あずまんがー龍騎!
【あずまんがー龍騎!】
【第32話 : 悲しみの風】

《アドベント》

「わわ!…なんじゃこいつは!」

王蛇がタイガのトドメを刺そうとベノサーベルを振り下ろしたその時。背後から蒼牛
(そうぎゅう)の頭(かしら)、メガゼールが王蛇をタックルで吹き飛ばしたのであ
る。それと同時にタイガは懐かしい友人の声を聞き、その者の名前を呼んだ。

「かおりん…」
「榊さん!大丈夫ですか!!」

インペラーは傷ついて横たわるタイガを見て胸が痛んでタイガの手を握り締めた。

「榊さん、私が来たからもう大丈夫ですよ!」
「…ありがとう」

榊が無口なのは何も今に始まったことではない。だがそれでもインペラーはタイガの
力ない、か細い返事を聞いてここまでタイガを傷つけた相手に怒り狂った。

「榊さんにこんなことをしたあんた達を…絶対に許さないわ!!」

立ち上がったインペラーは王蛇とリュウガを殺気を込めて睨みつけた。そしてインペ
ラーはメガゼールに王蛇を指差すと命令した。

「メガゼール、皆でこの人をやっつけて!」
(了解!)
「ギ!ギ!ギ!ギ!ギ!…」

インペラーの指示と同時にミラーワールドのどこに潜んでいたのかメガゼールと同じ
インパル系のモンスターの群れ、ゼール軍団が王蛇を囲み、飛び跳ね回りながらそれ
ぞれがもつ得物を閃かせた。

「こら!おまえら数で来るなんて卑怯よ!!」

他のライダー達と比べ、王蛇は人を傷つけることをためらわない。すなわち、ライダ
ーの力を加減しないのだ。そうして戦い続けた結果、今では王蛇の戦闘スキルはタイ
ガを遥かに上回っていた。だが、そんな王蛇ですら、さすがに数に押され苦戦してい
た。ベノサーベルを片手に苦戦する王蛇をそっちのけでインペラーはその後ろで腕を
組んで様子を見ていたもう1人の人物へと歩もうとした。その時である。タイガはリ
ュウガに向かって行こうとするインペラーを必死で引きとめた。

「行っちゃ駄目だ、かおりん…あいつは…強い…」
「榊さん…私だってライダーなんです。心配しないでください。それに…私は…私
 は、榊さんを傷つけた人を絶対に許さない!!…すぐ戻ってきますね!」

《スピンベント》

だが、タイガの声も怒りに燃えたインペラーには届かなかった。インペラーは再び前
を向くとインパル系のモンスターの特徴の一つ、頭部に生えた真っ直ぐに伸びる角の
力を秘めた武器、ガゼルスタッブを手に装着してリュウガへと駆け出した。

「今度はかおりさんが相手してくれるんですか?」
「…そうよ!榊さんを傷つけた、あんた達は…絶対に!!許さないわよ!!」

感情が性能にダイレクトに影響を与えるグランメイル。自分の崇拝する榊を傷つけら
れた怒りで突き動かされているインペラーは戦闘能力が格段に上昇していた。それは
リュウガのブラッドラグクローから次々と発射される暗黒の炎を楽々と移動しながら
避け続ける様子でもわかる。

「えい!…あれー?えいえい!」
「そんなの…当たるもんですかぁ!」

インペラーはミラーワールド内の建築物や壁を利用してまさ縦横無尽にあっという間
に駆け抜けると、リュウガの背後にそびえ立ち、ガゼルスタッブでリュウガを挟んで
空中に持ち上げた。

「…さよなら」

インペラーはガゼルスタッブの真の能力、2つのドリル状の角をリュウガを挟んだま
ま発動させた。鈍い音と共に2本の角はそれぞれ反対方向に動き出した。

ギュイイイ…ガガガガガ!!

