あずまんがー龍騎!
【あずまんがー龍騎!】
【第35話 : 信じる力】

―キィィィン…キィィィン…

昨日の暗雲が嘘のように晴れた次の日。
穏やかな光が居間でコーヒーを飲んでいたよみを照らし出した。ノンシュガーコー
ヒーを一気に飲みほし、窓から差し込む朝日を残念そうに眺めながらよみは呟いた。

「やれやれ…ライダーってのは朝もゆっくり出来ないのか」

ライダー、それは戦い続ける運命を背負った存在。
戦うべき相手はモンスター、あるいは…他のライダー。
そしてミラーワールドからモンスターが現実世界に干渉している時
ライダーにしか聞こえない音が奏でられる。
ガラスを引っかいているような音が。
断続的に続く不快な音が。
戦いへとライダー達をいざなう宿命が。
共鳴という形でライダーの頭の中に奏でられる。

共鳴が聞こえたら、急がなければならない。何故ならミラーワールドから現れたモ
ンスターが罪もない人々を襲うのだから。

「…行くか」

というわけでよみはテーブルにコーヒーカップを置くと、家から飛び出して共鳴の
聞こえる方角へと駆け出したのであった。

「あ、よみおはよー!」

走り続けるよみに話しかけてきたのは智である。高校を卒業した現在も2人は良き
友人であり、ライダー同士でもある。智は走り続けるよみのペースにぴったりとあ
わせながら(もっともよみが智のペースに合わせているだけだが)笑顔でよみを見
つめた。

「おはよう」

そんな智によみも挨拶すると同時に内心ほっとした。

(今日も智が一緒だな)

ほとんど毎日のように聞こえる共鳴でよみや智、榊や神楽、大阪やちよは人々を守
る為にデッキの力を使ってライダーとなる。だが、出現したモンスターと命を懸け
た戦いというのは孤独で、辛い戦いである。だがらこそよみにとってどんな時も一
緒に戦ってくれる智がいつのまにか心の支えとなっていた。もっともそのことは決
して顔にも言葉にも出さないよみではあったが。そんなよみが、走りながら手にも
っていたらしいおにぎりを食べ始めた智を見て口を開けた。

「おまえは走りながら何を食べているんだ?」
「おひぎり(おにぎり)よひも食へる(よみも食べる)?」
「いらん」
「…ふーっ。いやほら、ご飯の途中だったんだけどさ、あんましうるさいから持っ
 て来ちゃった」
「あとで食えよ…ここか」

よみは路地裏の駐車場に停まっている車からやけにゆっくりとした速度で歩いてい
るモンスターを確認するやバックからデッキを取り出し智に振り向いた。

「行くぞ…変身!」
「よーっしー。出撃だー!へんしーん!」

闇の翼ダークウィングを従えるナイト(智)に鋼の巨人マグナギガを従えるゾルダ
(よみ)は駐車場の車からミラーワールドへと消えていった。

「またあいつだー!」
「そうだな」
「わたしあいつきらいー」
「文句を言うな…ほら行くぞ」
「へーい」

ゾルダはナイトをうながすとシアゴ―ストを見つめ1人考え始めた。

(今まで私が戦ったのはマグナギガ、テラバイター、ゲルニュート…色々いた。つま
 りモンスターにも種族があったはずだ。だが、最近のモンスターは全てシアゴース
 ト。…これは何かあるな。…まあいい。私は目の前のモンスターを倒すだけだ。)

という結論に辿り着いた。動こうとしないゾルダに足を止め、振り返るナイト。

「よみ何してんだ?早く行こうよ」
「…ああ、そうだな」
「そうだ!よみ、今日はわたしがおとりになるよ!」
「おとり?」
「そう!この智ちゃんの魅力でモンスターをメロメロにするからあとはよろしく!」

ガッツポーズを向けるナイトを見てゾルダは自然に口が動いた。

「メロメロにならないと思うぞ」
「またまたー」

立て板に水。そう判断したゾルダは黙ってマグナバイザーにカードをベントインした。

《シュートベント》

一撃必殺を誇る深緑の巨砲、ギガランチャーを両手に握りしめたゾルダはナイトに振
り向いた。

「じゃあ私はここで待ってるよ」
「おう!」

元気な返事を残すとナイトはシアゴ―ストへと突撃した。

「いやっほーー!」
「ヴ フェ ヴ フェ」

《ソードベント》

カードを装填すると同時に跳躍するナイト。そのまま空中でウィングランサーを受け
取りナイトはシアゴーストの背後から空気さえも切り裂く勢いの突きを繰り返した。
ナイトの鬼気迫る勢いに怯み、シアゴ―ストはウィングランサーを両手ではじきなが
らもナイトの思惑通り、ゾルダの待つ場所へと徐々に後退していった。鋭い突きを繰
り返しながら前進していたナイトがゾルダを視界に確認した瞬間。ナイトはゾルダに
合図を出した。

