あずまんがー龍騎!
【あずまんがー龍騎!】
【第47話 : 牙と翼】

【Act1-1 : AM10:02 : ゆかり、優衣 : 手洗い所(病院三階) : 全てを犠牲にする覚悟】

「ゆかり先生…黒沢先生や、木村先生の代わりに…私があなたを止めてみせます!」

優衣の真っ直ぐな視線がゆかりにみなもを連想させる。長年、ゆかりと苦楽を共に
してきたみなもはもう…いない。否。何としてでも取り戻す為にゆかりは今、ここ
にいるのだ。

「…ついて来なさい」

強制的にライダーとして変身した日から、誰かの手の平で踊らされていることはわ
かっている。踊ることを拒否したみなもと木村がオーディンによって奪われ、戦う
ことを放棄しかけていたゆかりが知った
『最後のライダーはどんな願いでも叶えることができる』
ことも、真偽が定かではないことを本能的に感じている。

「ここがいいわね」

それでも。その話を聞いたゆかりは、かつての時間を取り戻す為ならどんなもので
も犠牲にする覚悟を決めた。それが例え他のライダーの命、木村の忠告…みなもと
の約束であっても。

「「変身!」」

リュウガから聞いた戦いのタイムリミットは―今日。
ミラーワールドへと侵入した王蛇は、自分と同じく洗面所から姿を現したファムへ
と向かって跳びかかった!

【Act1-2 : AM10:02 : 優衣、ゆかり : 手洗い所(病院三階) : 全ての贖罪をする信念】

「ゆかり先生…黒沢先生や、木村先生の代わりに…私があなたを止めてみせます!」

優衣が榊の家に下宿していた時、突然訪れた来訪者、木村が別れの時に告げた言葉。
病室という空間の中で想起されたメッセージを優衣は当事者に告げ反応を窺ったが、
ゆかりは少しも臆すことなく優衣を見つめ返して戦いを宣告した。

「…ついて来なさい」

振り向くことなく舞台へと歩き続けるゆかりの背中が、戦いへの覚悟を妙実に語っ
ている。…わかっている。目の前の相手がもう言葉では止められないことを、自分
が持つ力を使っても止められないことを。それでも優衣は、病院の廊下を黙って歩
くゆかりの後ろについていく。

「ここがいいわね」

廊下を渡り終えたゆかりは手洗いの扉を開けた。人の気配がないことを確認し、ハ
ンドバックから「清掃中」のプラカードを取り出す。誰も入ることがないよう、扉
にプラカードを貼り付け、ゆかりは扉の奥へと姿を消した。戦う準備の余念がない
ゆかりに感心しながら、扉にかけた優衣の手が一瞬止まる。

今ならまだ間に合う。
デッキを破壊したらこの戦いは避けられる。
これ以上苦しむ必要はないと扉にかかった手が訴える。

「…」

でも、それは違う。ここで戦いを放棄したらゆかりは単に他のライダーと戦うだけ
だ。それでは、ライダーになった者同士が傷つけあうのを見守ることしかできなか
ったあの頃と何も変わらなくなってしまう。それだけは絶対に、できない。

―この戦いを仕組んだ兄の罪を贖罪する為に、
―木村先生に託された想いを無駄にしない為に
―これ以上ライダー同士が傷つけあうことを防ぐために

優衣は扉を開けた。

洗面所から自分を見つめる影がある。その翳は紫色の覚悟を手に持って最後のキー
ワードを声高く叫ばんとしている。優衣もまたゆかりの隣に並び立ち、交差させた
両腕を翼のように広げて左手はデッキに、右手は左肩にあわせ、白色の信念を具現
化させた。

「「変身!」」

【Act2 : AM10:05 : ゆかり、優衣 : ミラーワールド(病院前) : 牙と翼part1】

ディメイションホールからミラーワールドへと飛び降りる王蛇。時を同じくして真
横に舞い降りたファムに王蛇は視線を向けた。距離にしてわずか数十センチ。王蛇
は挨拶代わりにファムに向かって左拳を加速させた。

「どりゃ!」

扉を貫通して廊下に激突させる破壊力を秘めた王蛇の拳に対するは、帯刀している
ブランバイザーをディメイションホールで抜刀し、次なる場所を切り開く準備をし
ていたファムのレイピア!

