あずまんが龍騎 ‐13 RIDERS‐
【仮面ライダーオーディソ】
【Episode 3】

「こんにちは、ちよの父です。
 前回の最後、君達に問い掛けた選択肢
 『Q 次にライダーとして戦いに参加してくるのは?』に対して君達が選択したのは……

 B 男勝りの活発さと、女性らしさを兼ね備えた少女

 彼女のことが誰だか解らなかった方が多かったようだ…… あやうく修正が必要になるところだった。
 恐らくは君達の予想通りであろう。 そう、水泳が得意なあの娘だ。
 彼女は果たして、ライダー同士の戦いの果てに何を見るのか。
 では、彼女の戦いを見てもらおう……」



まだ、寒さの残る春先のある日。 いつもと変わらない、街の風景。

その中に、彼女はいた。

名前は神楽。

彼女の表情は、暗かった。

神楽は体育大学の学生だった。 と言っても、ずば抜けて運動能力が高いわけではない。

もちろん、体育大学に進むくらいなのだから運動はできる。

しかし、大学で通用するようなレベルではなかった。

彼女は、高校で水泳をやっていた。 大学でももちろんそれを続けていた。

だが、周囲との実力の差に、人生の中で初めて挫折という感情を覚え始めていた。

「はぁ……」

ため息をつきながら、彼女は重い足取りで歩く。

先行きの見えない不安。 それが彼女の精神を不安定にしていた。


――もし、もしもこの時。

――彼女が悩みのない毎日を送っていれば。

――この先に待つ戦いの運命を、避けられたのかもしれない。

何時の間にか、見知らぬ廃ビルへと入って行ってしまっていた神楽。

「あれ……? 何でこんなところに来たんだろ……」

昼間だというのに薄暗い、不気味な場所。

「やっぱ、疲れてるのかな……」

そこは、ネガティブになっていた思考をさらに加速させていった。

「いっそ、ここで首吊りでも……なんて、らしくないな」

半分本気、半分冗談の独り言。 聞く者は誰もいない。

――はずだった。

「何か悩みがあるようだね」

突如聞こえた、低い男の声。 

「だ、誰だ?」

辺りを見まわす。周囲に人の影も気配もない。この声は何処からの物なのか。

「ど、どこだよ!」

「ここだよ、鏡の中だ」

「か、鏡の中ぁ?」

神楽は、常識では考えられないその発言を聞いて、思わず間の抜けた声を出してしまった。

そして半信半疑のまま、神楽は鏡を探した。

鏡があった。 そして、その中に人がいた。 否、人ではなかった。

オレンジ色の体、大きな眼、なんとも形容し難いその体型。

とにかく奇妙な生き物が、そこにいた。

「あんた……何?」

至極当然な質問。 不思議生物がそれに答える。

「私はこう見えても猫じゃあない」

「いや、どう見ても猫じゃないだろ……」

神楽は全く訳のわからない答えに混乱した。

「私は美浜士郎。 美浜ちよの父です。 娘が昔お世話になりました」

神楽は、耳を疑った。

これが、あのちよちゃんのお父さん? そんな馬鹿な。

――美浜ちよ。 それは神楽の高校時代の友人。 若干10歳で高校へ飛び級してきた天才少女の名だ。

神楽は一度も、ちよの父に会った事は無かった。

そのせいか、天才の父親なのだから、きっと変わった人なのだろうと勝手に予想していた。

だが、いくら何でもおかしい。

「なんであんたみたいな意味不明な生き物がちよちゃんのお父さんなんだよ!」

思わず声を荒げる神楽。 それもそうだろう。

ただでさえ普通ではない生き物が、普通ではない場所――鏡の中――に存在し、あまつさえそれが

自分の友人の父を名乗っているのだ。 普通の人間なら混乱するに決まっている。

これは夢だ。 ふざけた夢だ。 神楽はそう思った。

だが、それはあっさりと否定される。

「残念だが、これは夢でもなんでもない。 現実だよ」

ちよの父を名乗る生物――美浜士郎――は、冷静に言い放った。

そして、言葉を更に続けた。

「ところで君は、何か悩んでいるようだね?」

思っていたことを看破され、更には自分の心理状態まで悟られてしまった。

