あずまんがー龍騎!
【あずまんがー龍騎!】
【第42話 : 傷痕】

新しい1日を告げる太陽が 夜の闇を貪っていく。
昨日とは違う今日が 明日とも違う今日が 
また…始まる。

―立ち止まらない : いなれま止ち立―

ライダーは ただひたすら走り続けるしかない。
戦いの先に待つものを目指して…

【タイムリミットまであと―2日】

「ゆかり、ゆかり…ちょっと起きなさい!」「ヤダ!まだ寝るー…」

ゆかりは母親に引き剥がされた布団を奪い返すと潜り込んだ。再び布団を剥が
してゆかりの母親は娘の態度に呆れた。

「休日だからってそんな寝てちゃだめでしょ!」
「いーじゃん 誰にも迷惑かからないでしょー」
「…あんたを待っている人がいるの!」
「にゃも!? …んなわけないか」

眠たそうに瞼をこすりながら渋々布団から這い出すとゆかりは母親に尋ねた。

「で、誰?」「たしか…神埼優衣さんって言ってたわよ」「!!」
「おはようございます」「…おはよー」

案内された居間のテーブルで優衣は高校時代、ちよの担任であったゆかりの家
を訪ねていた。優衣は知らない。己を睨みつけているゆかりが仮面ライダー王
蛇であることを、神崎士郎がゆかりをライダーの戦いに巻き込んだことを。

「あ、あの…」「…」
「似ている…」「え?」

ゆかりも知らない。優衣がライダーの戦いを止めるために東奔西走しているこ
とを。仮面ライダーファムとして運命と戦っていることを。

「…」「…」

沈黙に耐えかねて優衣は榊の高校時代のアルバムから拝借したちよの写真をゆ
かりの前に差し出した。

「高校時代の美浜ちよの担任だった谷崎ゆかり先生、ですよね?」
「…そだよ」「教えてください!ちよちゃんはどこに住んでいたのでしょうか?」
「ここらへんだけど…でも今は誰も住んでいないわよ?」
「お願いします!」

深々と頭を下げた優衣に何故かゆかりは正直に教えてやった。玄関から出た優
衣が何度もこちらに振り返っては頭を下げる仕草を見守っていたゆかりは、優
衣の姿が完全に消えた瞬間、メタルゲラスに命令した。

「メタルゲラス、あの子を追いかけて我慢できなくなったら私を呼びなさい」

ゆかりの命令に従ってミラーワールドを走り出すメタルゲラス。そんなことは
露知らず、教えられた場所にそびえ立つ豪邸を発見した優衣は、覚悟を決めて
フェンスを乗り越え始めた…

「………っ!!」

榊は目覚めると同時に身を起こして油断なく周囲を見渡した。遠い昔に見たこ
とがあるその部屋は、主を待っているのかひっそりと静まっていた。

「ここは、ちよちゃんの…?」『榊さん、気がつきましたか?』

榊の声に部屋の主ちよがスタンドミラーから心配そうに榊の顔を見つめる。榊
は見知ったちよの顔に安堵しながら昨日の戦いを思い出して身体を震わせた。

「リュウガは!?」
『…リュウガは榊さんにドラグブラッカーを仕向けたあと、サバイブを使って
 きました…』
「リュウガも、これを…?」

デッキから取り出した風のサバイブを見つめる榊にちよは頷いた。

『ええ。そして私は…負けてしまいました…』
「でも私はどうして、ここに?」

リュウガに跳躍してからの記憶がない榊は自分がこうしてちよの部屋で目覚め
たことに疑問を感じた。

『屋上から落下した時に地面に倒れている榊さんを発見したんです。でも榊さ
 んさっきまでずっと意識がなくて…あれ? 涙が…』

不安から開放された涙がぽろぽろとちよの顔から落ちていった。榊は立ち上が
りスタンドミラーの前に座り込むと鏡の上からそっとちよの涙をふいた。

「…もう大丈夫。だから…その、ちよちゃん…泣かないで…」
『榊さん!!』

耐えきれずに鏡から飛び出したちよは榊にしがみつくと声をあげて泣いた。ミ
ラーワールドと強く結びついているちよは現実世界への拒否反応で粒子を放出
していったが、情報の離散によって生じる苦痛を我慢しながら、ちよは謝り続
けた。