「いっけー!」

ナイトの合図を聞いたゾルダはためらわずにギガランチャーのトリガーを引いた。

「ふん!」

マグナランチャーから飛び出した砲弾は高速で回転しながら狙い違わずシアゴースト
の背中に喰らいつき、その牙を爆発させた。

「ヴェ!!」

ナイトに気をとられていたシアゴーストは背後でギガランチャーをかまえ、気配を押
し殺していたゾルダの存在をわからぬまま駐車していた車を突きぬけ、コンクリート
の壁に激突した。

「ヴ・・・フェ…」

痛烈な一撃をその身に受けながらも必死で立ち上がろうとしているシアゴーストを見
てゾルダは彼女なりの感嘆の声を漏らした。

「しぶといな」

しかし、シアゴーストのその驚くべきタフネスもコアミラーの現況を考えると当然と
言えば当然であった。シアゴーストの目的はコアミラーを破壊しようとするライダー
の抹殺ではなく、エネルギー不足で機能が停止しようとしているコアミラーに確実に
エネルギーを運ぶ為に量産されたモンスターだからである。無論そのことはまだ、誰
も知らないが。

「とどめ、だー!」

量産型モンスター、シアゴーストにナイトはそう宣言するや帯刀していたダーグバイ
ザーにカードを取り出し装填すると、シアゴーストへと疾走した。

《ファイナルベント》

「キュイィィィィ!」

ナイトの求めに応じ、夜の闇を具現化した翼あるモンスター、ダークウィングが彼方
から飛来した。加速するナイトの背中にダークウィングは足を固定した。

「とりゃー!」

天高く跳躍し
ウィングランサーで狙いを定め
ダークウィングの翼で身をつつみ
蒼い竜巻となったナイトは
高速回転しながら垂直落下した。

「ウェー!」

ナイトのファイナルベント、飛翔斬によって身体を貫かれたシアゴ―ストは大爆発を
起こして、あとには灰1つ残さなかった。

「いやー終わった終わった」
「そうだな」
「と言うわけでよみ」
「何だ?」
「飯を食べよう!」

「いやー食った食った。ありがとうー」
「…どういたしまして」
「で、よみは今日これからどうするんだ?」
「そうだな…」

子供のように暴れる智に食事を与えたよみは返事に困った。休日ではあったが先程の
戦いで何かをするという意欲がすっかり失せていた。

「お前はどうするんだ?」
「私?よみと同じことをする」
「ほーう。私と同じこと、か」

よみはうっすらと口に笑みを浮かべると机の引き出しからごそごそと教科書を取り出
し智に放り投げた。

「何これ?」
「大学の教科書」
「えー!せっかくの休日なのによみって勉強すんのか?」
「悪いか」
「う…」

智は言葉に詰まった。

(こ、このまま勉強…ピンチ、だ!…そうだ!)
「よみ公園に行こう!ほら、散歩はダイエットにも良いって言うし」

智のとっさのアイディアは可決され、よみの家から比較的近くのとある公園に行くこ
とになった。休日の朝だからか、公園の中は小さな子供とその親でいっぱいで騒々し
かったので、比較的静かなブランコまで行くとよみは自分の隣のブランコをもの凄い
勢いで揺らしている智に理由を聞いてみた。

「…で、何でお前はそんなにブランコで暴れているんだ?」
「楽しいからー!」
「ふーん…」
「よみはーやらないのー?」
「遠慮しとくよ」
「重いから?」

―キィィィン…キィィィン…

智には幸いなことに拳を握りしめたよみが襲いかかるより先に、今日2度目の共鳴が
2人の頭に鳴り響いた。

「またか…」
「よみ、あれ!」

智が指差した滑り台に、今にも目の前の子供に飛びかかろうとしているシアゴ―スト
の姿があった。

「早く!」
「わかってる!」
(くっ…間に合うか!?)

その公園に設けられているブランコと滑り台は距離から考えるとそう遠くはない。だ
が、シアゴ―ストが子供を口から吐き出した糸で捕獲し、ミラーワールドに引きずり
込むには充分な距離でもある。よみが半分諦めながら立ち上がった時、大阪が現れた。

「あかんでー!」
「ヴ…フェ…」

シアゴーストではなく、子供を突き飛ばす大阪。しかし結果オーライである。狙いが
外れた糸を回収したシアゴーストは次の得物を探しにミラーワールドへと姿を消した。
突き飛ばされて泣きじゃくる子供に近づく大阪。その瞳は優しさかった。

「ごめんな痛い思いさせて。でも、しょうがなかったんやー」
「…」
「さ、ここは危なくなるで。あっちへ行くんや!」
「…うん」
「大阪やるじゃん!」
「私もやる時はやるんや!」
「ああ、まったくだな」

