あずまんがー龍騎!
【あずまんがー龍騎!】
【第36話 : 真実の破片】

玄関に美浜と書かれている巨大な家の一面の緑色の絨毯の上で無数の葉がそよ風に乗って
踊っている。その巨大な家の玄関に取り付けてある液晶付きのインターフォンも押さずに
巨大なフェンスをよじ登って越え、敷石を黙々と歩き続ける姿があった。神楽である。家
の扉まで来た神楽はスーッと息を吸い、大声でアピールした。

「ちよちゃんいるかー」

その言葉を合図に神楽を受け入れるように家の扉が開いた。再び中に入り、2階の階段か
ら1つの部屋のドアを開けて自分の探していた人物に手を振った。

「よう、ちよちゃん」
「こんにちわ神楽さん」

ありふれた日常会話。しかしそれは1枚の鏡を通して行われているので、傍目から見ると
神楽は1枚の巨大な全身鏡に話し掛けている格好であった。

「神楽さんお茶でもどうぞ」
「お、悪いな」

神楽はちよの指差したテーブルのイスに座り、いつのまにか置かれているお茶を飲み始めた。

「んーうまい!…でもさ、ちよちゃんってこういうのいつ準備しているんだ?」

首をかしげる神楽。ひっそりと静まったこの家に他の誰かがいるような気配はしない。だ
からこそ毎回来るたびにタイミングよく出てくる程よい熱さのお茶の存在は不思議だった。

「お手伝いさんがいるんですよー」
「へー…」

ふと神楽はちよの後ろで何やらごそごそしている物体を見つけた。それは…オルタナティ
ヴの契約モンスター、サイコローグだった。

「お手伝いさんってサイコローグか!」
「ええ、そうなんですよー」
「…ふーっ。ごちそうさま!」

ちよは神楽がお茶を飲み終えテーブルに置くのを確認するとサイコローグに命令した。

「サイコローグ持って行ってくださいね」
「へー便利そうだなー」
「ええ。サイコローグは色々なことを手伝ってくれるんですー。芝生の手入れや樹木の手入
 れ、それに…」

和やかに2人の会話は続いたが、ライダーの宿命か、自然と話題が移っていった。

「それは良かったです…ところで神楽さん、ミラーワールドの様子はどうでしたか?」
「ちよちゃんの言った通り、シアゴ―ストがたくさん増えてるぜ」
「そうですか…コアミラーは見つかりましたか?」
「あれからはさっぱりだな」
「そうですか…神楽さん色々とありがとうございます」
「気にすんなって。ちよちゃんはミラーワールドのこと何かわかったのか?」
「いいえ。前に伝えた以上は…でも、最近感じるんです」
「何を感じるんだ?」
「…この戦いはもう少しで終わります」
「ホントか!?」

ちよの言葉に思わず神楽はイスから立ち上がって真偽を確かめた。

「はい。まだ確定という訳ではないのですが、それでも皆さんがこの調子でモンスターを
 倒し続けたらコアミラーは…その存在を維持できなくなります」
「そうか。やったぜ!これでこの戦いもやっと終わるんだな!!よっしゃー!」

神楽は両手を頭上高く振り上げ喜んでいたのでちよが一瞬複雑な表情をしていたことに気
がつかなかった。その手を挙げたまま神楽はいつも胸に抱いていた疑問を口に出した。

「しかしいつも思うんだけどさ、ちよちゃんは何だってそんなに詳しいんだ?」
「それは…」

ちよは迷った。一番初めにカードデッキを手渡して以来、密かにミラーワールドの調査に
協力してもらっている神楽にも黙っているミラーワールドと自分の関係を話すべきか否か。

(…ダメ。やっぱり誰にも…背負わせたくない)
「神楽さんごめんなさい。…それは言えません」
「え?何でだ?」

―キィィン…キィィィン…!

「…やれやれ。続きは後でしっかり教えてもらうぜ」
「…。あ、神楽さん、今日は私も一緒に行きますねー」
「お、ちよちゃんも来るのか。珍しいなー」

ちよは全身鏡の中から自らが作りだした試作デッキ「オルタナティヴ」を神楽に向けにっ
こり笑った。神楽もちよを映し出している全身鏡に龍騎のデッキを反射させる。2つのデ
ッキと2つの想いが1枚の鏡で交差した。

「へんしんだぜ!!」「変身!オルタナティヴ!」

神楽は烈火龍ドラグレッガーを従える龍騎へ、ちよは虚無の瞳サイコローグを従えるオル
タナティヴへと姿を変えた。

「行きましょう神楽さん!」「よーっし、行こうぜ!」

同時に同じことを言ったことに2人は笑いながらミラーワールドに姿を消した。

「シアゴ―ストですね」
「ああ」

現れた1匹のシアゴーストを追いかけた2人は高層ビルの上に立っていた。予想が当たっ
てたことに龍騎はあまり喜べなかった。シアゴ―ストは他のモンスターと比べるとさした
る特徴もなく大して強くない。それにもかかわらず龍騎はシアゴ―ストを嫌っていた。何
故ならシアゴ―ストは集団で行動しており、対処に極めて時間が掛かるからだ。現に龍騎
とオルタナティヴのいる高層ビルから道路を眺めてみると道路がシアゴ―ストで埋め尽く
されていた。