ファムの小剣がドアを斬る。王蛇の拳が空を切る。

「はぁっ!!」

一刀両断に切り開いた活路を転がりながら利用し、廊下に飛び出したファムは迷わ
ず窓から飛び降りる。残された上半分の扉を拳で打破し、ファムの残像を見つけた
王蛇もまた同じく窓から飛び降りて追跡する。



三階の窓から飛び出し
二階の病棟を横目に
大地へ―!!



地上に衝突する寸前、ふわりとたなびいたマントがファムへの衝撃を殺す。
一方の王蛇は足跡が残るくらいの衝撃を芝生の上に残し、平然と聳え立つ。

空中から牙召杖ベノバイザーを取り出した王蛇は周囲の地形を確認した。

互いの距離は数メートル。地面には芝生、両脇には生垣と花壇という新緑の匂いを
感じさせる壁だけがあり、障害物も見当たらない。目の前にいるライダーがどんな
ライダーなのか、確かめるには絶好の舞台といえるだろう。

「…」

ファムの手駒は五枚。必要最低限の力しか与えられていないライダーにとって、安
易に力を使うことは死に繋がる危険性がある。王蛇にブランバイザーを向けたまま
ファムは動かない。

「ん? あんたが来ないなら…こっちから行くわよ!」

王蛇の手駒は十一枚。どう使っても負ける気はしないが、絶対に負ける訳にはいか
ないのだ。要心に越したことはない。王蛇はベノバイザーをくるりと持ち替え、尖
った先端部分をファムに向けたまま距離を詰め一気に斬りつけた!


踊りかかってくる蛇の牙に、白鳥もまた爪を向ける。


正確無比に急所を狙ってくる王蛇のベノバイザーは、直撃すればあっけなくファム
の敗北で戦いは終わるだろう。それほどまでに王蛇とファムの間には歴然とした力
の差がある。だが、それはあくまで命中したらの話である。

「くっ!! せい!! おらっ!! …ってあんた少しは当たりなさいよ!! キー!!」

一点に込められた力なら方向を少し変えればいい。ベノバイザーが当たる瞬間鋭く
払いのけてファムは次の攻撃に備える。

十合、
十一合、
十二合と凄まじい打ち合いを続けているが、王蛇は全ての牙を逸らされてしまった。

このまま牙召杖を振り回していても体力を消耗するだけである。王蛇は大地を蹴っ
て戦いを中断した。

「あんた…やるわね」「…ゆかり先生、これで考えなおしてくれますか?」
「はっ!! 冗談でしょ!」

ファムの提案を鼻で笑いとばし、王蛇はカードを一枚引き抜く。残る駒はあと…十枚!

「あんたを試してあげるわ!」

《ファイナルベント》

真紅の獣が空を翔けて主の元へと駆けつける。王蛇が飛び乗るや、エビルダイバー
は無限の空へと急上昇した。加速してからの体当たりという純粋な力のファイナル
ベント、ハイドベノン。ファムは迫り来る巨大な力の塊をじっと見つめた…

【Act3 : AM10:07 : 榊 : 美浜家(ちよの部屋) : 選択の時】

『…擬似ライダー・オルタナティヴと仮面ライダーリュウガの活動履歴は以上です…
 榊、さん、次のご命令を』

榊はサイコローグのコードを通して圧縮転送された莫大な情報量に頭が追いつかず、
次の指示を待っているサイコローグに一言

「…少し、休ませて欲しい」

と伝えるだけで精一杯だった。深く息を吸って吐く。深呼吸を数分繰り返して頭の
中で繰り返される様々な場面を整理し、もっとも重要な場面を束ね、この戦いの意
味を、残された皆を守る手段を、最も適切な次の行動を考え、榊は決断を下した。