「痛いです!!」
「榊さんはもっと痛かったのよ!!」

ガゼルスタッブは挟まれているリュウガのグランメイルを冷酷に削り続けた。グラン
メイルの特徴として一定以上のダメージを受けると拒絶反応、つまり大爆発を起こす。
リュウガはそれを避けるために必死でガゼルスタップから逃げようとしたが、すかさ
ずインペラーがもう一方の手で逃げようとするリュウガの頭を掴んで削り続ける。

「…王蛇さん、早く助けてください!!」
「んなこと言われてもねー、こっちだって大変なのよ!」
「ギ!ギ!ギ!ギ!ギ!…」

タイガはインペラーがリュウガと王蛇を相手して決して引けをとってない姿を見て驚
くと同時にこのままではインペラーが我を忘れてライダーを倒す危険性があることに
気がつくと必死で声を振り絞った。

(強い…でも、止めなきゃ…このままじゃあ…かおりんは…)
「…かおりん、それ以上は…ダメだ!!」

声を振り絞ってタイガをインぺラーを諌めた。例えどんなか細い声だろうと榊の声を
聞き逃すかおりんではない。インペラーはリュウガへの手を緩めずにタイガに叫んだ。

「榊さん…でも、この人達は榊さんを殺そうとしたんですよ!?」
「それでも…私は、かおりんに人を殺して欲しくないよ…」
「榊さん……メガゼール、もういいよ」
「ギ…」
「お…?何だ何だ?」

突然攻撃を中止したゼール軍団を用心深く見つめる王蛇。インペラーはリュウガを地
面に放り捨てると、王蛇とリュウガに目もくれずにタイガの傍に歩み寄るとしゃがん
でお礼を言った。

「榊さん…止めてくれてありがとうございます。あのままだったら私…」
「もう…大丈夫…かおりん、帰ろう」
「…はい!」
「…榊さん、かおりさん」

タイガがインペラーに支えらて立ち上がった時、この世のものとは思えないほどぞっ
とする声で呼び止められ2人は後ろを振り返った。

「何よ?」
「…?」
「…勝負は最後まで詰めないと駄目なんですよ」

《ファイナルベント》

黒い流星と化したリュウガが暗黒の炎と共に2人へと向かって突撃してきた。リュウ
ガの狙いがタイガとわかった時、インペラーの身体は自然に動いた。

「榊さん危ない!」

インペラーに突き飛ばされたあと、タイガは時間がやけにゆっくりと感じられた。
黒い流星がインペラーに激突し
インペラーの立っていた場所にリュウガが立ち上がり
そして…背後で大きな爆発音が聞こえた。
タイガは悪い予感を胸にゆっくりと振り返った。そして発見したのである。ぴくりと
も動かず横たわっているインペラーの姿を。タイガはそれを見て絶叫した。

「かおりーーん!!」

インペラーを抱きかかえながら必死で声をかけるタイガ。

「かおりんしっかり…しっかりするんだ!!」
「榊さん…」

かおりんのグランメイルがタイムリミットを知らせるより遥かに多い量の情報の粒子
を周囲に撒き散らした。それ同時に鏡が砕けるような音がグランメイルから流れ、か
おりんはグランメイルが強制解除されてしまった。グランメイルが解除されたかおり
んは今度は自らの情報の粒子を周囲に放出し始めた。そんな中、かおりんは榊がどう
やら無事なのを確認してホッとしたような笑顔になった。

「榊さん…無事でよかった」
「でも…でも…!」
「榊さん…そんな…そんな、泣きそうな顔をしないでください…私は平気ですから…」
「今、医者に…」
「いいんです榊さん…もう駄目…みたいだから…それよりも榊さん…最後に…1つだ
 けお願いがあるんですけど…」

かおりんはゆっくりと己の最後の願いを榊に伝えた。

―1度でいいからかおりって呼んでもらえませんか?―

それはかおりんがずっと心に秘めていた願い。自分とはあまりにも違う女性の姿に憧
れ続けた少女の答え。かおりんはすでにぼんやりとしつつある視界で榊の口が開くの
を待った。

―かおり―

かおりんは例えようもないほどの笑顔を榊に向けた。その胸は叶った願いでいっぱい
になった。

(…幸せ…こんな時に…榊さんに…名前で呼んでもらえるなんて…)
「嬉しい…さ…かき…さん…」
「かおり…?…かおり、死んじゃ駄目だーー!!」

かおりはゆっくりと意識を失っていった。失われていく意識の中、かおりはかつての
高校時代を思い出した。

かおりの高校時代は榊に始まり榊で終わった。
体育祭…文化祭…どんな時も、かおりの想い出の中にはいつも榊がいた。
無口ながらも様々なことをそつなくやりとげる榊にかおりはずっと憧れていた。
そんなかおりがずっと心に秘めていた最後の願い。

