あずまんがー龍騎!
【あずまんがー龍騎!】
【第44話 : 落陽の海】

【Act1 : ゆかり : 戦いの準備】

「…ふうー。何とか逃げ切ったわね」

ゆかりは近くにあったフェンスにもたれながら深い息を吐いた。最後のライダ
ーになれば死者をも復活させることが出来る。士郎の言葉を信じて今は亡き友
との約束を破ってまで戦い続けるゆかりにとって、ここ最近の連敗は歯がゆか
った。

「どうして勝てないのかしら…」

先日のナイトとの戦いや今日の龍騎達との戦いは決してゆかりの運が悪かった
だけではないことを証明している。他のライダー達も強くなってきているのだ。

「私も何とかしなくちゃいけないわねー」

いつになく真剣な目つきでゆかりは王蛇のデッキを取り出すと、デッキの内容
を確認してみることにした。

ソードベント・ストライクベント・スウィングベント・ユナイトベントが各1枚
アドベントが3枚、ファイナルベントが4枚の計―11枚。

千尋が知ったらさぞ悔しがっていたと思われるほどのカードの量に、ゆかりは
感嘆の声を上げた。

「ふーん。けっこうはいってんだ。これ」

デッキを構築しているカードはサバイブ状態の時にランダムで現れるストレン
ジベント以外は、戦いの前であればライダーの任意で順番を変更出来る。もっ
とも、通常のライダーはストライクベント、ソードベントの攻撃に重点を置か
れたカードから始まり、ガードベント、トリックベント、アドベントのような
防御に重点を置かれたカードで翻弄し、最後に勝負を決めるファイナルベント
を叩き込むという戦術になっている。

(ふむ…やっぱり最初はファイナルベントよね! で、相手が驚いている隙に
 メタルゲラスに突進させて…)

他のライダーとは比べ物にならないほどのカード数を誇る王蛇のデッキだけは、
新しい戦術を使って勝負を有利に展開することが可能だということにゆかりは
今更ながら気が付いた。己を庇って消えていった仲間達から託されたたくさん
のカードは…決して無駄ではなかったのだ。

(にゃも…木村…待っててね)

王蛇の力を最大限に引き出せるようにカードの順番をカスタマイズしたゆかり
は、もたれていたフェンスから身を起こしてライダーを探すために街中へと向
かった…

【Act2 : 大阪 : 見つけたいもの】

―ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン…

規則的な振動が大阪の乗っている電車を襲い、心地よい眠りの世界へと誘う。
こっくりこっくりと夢心地になっている大阪にバイオグリーザが尋ねてきた。

『なぁ…その、「ウミ」にはあとどれくらいで着くんだ?』「あと少しやー」

ライダーではない一般人からすると、窓ガラスに潜んでいるバイオグリーザの
声も姿も気付かないので、傍目から見ると大阪は自分の席の窓ガラスに話し掛
けていることになる。幸いにも大阪の行為を不審に思う一般人は、その車両に
乗っていなかった。

『しかし今さっきもあと少しと言ってなかったか?』「そうなん?」
『そ、そうだ』「ほなら…もうちょっとや」『もうちょっとか…』

大阪の言葉に納得したバイオグリーザは、電車の窓から見える流れるような景
色を再び観察することにした。

(あっちの世界では…こうした景色を眺める時間もなかったな)

高見沢という男と契約していたバイオグリーザは、男が自らの地位に満足せず
に増長していく欲望に飲み込まれて戦い続けた過去に想いを馳せた。

(あいつは力を求めて戦っていたがこいつは…?)
『大阪』

再び夢の世界から生還した大阪は、己を呼んだバイオグリーザに顔を向けた。

「どうしたんやグリーザちゃん?」『…何のためにライダー同士で戦うんだ?』

士郎の言葉で戦いという快楽に目覚めた大阪を思い出したバイオグリーザは、
すぐに質問したことを後悔したが、返ってきた返事は予想外な答えだった。

「…私自身のためや」(自分の為?)