「サイコローグ」『はい。ご命令をどうぞ』
「残ったライダー達の、現況を教えてほしい」
『………仮面ライダー龍騎と仮面ライダーナイトはマジカルランドの方角へと進行中』

ハッとした様子で榊はねここねこのストラップだけ付けてある飾り気のない自分の
携帯を調べる。サイコローグからの圧縮転送された情報が展開されていた間に、神
楽から何度か着信があったことが履歴に記されている。このままでは神楽と智は、
無数のシアゴーストとレイドラグーンにたった二人で立ち向かう羽目になる。…も
うのんびりしている猶予はない。

―ちよちゃん、ごめん。

今は亡き友人に一言謝って榊は気合一閃、サイコローグが映る全身鏡を蹴り砕いた。
飛び散った破片の中から手の平サイズのものを拾い、近くにいる筈のサイコローグ
に叫ぶ。

「サイコローグ、ここへ!」

美浜家を抜け、神楽と智が向かっているマジカルランドの方角へと駆け出した榊に、
サイコローグが次の報告を伝えた。

『………仮面ライダーファムと仮面ライダー王蛇は美浜病院にて交戦中』「…!!」

マジカルランドと美浜病院は正反対の位置にある。マジカルランドを目指せば智と
神楽に追いつける可能性はあるが、優衣の援護は不可能となる。逆に美浜病院を目
指せば優衣の援護ができるかもしれないが、無数のシアゴーストとレイドラグーン
の巣窟となっているマジカルランドに向かった智と神楽の命は…。

榊は動揺を押し隠し、サイコローグに最大の脅威、仮面ライダーリュウガの現況を
尋ねた。

「…リュウガは…」
『………仮面ライダーリュウガは現在、こちらの方面に進行中です。残っているラ
 イダーの現況は以上です。榊、さん、次のご命令を』

智。神楽。優衣。もう誰一人、失いたくない大切な人達。それでも選択しなければ
ならない現実。

「………サイコローグ」『はい』
「………このカードを神楽に、このカードは智に渡して欲しい。私は………病院へ行く」
『了解しました。………これから一定時間、サイコローグのアドベントとファイナ
 ルベントは無効化されますのでご注意ください。』「…うん」

バイク形態へと変身したサイコローグの気配が遠ざかっていく。

「神楽、智…すぐ、行く…だから……!!」

大切な人を守れなかった後悔が、榊にデッキを握らせる。
大切な人を守りたい意志が、榊に力ある言葉を解放させる。

「…変身!」

後には小さな鏡だけが残された。たくさんの想いを反射させながら…

【Act4 : AM9:30 : 智、神楽 : 暦の家(暦の部屋) : let's get started ready steady go!】

『…以上が私の考察だ。智でも理解できるように書いたつもりだからあとは自分で
 考えろ。追伸:おまえはなるべく死ぬなよ』

不覚にも最後の文章でまた零れ落ちそうになった涙を拭い、普段使わない頭をフル
回転させながら今後どうするべきか思案していたその時

「ん?」

ポケットの中の携帯が騒いでいた。取り出して相手を確かめてみる。神楽である。

「神楽じゃん!」「…その様子じゃ無事みたいだな。…良かったー」

暦を失って泣き崩れていた時、僅かに聞こえた声の持ち主、神楽。顔をあげた時に
はもうその場に居なかった相手が、電話の向こうから自分の安否を喜んでくれてい
る。暦が残していったものにはライダー同士が何故戦うのか結局書いていなかった。
神楽も同じ仮面ライダーとして、自分に戦いを挑むことだって有り得る。それでも、
今はいつも通りの関係で会話をできることが智には嬉しかった。

「あったりまえじゃん! それより生きてたんならもっと早く連絡くらいする!」
「あ、ああすまなかった。…ところで、その…智にお願いがあるんだけど…」
「? 何だよ。いつもの神楽らしくないじゃん。ほら、どーんと言ってみなさい!」