大阪の言葉に珍しくよみも同意した。

「あいつを追いかけるならここからだな」
「よっしゃー!よみ、大阪行くぞー…へんしーん!」
「変身!」
「へんしん!やー」

重なる声。現れるライダー達。

ゾルダ、ナイト、そして大地の影バイオグリーザを従えるベルデ(大阪)は滑り台を
媒体に新たな戦いの場へと向かった。

「な…!」
「たくさんいるでー」
「1匹2匹3匹…はは、何匹いるんだよあいつら」

ゾルダ、ナイト、ベルデは途方に暮れた。滑り台からミラーワールドに入ってみると
そこは何十匹ものシアゴ―ストが待ちかまえていたからである。

「よみ、さっきと同じ作戦で行こう!あとはよろしく!」

《ソードベント》

「智、よせ!」

ゾルダの制止も聞かずにナイトはウィングランサーとダークバイザーの2つの武器を
持つと両手を広げてシアゴ―ストの群れの中へと突っ込んでいった。

「あの馬鹿!!」
「ええなー智ちゃん」

ゾルダは呆れながらもしっかりと見守っていたナイトからベルデに視線を向けた。

「…あの馬鹿の何がいいんだ大阪?」
「だってよみちゃんを信頼しているからあんな戦いが出来るんやろ?私も誰かにあん
 なに信頼されてみたいなー」
「…」

ベルデの言葉にゾルダは胸を突かれた。シアゴ―ストの群れにがむしゃらに突っ込ん
でいったナイトを無謀だとしか捉えていなかったから尚更である。

(あいつも…私を…?)

再びナイトに視線を向けるゾルダ。ナイトの形勢は悪かった。次々と襲いかかるシア
ゴーストをダークバイザーで斬り払い、ウィングランサーで貫き数を減らそうとして
いたが、圧倒的な数に押されていた。だが、それでもナイトはシアゴーストの陣中か
ら少しも抜け出そうとしていない。ナイトの戦い方に胸を打ちながらゾルダはカード
を装填し胸の内がばれないように素早くとゾルダに話しかけた。

「…馬鹿なことを言ってないでさっさと終わらせるぞ大阪。」
「そーやなー」

《ファイナルベント》
《コピーベント》

「ん?」

マグナギガが現れることを大地の振動で感じながら、ゾルダは聞きなれないカード名
に隣のベルデを振り向いてぎょっとした。鏡に反射したようにそっくりなゾルダがそ
こに立っていたからである。

「な、なんだ大阪その姿は!」
「私もよみちゃんやー」

《ファイナルベント》

ゾルダの力をコピーしたベルデはそのままファイナルベントをベントインした。当然
バイオグリーザもマグナギガの姿をコピーして出現した結果、2人のゾルダと2体の
マグナギガが大地にそびえ立つことになった。

「これなら一撃でいけるな」
「いけるでー」
「おーい!よみまだかー!」
「…もう大丈夫だ。智来い!」

《アドベント》

その声を聞くなりナイトは、両手の武器を振り回して間合いを作り、ダークウィングに
掴まれて空中へと飛翔した。それと同時に2つのマグナバイザーのトリガーが引かれた。

「は!」
「てりゃー」

マグナギガ達の全ての装甲が解除され、全身凶器とも言えるマグナギガの恐るべき量の
銃弾が姿を現し、そして全ての銃弾が空中を踊った。光と炎の祭典エンドオブワールド。
ミラーワールド全体が閃光で包みこまれ、わずかに遅れて大爆発が巻き起こった。

「やったなよみ」
「ああ」

ダークウィングと共に空から舞い降りたナイトの返事に適当に相づちを打つゾルダの心
はさっきまでいた何十匹ものシアゴーストを一瞬で消し去った己のファイナルベントの
威力に驚いていたが、唐突にゾルダはナイトに振り向いた。

「…おい、智」
「ん?」

ゾルダはとても小さな声でボソッと言った。

―ありがと

「え?」
「何でもない!」

ゾルダの言葉がナイトに届いたかどうかはさだかでは無いが、帰り道ナイトはゾルダの
肩をひたすら叩きながら歩き続けた。そんな2人を後ろから見つめるベルデ。

(はーっ。この2人強いんやなー)

―戦ってみたいなー

(あかん!何を考えてるんや私は!しっかりするんや!)

ベルデは両手で頬を叩いてその考えをどこかへと打ち消そうとした。だがベルデは知ら
ない。自分の中に芽生えた暴走する戦いへの意志をやがては打ち消すことが出来なくな
るその日が近づいていることに…

【次回予告】

「こんにちわ神楽さん」
「変身!オルタナティヴ!」
「…ガードベント」
「嘘だ!嘘だー!」

【生き残らなければ真実も見えない。ライダーよ、生き残るために戦え!】

【あずまんがー龍騎!】
【第36話 : 真実の破片】

【Back】

【あずまんがー龍騎!に戻る】

【あずまんが大王×仮面ライダー龍騎に戻る】

【鷹の保管所に戻る】
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送