神楽は、何がなんだかさっぱり解らなくなり、何を思ったか、正直にこう答えた。

「なんだか……自分に自信が持てなくなって……」

「ほぅ……」

更に続ける神楽。

「高校の時は、水泳でも他の競技でも、敵わない相手はそういなかったのに……」

自分の胸の内に秘めていた、憤りを

「やっぱり、世間は広いんだなって……大学に入ってそう思い知らされて……」

悔しさを、悲しみを

「もう、自分に取り柄なんて残ってないんじゃないかって思うようになって……」

一筋の涙と共に、打ち明けた。

黙って聞いていた、美浜士郎が、口を開いた。

「では……君に、力をあげよう」

「力?」

「そう、力だ。 選ばれた者にだけ与えられる、力だ」

――力。

今、正に無力とも言える神楽にとって、それはとても魅力的な言葉に思えた。

「この力を使って、願いを叶えるために戦うんだ」

そう言って美浜士郎は、鏡の中から、ある物を投げてよこした。

両手でキャッチする神楽。 その手に収まっていたのは、四角い箱のような物だった。

表には、龍の顔を象った紋章が刻まれており、中には数枚のカードが入っていた。

「これは?」

「カードデッキだ。 それを使うことによって君は、『「仮面ライダー』になることが出来る」

「『仮面ライダー』……?」

「ミラーワールド、つまり鏡の中の世界……そこには沢山のモンスターがいる」

「ミラーワールド……モンスター……」

「そのモンスターが現実世界に干渉するのを防ぐ為、ミラーワールドの中へと入って戦う戦士

 それが、『仮面ライダー』だ」

「モンスターと……戦う……?」

「だが、ライダーはモンスターと戦うだけの存在ではない。

 ライダーは全部で十三人居る。 そして、ライダーはお互いに戦う運命にある。

その中で勝ち残った最後の一人は、何でも望みを叶える権利を得る事が出来る」

「何でも……望みを……」

「そうだ……君自身の未来を掴む為にも……
 
 さぁ……戦え……!」

「……私には、出来ないよ」

神楽は、はっきりと戦いを拒んだ。

「誰かを蹴落として、それで幸せになるなんて、絶対に間違ってる」


「誰かを蹴落とさなければ、君はいつまでも弱者のままじゃないのかね?」

「それは……確かにそうかもしれないけど……」

「それに、君はもう戦いから逃れることは出来ない……」

そう言い残し、美浜士郎の姿は鏡から消えていった。


「戦いから……逃れられないって……?」

美浜士郎の最後の言葉。 それは何を意味するのだろうか……

鏡の中、そこにはもう一つの世界が広がっていた。

全てが反転し、モンスターと呼ばれる異形の物が存在する世界。

神楽は、首に巻きつく糸の先に、それが一体立っているのを見た。

複眼、長い手足、黒い体。

蜘蛛がヒトに進化していたら、こうなっていたのだろうか。

そこに立っていたのは、蜘蛛人間とでも呼ぶべき存在だった。

「(何だよ……こいつ……)」

人でも、動物でもない、未知の生物が自分を襲っているという事実に、神楽は恐怖した。

そして、一層抵抗を激しくした。

必死の抵抗で、何とか首の糸を振りほどき、怪物に背を向ける。

そして、神楽は全速力で逃げる事を決めた。

走りながら、神楽はまだ落ちつかない頭で考えた。

「一体、アレは何なんだよ……」

脳裏に浮かぶ美浜士郎の言葉。

『ミラーワールド、つまり鏡の中の世界……そこには沢山のモンスターがいる』

「(そうか……あいつが……モンスター!?)」

『それに、君はもう戦いから逃れることは出来ない……』

「(なるほど……そういう意味か……!)」

カードデッキを持っている以上、モンスターはこちらを『仮面ライダー』、つまり敵として認識する。

モンスターを倒すには、『仮面ライダー』になるしかない。 ならなければ、殺されてしまうだろう。

だから、戦いから逃れる事は出来ない。

「そういう……事かっ!」

神楽が、ボンクラと呼ばれた頭で何とか結論を導き出す。

そして、立ち止まって振り向き、神楽は次の行動に出た。

「なら、やってやる……こんな所で死んでたまるか!