「…マジカルランドに一緒に来て欲しいんだ」「マジカルランドォ?」
「ああ。昨日すっげぇバカなことしちゃってさ…こんな時に智を巻き込みたくなか
 ったんだけど、もうお前以外…連絡が取れないんだ…」
「…連絡が取れない? それってつまり…」「………」

「…榊ちゃんも?」「…ああ」
「ちよちゃんも?」「…ああ」
「大阪も?」「……ああ」
「…優衣ちゃんも?」「………ああ」
「…」「…」

僅か数日の間に親しい友人の殆どがもう、いない。あまりに現実感がない話に智は
言葉を失った。無言になった会話の中で、神楽の嗚咽だけが電話越しに響く。

「…神楽ー、…おまえ、泣いているのか」「泣いてなんか…いない…」
「…それは友達が死んでも悲しくないってことか?」
「違う!!!! このバカ!!! 次そんなこと言ったら怒るぞ!!」
「…じゃあなんだよ?」「お、おまえに知られたくなかった…っていうか…」

声のトーンがどんどん落ちていく。自分でも何故泣いていることを否定したのか、
わからなかったからだ。そんな神楽の逆鱗に触れる智。

「…なーんだ。唯の負けず嫌いじゃん。これだから勝負バカは困るのよねー。素直
 に悲しいって言えばいいのに」
「っ!!!! そーゆうおまえはどうなんだよ!! みんな…みんな…消えちゃったのに、
 なんでそんなに冷静なんだよ!!」
「私は…よみがいなくなった時から…そうなるのなんとなく、わかってたから…」

「…!! ……わりぃ。智。私…」
「………そこ! 落ち込まない! …つまりー、今は悲しんでいる場合じゃないっ
 てこと!」
「………わかった。あとで悲しむことにするよ」
「そーゆーこと。で、私はどこに行けばいいの?」

神楽から集合場所を聞いた智は、暦の母親に一度挨拶をしてから勢いよく飛び出し
た。マジカルランドに何があるのかは知らないし、ひょっとすると神楽の罠かも知
れない。それでも智は前へ前へと突き進む。答えを探して、明日を求めて。

【Act5 : AM10:08 : ゆかり、優衣 : ミラーワールド(病院前) : 牙と翼part2】

ファムの目的はデッキのみの破壊。それゆえファイナルベントを使うことは出来ない。
王蛇の目的は他のライダー全員の脱落。それゆえチャンスを逃せない。

…ハイドベノンによる初撃が回避されることは承知の上だ。空高く舞い上がったエ
ビルダイバーの上で器用に態勢を整えた王蛇は、ベノバイザーにメタルゲラスを呼
び覚ます力をベントインする。

《アドベント》《トリックベント》

主に呼び出されたメタルゲラスは生垣の中から出現し、間髪居れずファムに突進した!

「ガォッ!! …ガォッ?」

時すでに遅し。体当たりした筈のファムの姿は消え、純白の羽毛だけが周囲にふわ
りと舞い上がる。混乱したメタルゲラスは、辺り構わず突進を始めた。王蛇はメタ
ルゲラスの隙だらけの行動にエビルダイバーの上から舌打ちし、メタルゲラスを帰
還させた。

「…! メタルゲラス、戻りなさい!」「ガォ…」《スイングベント》
「エビルダイバー、様子を見に行くわよ!」

左手はエビルダイバーの頭部を掴んだまま、右手に真紅の鞭エビルウィップを握り
締めて王蛇は地上へと降下する。エビルダイバーの上からエビルウィップをファム
が居た付近を中心に乱舞させたが反応は―ない。否!

「えぃ!!」

再び上昇して様子見を行おうとしていた王蛇が病院の窓を通った瞬間、一階に隠れ
ていたファムの体当たりが直撃し、王蛇はエビルダイバーの上から突き落とされた。

「むっ!」

墜落する瞬間、受け身を取りながらファムを探す王蛇。ファムは…自分の真上から
デッキに向かってブランバイザーを突きつけようとしていた!