それがこんな時、こんな場面で叶うとは皮肉としか思えない。だが、それでもかおり
は幸せだった。自分が命を賭けて守った存在を最後まで想い続けれたのだから。笑み
を浮かべたまま、さらさらと砂のようにかおりは消えた。榊の胸に笑みを残して…

自らの命を犠牲にして榊を助けた少女は笑みを残したまま、風に消えていった。
しばらくタイガはかおりを抱きしめていた自分の両腕を見つめた。
その両腕にいたかおりという女性はもう、いない。
もう、どこにも存在しないのだ。
残酷な現実の前にタイガは力なく頭をうなだれた。榊の胸中は、己の不甲斐無さで1
人の友人を殺してしまったという自責でいっぱいだった。

(どうして…どうしてかおりが!!)

榊は呪った。自分達を巻き込んだ仮面ライダーという運命を。
マヤーを人質にとった神崎士郎を。
リュウガの口車に乗った自分を。

「うわああああ!!」

タイガの咆哮はミラーワールド全域を揺るがす叫びだった。その声を聞いたモンスタ
ー達はビクッと身を震わせると急いで咆哮が聞こえた場所と正反対の方角へと逃げ出
した。怒り、憎しみ、悲しみが入り混じったタイガの咆哮が続く中、2人のライダー
が近づいて来た。王蛇とリュウガである。

「うるせー!!」

王蛇はベノサーベルで無防備なタイガの背中を斬りつけた。無言で立ち上がるタイガ。
仮面に隠れたその瞳は自らのやるせない想いをぶつけられる相手を見つけてギラリと
光った。

「お前達が!かおりを殺したんだ!!」

デストバイザーを王蛇に振り下ろすタイガ。だが、満身創痍の身であるタイガの攻撃
が当たるわけもなく、そのまま王蛇はあっさりと避けた。タイガは全てを壊すような
勢いでその隣にいたリュウガにもデストバイザーを振り下ろした。だがリュウガは凄
まじい反射神経でその攻撃を拳で殴りつけて威力を相殺し、一瞬空中で動きが止まっ
たデストバイザーを握り締めるとタイガに囁いた。

「榊さん、それは違いますよー」
「…?」
「かおりんさんが死んだ理由は…弱いライダーだったからですよー」
「そーそー。あんたが気にすることなんてないわ。弱いライダーが死ぬのは当然よ」

リュウガと王蛇の言葉を聞いたタイガはカッとして、デストワイルダーを握ってない
もう片方の手で油断していたリュウガの顔を力いっぱいぶん殴った。

「う…榊さんはまだそんなに力が残ってたんですか!?」
「ふーん…あんたまだ戦えるんだー…ならさっさと死になさい!」

ベノサーベルを手に打ちつけながら吹き飛んだリュウガを見ていた王蛇は、両手を広
げるとタイガの懐に飛び込んだ。だが王蛇もみぞおちに入れられたタイガの正拳突き
でそのまま膝を付くと悶絶した。

「く…っそ…こん…にゃろ…!!」

王蛇がベノサーベルを振り上げながら立ち上がるより早く、タイガはデッキからカー
ドを1枚引いた。途端にタイガの周囲で荒れ狂う突風が巻き起こり、王蛇とリュウガ
はその風の影響で、コンクリートの壁に激突した。

「ぎにゃ!」
「いて!」

ビルの2階から飛び降りるくらいなら苦も無くやりとげるライダー達ではあるが、い
くら衝撃吸収能力があるグランメイルを身に纏っているとは言え、衝撃は衝撃であり
その中身は人間である。吸収しきれなかった衝撃をその身に受けてリュウガと王蛇は
タイガの次の行動を防げなかった。

「…」

サバイブをデストバイザーに近づけるタイガ。サバイブとデストバイザーが互いに共
鳴しあってタイガの右手に新たなバイザーが出現した。そのバイザーはデストクロー
に酷似していた。だが、それはデストワイルダーの力の象徴である、蒼の装飾の代わ
りに新たな力と進化を意味する金色の装飾が施されていた。疾風が吹き荒れる中、タ
イガは本能に導かれるように新たなバイザーの爪の甲の部分にある、金色でタイガの
エンブレムが描かれているスロットにサバイブを装填した。

《サバイブ》

タイガを風が優しく包み込み、榊のグランメイルに新たな力が宿った。そして…風の
加護を受けし仮面ライダー、タイガサバイブは静かに立ち上がった。その姿は風と無
限の可能性を象徴する金色で装飾されており、右手の氷雪爪(ひょうせつそう)デス
トバイザーツヴァイが銀色の光を放った。