「榊さん…みんな…ごめんなさい…ごめんなさい…」「ちよちゃん…」
「…ちよちゃん…いるんでしょ!? お願い出て来て! ちよちゃん…ちよちゃん…」
「…どうやら呼ばれているみたいです。ちょっと行ってきますね」「あ、待…」

榊が止める間もなく再び鏡の中へと潜り込んだちよは涙を拭って榊の前から姿
を消した。腕を見つめる榊。先程まで腕の中で泣いていた儚い存在を想いなが
ら榊はタイガのデッキを取り出した。

(かおり、ちよちゃん…)

自分を守ってくれた友達。自分を助けてくれた友達。ミラーワールドが1人を
奪い去り、もう1人を苦しめている。

(一刻も早く…私が!)

デッキを強く握りしめた榊は、静かに鏡の世界への鍵を呼び出した。

「…変身」

白銀の虎デストワイルダーを従える仮面ライダー、タイガ。タイガは、決意を
拳に込めて、ミラーワールドへと姿を消していった…

「おっはよー!よみ」「おはよう」
「神楽は?」「まだ寝てる」
「起こしてあげるね!」「…ああ」

窓から侵入してきた智が神楽を物凄い勢いで揺さぶって殴られるのを横目によ
みは昨夜のシザースとの戦いの痛手に苦しんでいた。もっとも、よみの表情か
らではそんな苦痛を読み取れないあたり、流石と言ったところであろう。その
よみの表情が共鳴に反応して変化した。そう、戦場へと向かう戦士の表情に。

―キィィィン キィィィン

「これはモンスターか!?」「お? モンスターですな!」「そうだな」
「さーてと、よみ、神楽、行きますか!」「ああ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「?」「?」

神楽に呼び止められて、デッキを反射させる動作の途中で動きを止めた智とよ
みはベットに振り返った。

「…何だよ神楽?」「…どうしたんだ急に?」
「あ、あのさ…モンスターと戦わないで欲しいんだ」
「は?」

神楽の言葉を一瞬何かの聞き違いかと考えたが、隣に立っている智の同じよう
に驚いている表情に聞き間違いではないと知った途端、よみは激怒した。

「何を言っているんだおまえは!? こうしている間にも人々が襲われているん
 だぞ!」
「それぐらいわかってる!でも、モンスターを倒すと…」

―神楽さんに私を殺せますか?

よみに威勢よく喰ってかかった神楽であったが、あの日のちよとの会話を想い
出して押し黙ってしまった。時間の猶予がない状況の今、神楽よりもモンスタ
ーを優先すべきとよみは決断した。

「…とも、こいつは置いてくぞ」「う、うん」
「変身!」「へんしんだー!」

ゾルダとナイトはシアゴーストの待つ戦場へと足を急がした。ただ、1人神楽
は、仲間達を止めることも出来ない自分の無力さにうずくまっていた…

「…ちよちゃん! ちよちゃん!!」

ちよは玄関に自分を探して名前を叫んでいた優衣を発見し、靴箱として利用さ
れていたキャリーケースの鏡から飛び出すと、優衣の突然の来訪理由を訪ねた。

「優衣さん。どうしたんですか?」
「…ちよちゃん、ミラーワールドを閉じる以外の方法を教えて!」
「…それは…」「知っているんでしょ!? お願い!教えてちよちゃん…」
「優衣さん…」

その場に座り込んだ優衣にかける言葉も見つからずにちよは困惑した。ミラー
ワールドを閉じるにはコアミラーを破壊もしくは士郎の計画を阻止すればいい。
士郎の計画とは目の前にいる優衣の存続。その優衣が完全消滅してしまえば士
郎がミラーワールドを維持する意味がなくなる。ちよは優衣を前にしてそのこ
とを考え込んでいた。