「うわ、いるぜ。いるぜ。ちよちゃんどうしようか?」
「二手に別れましょう」

《ソードベント》

オルタナティヴは他のライダー達とはやや大型で異なる形状をしている右手のスラッシュ
バイザーにカードを通した。刻印されたバーコード状の情報を読み込んだスラッシュバイ
ザーは蒼い炎とともにオルタナティヴの両手にスラッシュダガーを構築した。

「じゃあ私はさ、上からサポートするよ!」
「お願いしますね!」

《ストライクベント》

一気に高層ビルから飛び降りていくオルタナティヴを見送り、龍騎は高層ビルの上からド
ラグレッガーの力が宿った炎砲ドラグクローで地上高くから無数のシアゴ―ストへと連続
で灼熱の雨を降らした。

「へっへー!どうだ!」

次々と炎上していくシアゴ―ストを確認して誰も見ていないのに龍騎は自慢げに胸を逸らした。

「えい!」

一方のオルタナティヴも龍騎に負けていなかった。スラッシュダガーから全てを燃やし尽
くす蒼い炎を勢いよく発生させるや近くのシアゴ―ストを一瞬で灰にして再び次なるシア
ゴ―ストへと走りよって行く。灼熱の炎と蒼い炎でシアゴ―スト達をどんどん灰にする龍
騎とオルタナティヴ。2人は無数にいるシアゴ―ストを凄まじいスピードで葬っていった。

《ファイナルベント》《ファイナルベント》

そして最後に残された1集団をサイコローグにまたがったオルタナティヴが高速スピンで
吹き飛ばし、残った1匹を神楽が天高く跳躍してドラグレッガーの炎と力を爆発させるド
ラゴンライダーキックで葬った時。ファイナルベントの途中で頭の上を弱々しく飛んでい
たコアミラーを発見したのである。

「御疲れ様です神楽さん」
「ちよちゃんそんなことよりあれを見ろ!」
「コアミラー!」
「ちよちゃんは家で待ってろ!」

《アドベント》

オルタナティヴの返事を待たずにドラグレッガーに乗って龍騎はコアミラーを追跡した。
弱々しく飛ぶコアミラーに楽々と追いついた龍騎はドラグセイバーを両手に握り締めてコ
アミラーに突き刺そうと勢いよくドラグレッガーから飛び降りた。

「これで終わりだーーー!」

《ガードベント》

「な!?…またあんたか!」

コアミラーを斬りつけようとした龍騎の前に不意に現れたオーディンがゴルドシールドで
ドラグセイバーを受けとめていたのだ。コアミラーに降り立った龍騎を諌めるオーディン。

「いい加減コアミラーを狙うのは諦めろ…」
「あんたこそしつこいんだよ!」

―ガキィィン!

龍騎は後ろに振り向いてドラグセイバーを再び振り下ろしたが、金色の羽と共に現れたオ
ーディンによってあっさり防がれた。

「すっげー邪魔だー!」
「何故コアミラーを狙う?」
「決まってるだろ!モンスターが人を襲うからだ」

―ガキィィン!

飛び散る火花。対峙するオーディンと龍騎。

「お前は知っているか?…モンスターが人を襲う理由を」
「どうせ腹が減ってるとかだろ!」

―ガキィィン!

妨害されるたびに正反対の方向に斬りつけたが、龍の牙は全て不死鳥に撃ち落された。

「ちくしょう!こんなのってずるいぜ!!」

何度やっても変わらない結末にとうとう力尽きた龍騎はコアミラーにぐったりと座り込んだ。
オーディンは息一つ乱さぬまま話を続けた。

「モンスターはコアミラーであるちよを維持するために人を襲う」
「ちよを維持するって…どういうことなんだよ?」

オーディンは黙って自分の真下のコアミラーへ手を近づけた。オーディンの手が近づくにつれ
て深淵の闇で出来ていたコアミラーに波紋が広がっていき、透明になっていった。やがてはコ
アミラーの内部を覆っていた闇が消え…ちよがずっと秘密にしていたことを龍騎は知った。

「な!何でだよ!何でコアミラーにちよちゃんが入っているんだよ!?」
「それはちよがコアミラーだからだ」

オーディンは淡々と答えた。コアミラーの中心には龍騎がいつも見慣れているちよの姿があ
った。ちよは眠るように目を閉じており、1枚のカードとともにコアミラーに漂っていた。

