あずまんがー龍騎!
【あずまんがー龍騎!】
【第29話 : 取引】

「ただいま・・・?」

ミラーワールドを閉じる為の闘い。そんな果てしなく困難なものに巻き込まれた榊にとっ
て、束の間の休息と知りつつも大学に進学した時から借りているマヤーが待つ部屋が見え
てくるにつれて少しほっとした。部屋の扉を開けた時、いつもなら真っ先に自分に向かっ
て飛んでくる、榊の大切な存在であるマヤーが飛んでこないことを不思議に思った。

(どうしたんだろう・・・?)
「榊さんどうしたの?・・・お兄ちゃん!」

優衣は榊が玄関先で止まり一向に部屋に入ろうとしないので足を止めると自分も部屋を覗
き、驚きのあまり夕食の材料が入った袋を玄関先で落とした。玄関に取り付けてある全身
鏡から兄、神崎士郎がこちらを見つめていたからだ。

「あなたが優衣さんの・・・?」
「榊、お前に話がある・・・」

士郎は手に持っていた1枚のカードを榊に見せた。途端に榊はさっと表情を変え、榊とし
ては珍しいくらい感情を込めてそのカードに描かれている姿の名前を叫んだ。

「マヤー!!」
「そうだ、このカードにはマヤーを封印してある」
「何故だ・・・」
「ミラーワールドに来い榊・・・」
「待って!お兄ちゃん!どうしてそんなことをするの?」
「お前には関係ない・・・」
「そんな・・・」

士郎の冷たい言葉に思わず言葉を失う優衣。アメリカに行ってから行方不明となった兄士
郎をずっと探し続けているという話をすでに優衣から聞いていた榊は士郎のあまりな態度
に再び士郎を睨みつけた。

「私も一緒に行く!」
「優衣、お前は駄目だ・・・榊1人で来い。」
「どうしてお兄ちゃん?私はずっとお兄ちゃんを探していたんだよ?やっと会えたのに」

優衣はその場で泣き崩れた。優衣が泣き崩れた時榊は気付いた。士郎の表情が苦悶で微か
に苦しんでいたことを。3人の間にしばしの時が流れた。やがて優衣が泣いていることに
耐えられなくなったのか士郎が2人に話し掛けてきた。

「優衣・・・俺を探すな。俺はもう昔の俺ではない。」
「え・・・お兄ちゃんそれはどういう意味なの?」
「・・・榊、ミラーワールドで会おう」
「待ってお兄ちゃん!」

優衣の声も聞こえないかのように再び士郎は現れた時と同じくすぐに姿をかき消した。士
郎を追いかける為榊は急いで士郎が現れた全身鏡に己のデッキ、タイガのデッキを反射さ
せた。出現するライダーベルト。榊の様子を見ながら優衣はぽつりと言葉を漏らした。

「お兄ちゃん・・・どうして」
「その、優衣さんを巻き込みたくないからあんなに冷たくしたんだと思う。」
「え・・・?」
「・・・」

優衣は榊が慰めようとしていることに気付いて榊を見つめた。榊の瞳は真っ直ぐに優衣を
見返した。

「そうなのかな?」
「優衣さんが泣いてた時、優衣さんのお兄さん苦しそうだった・・・」
「そっか。お兄ちゃんも何かあるんだ・・・榊さん気をつけてね。」
「うん・・・大丈夫。マヤーと一緒に帰ってくるから・・・変身」

榊は優衣の肩にそっと置いていた手でベルトにタイガのデッキを装填した。優しい言葉の
余韻を優衣に残して、榊は士郎を追いかけるためにミラーワールドへと進入していった。

「・・・どこだ」
「来たか・・・」
「マヤーを、元に戻せ・・・!!」

ミラーワールドの自宅を飛び出すと榊は叫んだ。すると歩道の一角から士郎が姿を現した。
榊は深く、静かに怒りを込めた瞳で士郎を睨みつけた。無理も無い。可愛いもの、特に猫
が大好きな榊に唯一なついた猫が、マヤーだけなのだから。

「あなたが優衣さんの兄でも・・・私はマヤーの為ならためらわない!」
「そうだ。ためらうな」
「・・・?」
「取引だ・・・お前もライダー同士で戦え・・・!」
「・・・断る。ライダーも人・・・私は人を、絶対に傷つけたくない・・・」
「ならば・・・マヤーは一生この中だ・・・」