「ふんっ!」

王蛇は横たわったままエビルウィップの端と端を持って、デッキに接触する寸前の
ブランバイザーをぐるりと動かしたエビルウィップで絡めとり、右手首のバネでブ
ランバイザーごとファムの身体の向きを変えので、ブランバイザーは虚しく芝生に
突き刺さった。

「えっ!?」「甘いわぁ!」

動揺したファムを両足で蹴って吹き飛ばし、その反動を利用して立ち上がる王蛇。
吹き飛ばされたファムはといえば、病院の壁に激突してズルリと芝生の上に倒れた。

「やっと見つけたわよー」《ソードベント》

先程とは位置が入れ替わって戦いが再開された。但し王蛇はエビルウィップとベノ
サーベル、二つの武器を持ってファムへと突進していた。王蛇の荒々しい足音を聞
いたファムは、ここは自分にとって不利だと悟って病院の一階の窓を利用して軽や
かに跳躍した。

「あーっ!! 逃げるなんてずるいぞー!!」

王蛇の抗議の声を無視して続けて二階の窓、三階の窓を利用して屋上へと姿を消す
ファム。契約モンスターが翼を持つブランウィングだからこそ出来る芸当であろう。

「ああ! もう!」

そんな軽業が出来ない王蛇は、ベノサーベルを病院の壁に投げつけて足場を作り、
屋上へと跳んだ。屋上にいるファムの手にいつのまにか見慣れない武器が握られて
いる。おそらくファムのソードベントだろう。健気に戦いつづけるファムの姿にみ
なもの影が重なる。…幻影を振り払い、王蛇はファムに勧告した。

「ね、そろそろ負けを認めない? そしたら楽に殺してあげるけど」
「…絶対に、イヤ」

先程と同じような会話。ぽりぽりと頭を掻く仕草を見せたあと、王蛇はカードを二
枚引き抜いた。

「…そっ…まだ勝負をするってわけね!」

《アドベント》《ストライクベント》

王蛇の背後に出現したベノスネーカーがファムを威嚇しながら命令を待つ。王蛇は
戦いを終わらすべく突撃した!

【Act6-1 : AM10:12 : 黒ちよ : ミラーワールド(???) : 繭空】

一面の闇。誰もを拒絶する深淵の中、かつてちよと呼ばれた人物がシアゴーストの
繭を無から生み出しては虚空へと吹き上げる。何もない闇の空はすでに無数の繭の
色で星の如く煌めいていた。しばらくの間、繭空を感慨深く眺めていた黒ちよだっ
たが、次の目的の為、闇を切り裂いてミラーワールドに出た。

人の悲鳴か、モンスターの声が響く以外ミラーワールドは無音の世界である。その
世界の支配者たる人物もまた無言で歩く。シャドウベントで眠りを呼び覚まされた
のがきっかけでここまで戦い続けてきた。本体であるちよには言いたいことがたく
さんあったが、昨日から反応がないので違う対象に怒りをぶつけることにした。

―…やっぱり榊さんですね♪

士郎の策略によってライダー同士が戦いあうという事態になることを怖れながらも、
ちよからカードデッキを託されてモンスターに対抗できるようになった人々。その
中でも、榊、歩、智、暦、神楽は大切な存在らしく、負の感情で構成された黒ちよ
にとってもまた特別な存在となった。一人は屠り、一人は消えた。残り―四人。ま
ずは一番逢いたい人に、自分が新たな力を得たことを知ってもらおう。カードデッ
キを取り出す。変身する必要はもうないが、気分転換にはなるだろう。

「変身!」

黒き龍、仮面ライダーリュウガ。同じ仮面ライダーを探してミラーワールドを移動
する。猫が鼠をいたぶるようなつまらないことにならないことを祈りながら。

【Act6-2 : AM10:21 : 神楽、智、黒ちよ : 電車(車両) : 囁かれる悪意】

「…つまりリュウガがちよちゃんの身体を奪って悪いことをしようとしているんだな?」
二人以外誰も乗っていない車両の中、無事合流した智に昨日のことを簡単に説明し
た神楽は智の言葉に頷く。