「ちよちゃん…?」「…優衣さん今日は帰ってください」
「でも!」「…少しだけ、ほんの少しだけ考える時間をください…」

ちよの硬い表情に優衣は追求を諦めると玄関を開けた。

「…わかった。私はずっと、待ってるよ」「…」

朝日が玄関から屋敷内に差し込んだ次の瞬間にはちよの姿は消えていた。優衣
は再びフェンスを乗り越えた。飛び降りた瞬間、ゆかりが目の前で手を振って
いた。

「やっほー」「あなたは…さきほどはありがとうございました」
「別にそんな大したことしてないわよー」

呼びかけられて顔をあげた優衣は、目の前に先程ちよの住所を教えてもらった
ゆかりにお礼を述べた。もっとも正確にいうとゆかりの他にメタルゲラスもい
たが。優衣の暗い顔に気づいてゆかりは再び声を掛けた。

「ん? そんな暗い顔してどうしたのよ?」「ちょっと…」
「良かったらお姉さんに話してみなさいよ? ほらほらー」
「あ、あの、ごめんなさい…」
「そーう? …ま、いーのいーの。それより1つ聞きたいんだけさー」

ゆかりはどんどん優衣に近づいていった。言いようのない不安に陥った優衣は
後ろに下がろうとしたが、フェンスにぶつかって立ち止まった。立ち止まった
優衣にそっとゆかりは囁いた。

「あんたって…士郎の妹?」「え、ええ、そうだけど…?」
「そう…メタルゲラス!」「ガォォォォオオン!」「きゃあああ!!」

ゆかりの命令を待ち構えていたメタルゲラスはゆかりが飛びのいた瞬間に優衣
を両手で捕獲すると、ミラーワールドへと突進していった。

「士郎には貸しがあったからね…あんたに払ってもらうわ…変身!」

王蛇は1人呟くと両手を広げてカーブミラーに跳躍した!

「今日も良い天気ねー …あれは…榊さん?」

シザースはコアミラーから飛び降りると発見したタイガの元へと駆けつけた。

「榊さんおはようございます」「…誰?」
「私は仮面ライダーシザースです」

ぺこりと頭を下げた新たな仮面ライダー、シザースにタイガは困惑しながらも
遂に発見したコアミラーの翼が動き出したのを見て走り出そうとした。が、シ
ザースがタイガの肩を掴んで放さない。

「手を、放せ!」
「榊さん、コアミラーは駄目です。どうしてもというのなら私が…」
《フリーズベント》

シザースの言葉が終わるよりも先にタイガのデストバイザーが氷の力でシザー
スの足を覆っていた。驚いているシザースを無視して走り出すタイガ。

「ちょ、ちょっと榊さん!榊さん待ってー!!」「…」
「なーんてね♪」《シュートベント》
「っ!?」

タイガは背中に飛来してきた重い衝撃に声にならない叫びをあげながらコンクリ
ートの壁に激突した。瓦礫の破片がタイガを埋め尽くす。シザースは楽々と氷を
砕いて、昨日ゾルダから奪取したボルシュートを握りしめたままタイガの生存確
認のために近づいていった。瓦礫の山を見たシザースは自分が握りしめているボ
ルシュートの威力に改めて興奮した。

「凄い!榊さんを一撃だなんて!!」「…」
「これで1人、か。残りは…」《サバイブ》
「きゃ!」

瓦礫の山が突風によって周囲に飛び散った。飛んできた破片をボルシュートの銃
身を使って身を守ったシザースは、突風の中央にタイガに似た存在が立っている
ことに気がついた。

「あなたは…榊さん?」「…邪魔だ!」

デストバイザーツヴァイをシザースに向け、タイガサバイブは白銀の風の如くシ
ザースに襲いかかった!