士郎は再びマヤーの封印されているカードを榊に見えるよう手に握った。その瞬間だった。

「マヤーを・・・返せ!」

タイガとなった榊は100mを5秒で駆け抜ける。士郎との距離を一瞬で詰めると榊は士
郎からマヤーのカードを奪い取ろうとした。

「無駄だ・・・」
「・・・く」

だがそんな榊を見通していた士郎はすでにその場にはいなかった。歩道にあるカーブミラ
ーから再び榊に話を続ける士郎。

「・・・お前にも選ばなければならない時が近づいている・・・」
「何・・・?」
「全てを犠牲にしても大切なものを選ばなければならない時が・・・」
「・・・」
「答えが出たらこれを使え・・・」

士郎は1枚のカードを榊に投げつけた。それがマヤーかと思うと榊は受け取るざるを得な
かった。受け取った瞬間、榊の周囲で大きな力を感じさせる風が巻き起こった。

「・・・これは?」
「新たな力・・・サバイブ」

榊は士郎が投げたカードを見つめた。カードには自由の象徴である翼とその周囲を青い炎
が燃え盛っており、カードの名称部分にはSURVIVEと書かれていた。

「・・・戦え・・・戦え!」
「待て士郎ーーー!!」

榊は声だけを残して消えた士郎に大声で呼び止めたが無駄だった。後にはサバイブのカー
ドを握った榊がいるだけである。榊はしばらくの間ミラーワールドを探索していたが、や
がてタイムリミットを警告する、粒子の放出が始まっていることに気づき、仕方なくミラ
ーワールドから現実の世界へと帰還した。榊の部屋で榊の安否を心配しながら1人待って
いた優衣は急いで榊に話しかけた。

「榊さん大丈夫だった?」
「うん・・・大丈夫だから、その心配しないで・・・」
「・・・わかった。でも一人で何もかも抱え込まないでね。」

ミラーワールドから帰還するなりソファーに座り込む榊。優衣は榊を心配そうに見つめな
がらも榊が今は話をしたくないことに気付き、おやすみと言い残すとベットへと向かった。

『・・・お前にも選ばなければならない時が近づいている・・・全てを犠牲にしても大切
 なものを選ばなければならない時が』
(・・・私は皆を傷つけるなんて出来ないよ・・・でも、そしたらマヤーは・・・!!)

榊は重すぎる苦悩を抱えたまま朝を迎えた。優衣はベットで身体を起こして榊の部屋を出
てソファーのある居間に行き榊が昨日のままの姿勢であることに気がついた。

「おはよう榊さん・・・もしかしてずっと起きてたの!?」
「・・・うん」
「少しは寝なきゃ。ほら、横になって。」

優衣に強く勧められ、ソファーに横になった榊はぽつりと優衣に聞いた。

「優衣さん・・・」
「どうしたの榊さん?」
「もし誰かを傷つけることが必要になったら・・・私は、どうしたらいいのかな・・・」

優衣はこちらの世界に来てからはずっと榊と一緒に暮らしているので、榊が無口ながらも
優しさに溢れているということや、榊が何よりも愛しく思っている存在がマヤーであるこ
ともわかっていた。

「・・・私の世界でも大切な人の為に傷つきながら戦っていたライダーがいたよ。」
「え・・・?」
「蓮って言うんだけどね。蓮は言ってた。その人の為なら命を投げ捨ててもいいって。」
「・・・」
「真実は1つ。でも角度が変わると違う意味を持つ・・・今思うと、ライダー同士の戦い
 もそうだったのかも知れないわ。」
「ライダー同士の戦い・・・」
「・・・私達の世界のライダーは、モンスターと戦うようにお互いで戦ってた。」
「どうしてそんなことを・・・?」
「最後に残ったライダーは願いを叶えることが出来るんだって。だから皆自分の願いを叶
 える為に闘ってた。ちよちゃんにデッキを渡された時、私は怖かったよ。だって私も人
 を傷つけなきゃいけなくなるかも知れないから・・・」
「・・・」
「でも、気づいたの。コアミラーを壊さないと関係のない人達が犠牲になるって。だから
 私はミラーワールドを閉じたい。そしてお兄ちゃんが何を考えているか知りたい。これ
 が私の願いだよ。・・・この先榊さんがどんな道を選ぶか分からないけど、私は榊さん
 の力になりたいと思う」
「優衣さん・・・ありがとう」
「さ、朝ごはん準備するね。榊さんは少し休んでていいよ。」

優衣は立ち上がるとキッチンへとむかい、手馴れた動きで朝食を作り始めた。

(私の・・・真実・・・)

榊は己の手を見つめながらまぶたをゆっくりと閉じていった。

【次回予告】

(かおりんおはようございます)
キィィン・・・キィィン・・・
「あのー、お話って何なんでしょうか?」
「そうですよー。今日はタイガと戦ってもらいたいですー」

【生き残らなければ真実も見えない。ライダーよ、生き残るために戦え!】

【あずまんがー龍騎!】
【第30話 : 予感】

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