「ああ。どうしてリュウガがちよちゃんの中に入れたかはわかんないんだけどさ、
 まずい予感がする。……智」「…」
「その、ありがとな。一人じゃあ、私も心細かったんだ……智?」「…」
「…って寝てるのかよ。相変わらず緊張感がないやつだな。………私も寝るか」

規則正しく揺れ続ける電車は、あと数十分もあれば目的地に辿り着くだろう。隣に
仲間がいるという安心感もあってか、張り詰めた心に眠気が入り込み、神楽は久し
ぶりに深い眠りへと意識を失っていった。

普段の神楽なら決して見逃さないコアミラーの波長を逃したのはこれが最初で最後
だろう。デッキの気配を感じたリュウガがミラーワールドから抜け出し、二人の前
に降り立っていた。

「お休み中なんですかー…」

今ここで相手をしても良かったのだが、眠っている二人の横顔を見つめているうち
に、ふとした疑問が思い浮かび、本人に尋ねてみることにした。

「智ちゃん、智ちゃん」「んー…なんだよー…ちよちゃんかー…何かよーぉ?」
「智ちゃんはどうしてライダー同士で戦うか知っていますか?」「知らなーい」

予測していた通りの答え。夢と現実を彷徨っている相手に、黒ちよは面白半分でそ
れを伝えてみた。

「…最後に残った仮面ライダーは、どんな願いでも叶えることができるんですよー」
「ふーん。そうなんだー…」「…よみさんを生き返らせることだって可能です」
「………よみ? …!! 神楽、起きろ!」「ん…何だよ智… ……っ!!」

身体を揺さぶれて神楽も目を開けた。目の前には見慣れた人物がいる………否!

「ちよちゃん! …違うか…えーっと…とにかく! これ以上お前の好き勝手には
 させないぜ! 変…」

デッキを取り出して今にも戦おうとする気配の神楽に黒ちよは苦笑しながら最後の
扉を開けた。

「…シアゴースト、時間ですよ…♪」
 
―キィィィン… キィィィン… …ンィィィキ  …ンィィィキ  …ンィィィキ
  キィィィン…  キィィィン…  …ンィィィキ  …ンィィィキ―
             ― キ ィ ィ ィ ィ ン ―

ちよがそう呟いた途端。今までとは比較にならないほどの大量の共鳴が智と神楽の
頭に響いた。

「なっ!?」「うっ…」
「…たった今、マジカルランドでモンスターを開放しました。こんな所で私の相手
 をしていたら他の人の命が危ないですよ?」「っ!!」

黒ちよの言葉に激怒した神楽の拳は、窓ガラスの中へと潜った黒ちよには届かなか
った。窓ガラスを割ってやろうかともう一度神楽が拳を振りかざした時、拳の間に
一枚のカードが差し込まれていることを知った。神楽は黒ちよを睨みつけながら訊
ねた。

「なんのつもりなんだ?」
「敵に塩を送る、です…二人とも、私が帰ってくるまで生きていてくださいね! 
 …そうそう、智ちゃん」「…」
「さっき言ったことは本当ですよー。…それでは神楽さん、智ちゃん、また逢いま
 しょう。…幸運を!」

握り拳の状態から親指だけあげて相手の幸運を祈るのはちよの仕草。それを反転さ
せるのは黒ちよの仕草。苦虫を潰したような表情をしながら神楽は智に振り向いた。

「智、あいつが消える前に言っていた本当ですよーって、なんのことだ?」
「んー………忘れた!」「おまえなぁー…こんな短時間で忘れるなよ!」
「へへー…それより神楽、早く行こうぜ!」
「あ、ああそうだな」「変身!」

智に促されて神楽はデッキを見つめる。何の意図で黒ちよがこのカードを渡したの
かはわからないが、これからの戦いのことを考えると力はあるに越したことはない。
カードを指し込み、神楽もまた智の後を追う。