 なってやる! 『仮面ライダー』に!」

神楽は、覚悟を決めた。

すぐそこに迫る蜘蛛モンスターを睨みつけながら、神楽はある事に気がついた。

「……って、どうやったら『仮面ライダー』になれるんだ?」

肝心な事が解らなかった。 『仮面ライダー』になる方法である。

「カードデッキを使う、って言ってたよな……」

とりあえず、握り締めていたカードデッキを見る。 だが

「これをどうすりゃいいんだろ……」

やはり、神楽はボンクラだった。

そうこうしている内に、蜘蛛モンスターは目前まで迫ってきた。

「……マズイっ!」

そして、蜘蛛モンスターは跳躍し、神楽目掛けて飛びかかってきた。

「しまったっ……!」

大きく口を開け、鋭い牙を見せている。 長い手が振り上げられ、神楽を引き裂こうとしていた。

だが、蜘蛛モンスターの牙は、爪は、目標を引き裂く事は出来なかった。

横から飛び出してきた、しなやかな鞭。 それが、蜘蛛モンスターを叩き落したのだ。

そして、その持ち主が神楽に向かって叫んだ。

「神楽ちゃん! 早く逃げるんや!」

神楽が見た声の主は、『仮面ライダー』だった。

そしてその声は、懐かしい友の声だった。

「おお……さか?」

「そうや、私や! 説明なら後でしたる! 今は早く逃げるんや!」

そこに立っていたのは、紅色の弁髪を下げ、同じ色の鞭を片手に持ったライダーだった。

その、大阪と呼ばれたライダー、「仮面ライダーライア」は、早口で神楽に応えた。

その早口は、神楽の中にある彼女には、到底出来ない芸当であった。

叩き落された蜘蛛モンスターは、既に起き上がろうとしている。

「次に神楽ちゃんが狙われたら、私じゃカバーしきれへん! 早く!」

大阪が神楽を急かす。 しかし、神楽はその場に留まっていた。

「何で逃げへんのや!? 殺されてまうで!」

「大阪……私も、戦う」

神楽は、自分のカードデッキを見せた。 そして、尋ねた。

「これ、どうやって使えば良いんだ?」

大阪は少し躊躇うような様子を見せたが、すぐに神楽の問いに答えた。

「デッキを左手に持って、前にかざすんや!」

神楽は言われた通りに、デッキを左手に持ち、前にかざした。

その時、蜘蛛モンスターが大阪に襲いかかった。

「大阪!」

「私なら大丈夫や!」

蜘蛛モンスターと、取っ組み合いを始める大阪。

モンスターを押さえ込みつつ、神楽に次の指示を与える。

「次はポーズを取って、『変身』って言うんや!」

「ポーズって!?」

「適当でかまわへん!」

「適当って言われても……」

その時、蜘蛛モンスターが大阪の鳩尾に、痛烈な蹴りを見舞った。

大阪は苦しげに、その場にうずくまった。

それでも、彼女は神楽へ向かって叫んだ。

「神楽ちゃん……早く、『変身』するんや!」

神楽は、右腕を体の前で、左上に向けて伸ばした。

何故だか解らないが、これが自分のポーズであると思ったのである。

そして、神楽は叫んだ。

「変身!!」

「最後に、デッキをベルトのバックルに差し込むんや!」

神楽のデッキが、神楽のベルトのバックルに収まった時、神楽は『変身』を遂げていた。

赤い双眼、それを覆う格子のような仮面。 額にはデッキと同じ龍の紋章。

また一人、『仮面ライダー』が誕生した。

「仮面ライダー龍騎」の、誕生である。

「大阪! 今助ける!」

神楽はそう言うと、大阪を羽交い締めにしている蜘蛛モンスターに向かって、飛び蹴りを食らわせた。

蜘蛛モンスターは、その衝撃に耐えられずよろめき、大阪を離して数歩退いた。

「大丈夫か、大阪?」