「嘘だ!!」
「嘘ではない。コアミラーが破壊されたらちよも消える。これも真実だ。それでもお前はコ
 アミラーを破壊するというのか」
「!!」

龍騎は言葉を失った。今までコアミラーを破壊したら全てが終わるというちよの言葉を信じ
てひたすら戦い続けてきただけあってその冷酷な事実に龍騎は打ちのめされた。

「そんな…じゃあ私はどうすりゃいいんだよ…」

龍騎の手からするりとドラグセイバーが地上に落ちていき、オーディンはコアミラーを破壊
する危険性が無くなったことを知ってオーディンは龍騎に囁いた。

「…最後のライダーは運命を変える力を得る」
「運命を…変える力…」
「そうだ。その力なら全ての運命を変えることが可能だ…ミラーワールドの無い世界に戻す
 ことも…彼女を救うことも…」
「本当か!?」
「…お前も戦うがいい。最後の…1人になるまで…」

龍騎は先程のオーディンの言葉を頭に響かせながらふらふらと現実世界へと帰還した。

「お帰りなさい神楽さん」
「…だよ」
「?」
「何で黙ってたんだよちよちゃん!」

身体を震わせながら神楽は絶叫した。先程のオーディンと龍騎の会話を知らないちよはその
神楽の態度を掴みきれず思わず尋ねた。

「神楽さん何をそんなに怒っているんですか?」
「…オーディンが私にコアミラーの内部を見せたんだ」
「…!!見たんですか…」
「何でちよちゃんは皆に黙ってるんだよ!コアミラーを壊したらちよちゃんも消えちゃうん
 だろ!それなのに…どうして私達にコアミラーを破壊させようとすんだよ!」

ちよは寂しげな表情で神楽を見つめた。何も答えないちよの態度が先程のオーディンの話が
真実であると裏付けたがあまりにも寂しそうな瞳で見つめられ神楽はハッとした。

「そ、その何かコアミラーを破壊する以外に方法は無いのか?」
「…1つは現在残っている全てのシアゴーストを倒す方法があります。ですが…」
「何だ?」
「…コアミラーに閉じ込められたままなので結局私は消え去ります…」
「そんな…そうだ!!中に閉じ込められているちよちゃんを助ければいいんじゃないのか?」
「…それは私も考えましたが、コアミラーを覆う闇はオーディン以外は誰にも干渉出来ません…」
「じゃ、じゃあさ、カードを使って…」
「…コアミラーはライダーの力に耐えられるほど強くはないんです。誰かのソードベントを
 受けるだけで粉々に砕け散ってしまいます…」
「そ、それじゃどうしようもないじゃないか!?」
「…」
「何でだよ!ちよちゃんは何でそんなに平気なんだよ!」
「…」
「コアミラーを壊されたらちよちゃんは…!」

神楽は言葉が詰まった。ちよが涙をぽろぽろとこぼしていたからだ。頬を伝う涙を気にせず
ちよは己の選んだ選択を答えた。

「神楽さん…私だって死ぬのは怖いですよー。それでも、自分の意思とは関係なく他の人の
 命で生きる続けるのは…もっと辛いんです…」
「ちよちゃん…ごめん」

神楽は先程までの自分の態度を後悔した。

(私ってホント馬鹿だな。このことで一番辛いのはちよちゃんなのにそれを私は…)

「ちよちゃんホントごめん。あのさ…何か私に出来ることはないか?」
「もう、いいんです神楽さん…今までありがとう」
「何だよそれ?」

お別れの言葉を言うちよに神楽は問い詰めた。そして追い討ちで返ってきたちよの言葉に神
楽は息を呑んだ。

「…神楽さんに私を殺せますか?」
「!」

ちよが今の今までコアミラーのことを秘密にしていた理由が神楽にもやっとわかった。コア
ミラーの秘密を知ればおそらくちよからデッキを渡された智、榊、大阪、よみ、かおりんの
いずれも破壊することを今の自分みたいにためらうことになるからだ。

「そうか…だから、今まで黙ってたんだな」
「ごめんなさい…これからはモンスターから身を守る為に変身してください。それから…神
 楽さんお願いがあるんですけど…」
「わかってる…皆には黙っとくよ」
「…ありがとう」

ちよは儚げな笑顔を残して神楽の前から消えた。ちよのいた鏡をぼーっと見つめながら神楽
はオーディンの言葉だけが頭に響いた。

―運命を変える力…

己の手の中にある龍騎のカードデッキを神楽は見つめた。刻々とライダー達に全ての終わり
の日が迫っていた。ライダーとして自らの願いを選ばなければならない運命の日が…

【次回予告】

「おやすみなさい千尋」
―お前はあと、3日の命だ―
「私は…私はもっと強い相手と戦いたいんや!」
―急がないといけませんね。だって私も…―

【生き残らなければ真実も見えない。ライダーよ、生き残るために戦え!】

【あずまんがー龍騎!】
【第37話 : 目覚めの時】

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