バイオグリーザは今までにない理由に困惑しながらも続きを待った。

「…私はちよちゃんやよみちゃんみたいに頭がいいわけでもない。神楽ちゃん
 や榊ちゃんみたいに運動が出来るわけでもない。智ちゃんみたいに元気でも
 ない。…私には、なにもないんや…」
『…』
「でも、この戦いに勝てば何かが…私にも見つかるような気がするんや。だか
 ら私は戦うんや」
『そうか…』

電車内に目的地の駅への到着を告げるアナウンスが流れた。大阪はバイオグリ
ーザを促がして一緒に電車を降りていった…

【Act3 : 優衣、榊、ちよ、士郎 : 解放される力】

龍騎から逃げるように現実に戻った榊は、優衣を抱きかかえたまま座り込んだ。
神楽までもが戦いを選んでしまった現実に打ちのめされていた。

「神楽…どうしてなんだ…?」「榊さん…」

榊はようやく自分がまだ優衣を抱きかかえていることに気が付いて、優衣を隣
に座らせて安否を訊ねた。

「優衣、大丈夫か?」「うん…何とか大丈夫みたい。あの、榊さん」「?」
「きっと、神楽さんにも神楽さんなりの考えがあるんだと思う。だから…」
「……戦うの?」

ライダーとなった時から聞こえる『戦え!』という声。コアミラーを見失った
今、戦いを終わらせるために榊が出来ることは戦う以外ないのだ。榊は諦めか
けた。優衣が見つけた答えを知るまでは。

「ううん。違うわ。私達で戦いを終わらせましょう」
「でも、コアミラーがどこに行ったのか、わからない…」
「…ちよちゃんがこの戦いを終わらせる違う方法を知っているの。榊さん、行
 きましょう!」

差し出された優衣の手。ディスパイダーから救った時から変わらない優衣の手。
榊は優衣の手を握りしめてちよの屋敷へと歩き出した。台所、居間、風呂場、
応接間…ちよの姿はどこにもない。1階の捜索が終わり、2階へとあがった2
人は「 ち よ 」と書かれた部屋の扉を開いた。

『…見つかっちゃいました…』「「ちよちゃん!」」

ベットの脇に置かれた机と全身鏡以外何もないちよの寝室。ちよは正面にいる
来客達の前から姿を消そうか迷っていたが、覚悟を決めた。

「ちよちゃん…戦いを止める方法を本当に知っているのか?」
『…ええ。榊さん』
「なら…」「ならどうして止めないの!? ちよちゃん!!」

榊が言いかけた言葉を優衣が一気に捲し立てた。榊の言葉を待てないほどに優
衣は焦っていた。一刻も早く終わらせなければどんどんライダー達が散ってい
く現実に、耐えられないのだ。肩で息をしている優衣を見ながら、ちよは右手
を後ろにまわしてオルタナティヴのデッキを握りしめた。