「平気や、このくらい。 それより、早くあいつを退治せなあかん」

そういうと大阪は、自分のデッキからカードを引き抜いた。

そして、左手についている「エビルバイザー」にカードを装填した。

『アドベント』

すると、ビルの壁を突き破り、一匹の空とぶエイが現われた。 

「!……敵が増えた!?」

「ちゃうねん。 あの子は私の味方やねん」

大阪はそう言うと、エイのモンスターに命令した。

「行くんやー! エビルダイバー!」

エビルダイバー、すなわちエイのモンスターが、蜘蛛モンスターに襲いかかる。

急降下しての体当たりが、蜘蛛モンスターを捉えた。

吹き飛ばされる蜘蛛モンスター。 この一撃は効いたらしい。

大きく体を上下させて呼吸をしている。 疲弊している様子が見て取れる。

大阪は、モンスターを仕留めるため、次のカードを引いた。

そして、バイザーにゆっくりと装填した。

『ファイナルベント』

「てやー!!」

大阪はかけ声と共にジャンプし、エビルダイバーの背に乗った。

そして、エビルダイバーはそのまま蜘蛛モンスターへと向かっていく。

先ほどの体当たりを遥かに凌ぐ速度で、風を切りながら。

仮面ライダーライアの切り札、ファイナルベント『ハイドベノン』の前に、抗う術は無かった。

ハイドベノンが命中した蜘蛛モンスターは、あっけなく爆散した。

爆炎の中から、ゆっくりとした足取りで戻ってくる人影があった。

「大阪!」

「ふー、危ないところやったな、神楽ちゃん」

駆け寄った神楽に、のんびりした声で応える大阪。

とてもさっきまで、モンスターと死闘を繰り広げていた者とは思えない声でだった。

その声こそ、神楽の記憶の中にある彼女の声そのものだったのだが。

「とりあえず、ここで話すのもなんやし、元の世界に帰るでー」

「あ、ああ……」

そう言って、歩き出す大阪の後を神楽が追った。

「あ、そや」

急に立ち止まる大阪。 そして、虚空へ向かって呼びかけた。

「エビルダイバー、ご飯やでー」

すると、先ほどモンスターにとどめを刺した、大阪のモンスター「エビルダイバー」が現われた。

そして、かつて蜘蛛モンスターが立っていた場所に浮かんでいる、光り輝く球体に向かって行った。

球体にエビルダイバーが触れると、それはエビルダイバーに吸収され、消えて無くなってしまった。

「大阪、ご飯って……?」

神楽は目の前で行われた事に対して、わずかな疑問を抱き、尋ねた。

「ああ、この事も説明せなあかんな……
 
 とりあえず、元の世界へ戻るでー」

都会の隅、誰もいない廃ビルに、放置された鏡。

その中から、二人の少女が抜け出してきた。

神楽と、大阪である。

「さてと……まずは何から説明したろか……」

考え込む大阪の前で、神楽もまた考え込んでいた。

「(大阪も、『仮面ライダー』……)」

『ライダーは全部で十三人居る。 そして、ライダーはお互いに戦う運命にある。』

「(あの、美浜士郎とかいうのが言っている事が本当だったら……)」

「そや、まずはあれから説明せな……」

真剣な表情で何事か呟く大阪に向かって、神楽は言った。

「なぁ、大阪……」


……To Be Continued

「二人のライダーの出会い。
 それによって、大きく運命は動き出している。 ゆっくりと、だが、確実に。
 そして、龍の力を得たライダーの選択は……?
 彼女等の行く末を決めるのは、君達だ」

Q この後神楽は……?

A 大阪の話を聞く
B 大阪の話を聞かない

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