?」

 「………」

 「あー?」

 「マヤーは、中々他人に懐かないんだ…」

 紅茶を運んできた榊が言う。
 ティーサーバーから二つのカップに紅茶を注ぐ。ティーパックを使わない、ちゃんとしたリーフティーだ。
 こういう細かなもてなしが出来る女性。実は彼女の本質なのかもしれない。
 大阪は受け取った紅茶を一口味わった。

 「美味しいなあ…」

 「ありがとう」

 「それにしても…ええ部屋やんなぁ」

 「そんな…でも苦労したんだよ」

 そう、彼女はこのマンションを見つけるまでに随分走りまわったのだ。
 例えワンルームでも構わない、彼女にとっては動物連れで住める部屋が必要だった。

 「そうやなあ、イリオモテヤマネコやからなあ」

 「でも、マヤーだけじゃ…無いんだ」

 榊は、部屋の真ん中にあったぬいぐるみの背中を撫でた。
 それはゆっくりと頭を上げ、榊の方を向いた。本物の犬だったのだ。

 「忠吉さんや!」

 忠吉は、ちよの飼っていた犬である。
 ピレネーのオスで、全身を伸ばすと恐らくは榊の身長をも超えるかもしれない。
 ちよがアメリカに留学する時に連れて行った筈だったが…。

 「ちよちゃんも忠吉さんもー、なんでアメリカに行ってへんの?」

 「あの、アメリカの大学は9月からだから…」

 「そうなんやー?」

 話している間も、榊は忠吉の身体を撫でていた。
 以前の、動物を撫でたくて仕方ないと思っていた彼女と違い、今の彼女の撫
で方からは、相手を慈しむ感情が滲み出てくる様だった。
 相手の意思を無視して撫でるのは動物に対してストレスになる。彼女は獣医
を目指す過程でそれを学んだのかもしれない。

 「そういえばー…」

 「?」

 「私らの変身した、あれって何?」

 榊が言葉を詰まらせる。
 普通あんな事があれば、真っ先に出てて良いはずの質問だった。しかし、歩
の口からは一向に出て来る気配も無く、仕方なく自分から切り出す機会を狙っ
ていた矢先の事だった。

 「か、仮面…ライダー?」

 「うん、ちよちゃんはそう言ってた」

 仮面ライダーとは、ミラーワールドを行き来する事が出来、モンスターと戦える程の力を持った存在であるらしい。
 そして、その力を与えたのが他ならぬ“ちよ”であり、この戦いを仕組んだ張本人でもあった。
 彼女が何の目的でそれを行っているのかは不明だが、榊の話によると、ライダー同士の戦いの果て、最後に生き残った一人の
望みが叶うのだという。

 「なんでも…?」

 「…らしい」

 「へー、あたしなんかは向いてへんなあ。運動苦手やし」

 「大丈夫…あたしがフォローするから」

 榊はさらに続ける。
 彼女と大阪―歩―が組むことになった事、戦う相手が嘗ての級友達である事、そして、これが殺し合いであることを…。

 「な、なんやって! ころ、ころ、殺さなあかんのか!?」

 「うん…」

 「そんなぁ…じゃあ、ともちゃんやよみちゃんや…神楽ちゃんらを…殺すんか?」

 「そういう…ルールらしい」

 歩の顔が初めて青褪めた。
 無理もない、彼女はクラスでも強い立場だったとは言えないが、友達を嫌いになれるような女性ではなかった。
 想像を超えた現実、その重さに彼女は震えた。それは傍で見ていた榊にもはっきり判った。
 ティーカップを持つ手の震えで紅茶の表面に波が立ち、今にもこぼれてしまいそうになる。

 「あ、あわわ、うわ…」

 紅茶がこぼれそうなカップに気付いた歩だが、カップを降ろせば良い事に考えが及ばなかった。
 手の震えが止まらない。えもいわれぬ恐怖が心を覆いかけた時――――――――――。

 震える手を榊が握り締めた。

 「あ…」

 ゆっくりとカップを降ろさせ、尚も震える手を両手で包み込んだ。

 「あたしが護る…あたしが…死なせはしないから!」

 「榊ちゃん…」

 「誰も…一人だって死なせはしない!」 

 歩は、榊の決意を受けて頷いた。
 手の震えは何時の間にか止まっていた…。

 「わかった…あたしも腹くくるわ」

 「春日さん…」

 「戦わな、逃げられへんのんやろ?」

 逃げられないから、戦うしかない…。後ろ向きな決意だが、彼女にとってはこれが精一杯だった。

 「榊ちゃんは、何を願うん?」

 「え…?」

 「最後まで生き残ったら、なんでも叶うんやろ?」

 「……………」

 榊が再び忠吉の背中を撫でる。さっきまでは気付かなかった事だが、忠吉は何か元気がなさそうに見えた。

 「忠吉さんを…そして…」

 「そして…ちよちゃんを助ける!」

 忠吉が小さく鳴いた。まるで二人の会話を理解したかの様に安堵の表情を浮かべ眠りについた。
 それを見届けた歩が榊の方を向き直り、口を開いた。

 「よっしゃ、あたしもそれにする!」

 「………え?」

 「あたしの目的もそれや、ちよちゃんと忠吉さんを助ける!」

 「い…良いけど…」

 もし、この場に“とも”か、“よみ”でも居れば『大阪らしい』と言っていたかも知れない。
 益体も無い事には色々考えを巡らせる割に、大事な場面ではあまり考えが及ばない彼女の気楽さが、今の榊にとっては
有り難かった。
 榊は味方が…否、仲間が欲しかった。元々他人を充てにした事などない彼女にとって、とも、よみ、神楽達が仲間になって
くれるとは到底思えなかった。正直、それは歩に対しても同じだった。
 しかし、そんな彼女が他人の助けを必要としていた。
 ちよの意思によって組まされたパートナーではあったが、歩を「護る」という言葉は、実は一方的な気持ちではない。
 孤独な戦いに対する不安が、助けを求めていたのだ。

 「春日さん…」

 「なに?」

 「あ、ありが…とう」

 「え? 何が?」

 「なんでもない…」

 榊は頬を赤らめ、照れくさそうに笑った。滅多に他人の前で笑顔を見せない彼女の、精一杯の笑顔だった…。

 「あ、そうや、榊ちゃん!」

 「な…何?」

 歩がポケットからカードデッキを取り出し、テーブルの上に置いた。

 「あたしに戦い方…教えてや!」

 歩の顔は真剣だった。
 榊は、歩の顔とデッキを交互に見つめ、やがて自らもデッキを取り出した。

 「わかった…!」

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