『…優衣さんの言う通りです。…わかりました。私がこの戦いを…』
『ちよの言葉を信じるな…』
「お兄ちゃん!」「優衣のお兄さん…?」

背後から聞こえた声に距離をとるちよ。
鏡に駆け寄る優衣。
聞いていた話を思い出す榊。

それぞれ異なる動きで全身鏡に来訪した士郎を見つめた。士郎は隣で距離をと
っているちよをじろりと威圧的に睨みつけながらデッキを取り出した。

『お前とここで決着を着けてやる…』「お兄ちゃん何を言っているの?」

一方のちよも先程から握りしめていたオルタナティヴのデッキを取り出して士
郎の誘いに頷いた。

『最初からこうするべきでした…』「ちよちゃん…?」

鏡を叩いて士郎とちよに呼びかけている優衣と榊を見て、士郎は呟いた。

『闇を貪れ…スリープベント…』

途端に優衣と榊は強烈な睡魔へと襲われていった。

「お…にぃ…いちゃ…ん…」
『榊さん…あとはよろしくお願いします。それと…本当にごめんなさい…』
「ちよ…ちゃん…」

倒れこんだ優衣と榊から視線を離し、ちよと士郎は合わせ鏡のようにデッキを
相手のデッキに反射させた。

『お前は俺に勝てない…』『…それはゼロの力を見てから言ってください』
『オルタナティヴゼロか…』
『ええ。ゼロの力を解放したらデッキが崩壊するので使えませんでしたけど…
 仕方ありません』

自分の思惑に反対してデッキを奪っていったちよ。
ミラーワールド形成のためにコアミラーに己の身体を封印した士郎。

ちよと士郎はしばらく押し黙って相手を見つめていた。もう言葉は必要なかった。

『…変身』『変身!オルタナティヴゼロ!』

【Act4 : ゆかり、大阪 : 仕掛ける者、仕掛けられる者】

街中で発見したモンスター、バイオグリーザを追いかけて電車に乗ったゆかり
は、大阪がバイオグリーザに話し掛けている姿を隣の車両から発見して大阪も
また仮面ライダーであることを知って喜んだ。

(これでまた戦えるわね♪)

大阪が駅に向かって降りていくのを確認したゆかりは、一定の距離を保ちなが
ら後を追う。最初に気が付いたのはバイオグリーザだった。

『…大阪』「グリーザちゃんどうしたん?」

鏡の向こう側から大阪の隣を一緒に歩いていたバイオグリーザは、電車に乗る
前から消えない気配に、第三者の存在を確信して報告した。

『どうやら尾行されている。多分…ライダーだ』
「…グリーザちゃん、海はもう少し待ってな」『ああ』

バイオグリーザの言葉に一瞬動揺した大阪だったが、すぐに腹を決めた。海へ
と向かわないで街の裏通りへと姿を消したのである。

数分後。大阪が消えた裏道へと辿り着いたゆかりは、大阪がいないことを認識
して真っ先に反射する物質がないかどうか周囲を見渡した。しかし人1人が通
れるだけの裏通りの壁は全てコンクリートであり、真正面は袋小路である。ゆ
かりは姿の消しようのない裏通りに頭を悩ました。

「間違え…たのかしらね?」『ゆかり先生、私はここやでー』「!?」

地面から聞こえた声にその場を飛びのいたゆかりが見つけたものは、ビンの破
片に映ったベルデの姿であった。ミラーワールドから呑気に手を振って存在を
アピールするベルデを見てゆかりは、理不尽な怒りをぶつけた。

「あんたねー …びっくりさせんじゃないわよ!」
『大成功や!』「…何よ大成功って?」

ベルデはゆかりの問いには答えずに今度は両手の人差し指をゆかりに向けてぐ
るぐるとまわした。

「な、なに?」『精神攻撃ー』「…。…変身じゃー!!」

《ホールドベント》

バイオワインダーを高速で振り下ろしながら袋小路へと王蛇を追い詰めるベル
デ。当初からの予定通りではあるが、カードも使わずにひたすら防御に徹して
いる王蛇は、ベルデにプレッシャーを与えていた。

(なにを考えているんやろう…?)

それでもベルデは王蛇を追い詰めていく。やがて…後ろに下がれなくなった王
蛇が袋小路の壁を背にした時、疑問を声に出さずにはいられなくなった。

「…なんで攻撃しないんや?」
「甘いわね。この程度の攻撃だったらカードなんて使う必要ないわ!」
「…ほなら、これでどうや?」《アドベント》

バイオグリーザに足を絡め取られた王蛇は天地が逆になった。それでもまだカ
ードを使わない。ベルデは腹の内を見せようとしない王蛇に焦りを感じて近づ
いてった。空中にぶら下がっている王蛇のグランメイルを掴んでベルデは、フ
ァイナルベントを見せつけた。

「…次で終わりや」「…それはこっちのセリフじゃぁ!」
《ファイナルベント》
「!?」

王蛇はベルデが無防備になる瞬間を待っていたのである。飛翔したエビルダイ
バーに吹き飛ばされたベルデを横目に、エビルダイバーの頭を掴んだ王蛇は壁
ぎりぎりを飛翔しながらバイオグリーザもついでに吹き飛ばす!