「変身!」

そうして車両の中は無人となった。智の心に一粒の黒い染みを残して…

【Act7 : AM10:13 : ゆかり、優衣 : ミラーワールド(病院屋上) : 牙と翼part3】

ウィングスラッシャーがメタルホーンに跳ね飛ばされ
ウィングシールドをベノスネーカーに溶解され
ブランウィングの体当たりが回避されても
ファムは戦いを止めなかった。

王蛇は苛々とエビルウィップを握りなおす。目の前にいる相手は決して強くはない。
戦いへの意欲が強い分ベルデの方がまだ歯応えがあった。それなのに、未だファム
を倒せないでいるとはどういうことなのか。

「…あんたしつこすぎ」「…」

先程からの攻撃に次ぐ攻撃が堪えたのか、ファムの返事はなかった。勝てないとわ
かっているのに決して下がろうとしないファムの態度に王蛇は益々気分を損ねた。
これではいくら勝ち戦といっても寝覚めが悪い。

「これが最後の警告よ。あんたの根性に免じて、命だけは助けてあげるから、デッ
 キを渡しなさい」「…ヤ」「…」「絶対に…イヤ…」「…」

立っているのが精一杯の筈の相手が、文字通り命を賭けて否定するたび王蛇は自分
が間違っているような酷く重い罪悪感に捉われる。ファムを通して木村やみなもが
自分を責めているような想いに揺さぶられる。何よりも、全てのライダーを倒して
一縷の望みに賭けると決めたはずの自分が、迷い始めていることがもっとも腹立た
しかった。

「ああ! もう! わかったわ! そんなに死にたいのね!」

《アドベント》《ファイナルベント》《ファイナルベント》

これ以上考えると戦えなくなるような不安を感じた王蛇は、手馴れた動きで三枚
まとめてカードを引き抜くやベノバイザーへと押し込む。自らの背後に現れた三
匹の契約モンスターを引き連れファムを粉微塵にするべく屋上を揺るがした…

【Act8 : AM10:15 : 優衣、榊 : 病院(屋上) : 暖かい眠り】

「……! …! ……!」

顔に落ちた水滴が、眠気を払い意識を呼び覚ます。目の前には…

「…榊さん…そっか、私は…ゆかり先生に…負けたんだ…」
「……!!」「……榊さん、ごめんなさい。もう…聞こえない、みたい…」「!!」

榊がミラーワールドから連れてきてくれたのだろう。戦った痕跡など影一つない屋
上に横たわったまま、優衣はぼんやりと目の前の相手を見つめる。

「榊さんには…ずっと、お世話になったね…」「…」

ディスパイダーから助け出してもらい、途方に暮れていた時に手を差し伸べてくれ
た人。飼っているネコを慈しみ、どことなく兄に似た雰囲気で今まで接してくれた
人。もし兄がこの場に居たら、榊のように涙を流してくれたのかもしれない。

「…榊さん、今までありがと。…これを、受け取って…」「!!!!」

ミラーワールドから見つけ出した一枚のカード。哀しみに満ちていた榊の表情に、
大切なものを取り戻せた喜びが入り混じっていく。ゆかり先生も、ライダー同士の
戦いも結局止めることは出来なかった。

でも…最後に榊さんの役に立てたことが優衣は無性に嬉しかった。

「…榊さんなら、きっと………」「………」

もう言葉がでない。それでも、伝わるものはきっとある。榊の手から伝わる体温が、
優衣を暖かい眠りへと誘う。次に向かう場所が、こんな風に暖かい場所であること
を祈りながら、優衣はそっと目を閉じた。

………
……


【仮面ライダーファム、死亡。残るライダーはあと―5人】

【次回予告】

「ちょうど良かった…あんた、私と戦いなさい」
「こ、こりゃあ…大仕事だな神楽」「あ、ああ」
《 …  ソ        ベ        ト    
        ー  ど      ン      … 》

【戦わなければ生き残れない!】

【あずまんがー龍騎!】
【第48話 : ナイトメア】

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