「ふーっ 終わった終わった」「これで全部だな」

それはナイトとゾルダが発見したシアゴーストを撃退し終わった時。影に潜ん
でいた闇が現実へと帰還しようとする2人の前に立ちはだかった。

「ともちゃん、よみさん、おつかれさまです」
「あーおまえはー!? このまえ襲った黒いのだな!」「とも、こいつが…?」
「はい♪ よみさんの予想通り、私がリュウガですよー」
「…そうか。昨日は神楽が世話になったな」《シュートベント》
「いえいえー」《ソードベント》

ゾルダの肩に装着された2門の大砲ギガキャノンを真っ直ぐ見据えるリュウガ。
その手には黒き剣ドラグセイバーが握りしめられていた。一瞬即発の状態のま
ま、ゾルダはナイトに指示した。

「おまえはさっきの戦いでカードを使いきったんだろ」「…うん」
「早く逃げろ」「でもよみはどうすんの?」
「私も…後からいく!」

ギガキャノンからエネルギー弾が飛び出したのを合図にリュウガはゾルダに、
ナイトは現実世界に飛び込んだ。

「ともちゃんは逃がしましたけど、よみさんは逃がしませんよー」
「逃げてみせるさ!」

どこまでも強い態度で応えながらギガキャノンが無尽蔵に火を吹く。しかし…
ゾルダが背後に回りこんだリュウガに振り向いた瞬間、昨日から押さえ込んで
いた痛みが限界を突破した。

「っが、は…」《ファイナルベント》

大地に手をつけたゾルダは、呼吸するたびに襲ってくる激痛に苦悶した。津波
のように襲いかかる激痛に、ゾルダは歯軋りしながら痛みの排除に集中した。

「消えろ!消えろ!消えろぉ!」
「…よみさんが消えるのはどうでしょうか?」
「しまっ…!!」《アドベント》

大地より姿を現したマグナギガと
大地にひれ伏していたゾルダは
リュウガの黒い炎で燃やし尽くされた。

「…みんな…消えてしまえばいいんです…私が守ろうとしているものも、私を
 破壊しようとするものも…みんな…みんな…!!」

言葉を切るとリュウガは、動こうとしないマグナギガを残して廃墟となったミ
ラーワールドを後にした…

「よみぃ…よみぃ」

―…誰だ?

「よみ!起きてよぉ!よみ!!」

―私は疲れたんだ。もう寝かせてくれ…

「デブ!メガネ!脂肪!バカ!」

―なんだか酷い言われようだな…でも…ひどく懐かしい…

「よみぃ…」

―泣くな。私は…おまえの泣き顔なんか見たくないんだ…

「起きてよぉ…」「とも、か…」
「よみ!!」「そんなに強く抱きつくな…」

身体のあちこちがひどく痛む。もう…駄目か…無理もない…マグナギガに庇っ
てもらったとはいえファイナルベントだ…マグナギガにも…悪いことをしたな…

「脂肪は…言い過ぎだろ…」「だって…だって…」

また泣いている。まったく…いつまでたっても成長しないなこいつは…

「…お前の傍から離れると考えると…せいせいするよ…」
「ヤダヤダヤダ! よみぃー、死んだら一生恨んでやる!!」

ははっ…一生私を恨んでくれるのか。一生私のことを想ってくれるのか…

「ありがとな……とも……おまえ…は…死ぬ…な……よ………」
「よみ…?」「…」「よみ…嘘だよね…?」「…」「よみぃ…」「…」
「よみーーーーーー!!!!」

【仮面ライダーゾルダ、死亡。残るライダーはあと―9人】

【次回予告】

「うそだぁぁぁぁ!!!! …うあああああああ!!」
「ふーん…じゃあまずはわたしを止めてみなさい!」
誰もが等しくドラグレッダーの力が込められた炎の雨の前に沈黙した。
「おまえがよみを!!」

【戦わなければ生き残れない!】

【あずまんがー龍騎!】
【第43話 : 下された決断】

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