「まだまだぁ!」《アドベント》

壁を破壊して登場したメタルゲラスが、すかさず角でベルデを突き刺して持ち
上げる!

《スイングベント》「どりゃどりゃどりゃーーー!!」

片手はエビルダイバーの頭を掴んだまま王蛇は、メタルゲラスの角の上でじだ
ばたともがいているベルデに、情け容赦なくエビルウィップを何度も振り下ろ
しながら激突した。エビルダイバーから飛び降りた王蛇は、メタルゲラスの角
の上にいたベルデの姿が消滅しているのを確認して大満足だった。

「あんた達!良くやったわね!」「ガォォン!ガォォン!」
「だから抱きつくなー!!!!」「ガォッ」

【Act4 : 大阪 : 落陽の海】

「グリーザちゃん。…ごめんな」「謝らなくていい…」

王蛇のハイドベノンで撃墜されたバイオグリーザは、メタルゲラスに捕まって
いるベルデを見つけて咄嗟に飛び込んだ。結果、両者共に助からない傷を身体
に刻みながらも、何とか支えあって海へと歩いていた。

「わたしは戦うことを選んだのに結局…誰にも勝てへんかったんやなー」

ベルデの鎧が砕けた大阪は、バイオグリーザに支えられたまま悲しげに呟いた。
足は動かしながらも、律義にバイオグリーザは返事した。

「おまえは…頑張ってたよ」「でも実は結ばなかった」
「それでも…おまえの熱意と努力は、他のどのライダーにも負けていなかった」
「…そうなん?」
「そうだ。自信を持て。おまえにも…何かがあったんだよ」
「…わたしにも…智ちゃんや神楽ちゃんに負けない何かがあったんか…」
「ああ」
「……グリーザちゃん、これが…海や…」

沈みゆく太陽が一瞬だけ垣間見せる紅の炎。眼前に広がる海はその紅の炎で燃
えていた。

「きれいやなー」「これがウミ…」

2人はしばし黙って紅い海を眺めていた。やがて紅い炎が消え、夜の闇が開幕
しようとしていた時。大阪が沈黙を破った。

「グリーザちゃん」「…なんだ?」
「…そろそろお別れや」
「……そうか…」

自分の身体から飛び散っていく粒子が激しくなったことを感じ取った大阪は、
バイオグリーザにお礼を述べた。

「グリーザちゃん…今までほんまに…ほんまにありがとなー」
「…気にするな。さらばだ……春日歩…」

最後にバイオグリーザが言った言葉。それは今の今までずっと呼んでもらえな
かった大阪の本当の名前。消え逝く間際なのに、一面の笑顔を浮かべて大阪は
ずっと付き合ってくれたパートナーに、最後の別れを告げた。

「…バイバイ…バイオグリーザちゃん…」

その言葉を最後に大阪は音もなく消えた。涙を流せないまま、バイオグリーザ
は洛陽の海から背を向けて消えた…

【仮面ライダーベルデ、死亡。残るライダーはあと―7人】

【次回予告】

《ファイナルベント》《ファイナルベント》
「私はやなんだよ!もうやなんだよ!」
「力ずくでもタイガのデッキを壊させてもらうぜ!」
「とっても簡単なことです優衣さん。さぁ、コアミラーに近づいてください…」

【戦わなければ生き残れない!】

【戦士達への鎮魂歌】
【べるんでぃぬ宝】
【あずまんがー龍騎!】
【第45話 : ミラーワールドの力】

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