―全てを犠牲にしても大切なものを選ばなければならない時が―
―でも、気づいたの。コアミラーを壊さないと関係のない人達が犠牲になるって―
―榊さん…無事でよかった―

士郎の、優衣の、かおりんの言葉が立ち上がったタイガの中で重く響く。

「私は…」

そしてタイガは、王蛇とリュウガを睨みつけながら迷っていた答えを口に出した。

「私は…戦う。こんな…こんなライダー同士の戦いを終わらせる為に…マヤーを取
 り戻す為に!!」

そう宣言したタイガは、デストバイザーツヴァイを装着した右手を王蛇とリュウガ
に向けながら一気に加速した。

「はぁぁぁ…!!」

サバイブのカードでライダーはグランメイルに契約モンスターの力とそのサバイブ
の力を与える。風のサバイブの加護を受けたタイガの加速を王蛇とリュウガは、視
線ですらついていけなかった。

「痛いですー…あれ?」
「こんにゃろー!…だー!どこだー!?」
「お前達がかおりを殺した…!!」

タイガは王蛇とリュウガの背中にデストバイザーツヴァイを振り下ろしては素早く
後ろにさがり、今度は逆の相手に振り下ろすというサバイブの敏捷さを利用したヒ
ット&ウェイを繰り返した。その戦法は劇的なほど効果があったと言える。何故な
らゼール軍団と互角に戦えるほどの類まれな戦闘の天才である王蛇や、振り下ろさ
れたデストバイザーを素手で掴み取ることが出来る反射神経の持ち主、リュウガで
すらタイガの攻撃を為す術も無く受け続け、グランメイルをどんどん削られていっ
たのだから。

(これはまずいですねー)
「ゆかり先生、逃げますよー…っていない!?」

リュウガが驚きの声をあげるのも無理は無かった。タイガとの差を感じとった王蛇
がすでに反対方向に走り去っていたからだ。何故か動きが止まったタイガを見てリ
ュウガはすかさず王蛇の後を追いかけるように逃げ出した。だが、タイガは王蛇と
リュウガをそのまま逃がす気は毛頭無かった。デッキからカードを1枚取り出すと、
サバイブの効果を維持させるスロットとは別にある腕の部分のスロットにカードを
ベントインした。

《シュートベント》

タイガの脳裏にカードの効果のイメージが鮮明に浮かび上がる。タイガは右手を逃
げ出した王蛇とリュウガに向かって真っ直ぐ伸ばすと照準を合わせ、気合を込めて
デストバイザーツヴァイの爪を発射した。

「はーやれやれ逃げれたですなー」
「ゆかり先生、油断は禁物ですよー」
「わかってるわよん…!!いってー!!」
「だ、大丈夫ですか?」

リュウガは心配そうに王蛇に声をかけた。王蛇は肩の激痛に驚いたが、足は止めず
に自分の肩を見た。するとそこには氷の槍が突き刺さっていたのである。そう、タ
イガが絶え間なく連続で発射している爪は空中で氷の槍へと姿を変え標的を貫くの
であった。

(こいつはまじでやばいわね…立ち止まったらやられる!)

王蛇は肩の苦痛に耐えながら氷の槍を引き抜くと、何とか逃げ切った。出口を見つ
け出した王蛇はいつの間にかいなくなったリュウガのことを忘れてそのままミラー
ワールドの扉である鏡に倒れ込んだ。タイガは誰もいなくなったのを感じ、脱力感
と同時にサバイブを解除した。

「かおり…」

タイガはミラーワールドの壁にもたれると静かにかおりとの想い出に心をゆだねた。
涙が一粒、榊の頬を伝って仮面の中へ消えた…

【仮面ライダーインペラー、死亡。残るライダーはあと―12人】

【次回予告】

「榊君はいますかね?」
「あなたもライダー、なの!?」
「きゃー!!変態!」
「勿論ですとも。私の愛するラブワイフに誓って」

【生き残らなければ真実も見えない。ライダーよ、生き残るために戦え!】

【あずまんがー龍騎!】
【第33話 : 託される想い】

【Back】

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【あずまんが大王×仮面ライダー龍騎に戻る】

【鷹の保管所に戻る】
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