あずまんがー龍騎!
【あずまんがー龍騎!】
【第48話 : ナイトメア】

【Act0 : AM10:15〜AM10:30 : ゆかり : 病院(周辺) : 崩れ落ちる牙城】

やる気のない足取りにゆかりという名の影が付き従う。また一人ライダーを屠り、
普段なんら勝利の凱歌に酔いしれながら次のライダーを探して意気揚揚と歩いて
いる筈のゆかりに優衣の想いが付きまとう。

「私は間違ってなんかいない…!!」

脚を動かす度に先程の戦いがフラッシュバックする。結局優衣――仮面ライダー
ファムは、頑ななまでに最後まで託された願いを守ろうとし…守りきれなかった。

「私は間違ってなんかいない!!!!」

倒れ伏せる優衣。
突っ伏したみなも。

戦う前から感じていた既視感は戦いの終わりに死という単語で二人を結び付けた。
もっともそこには仮面ライダーオーディンの姿はなく、仮面ライダー王蛇――ゆか
りの姿だけがあったが。

何を言う訳でもなく横たわりながら見つめてきた優衣の瞳。
言葉より重く突き刺さるそれに耐え切れず、ゆかりは優衣の息の根を止めることな
く逃げ出し――そこでゆかりの意識は途切れた。

【Act1 : AM10:32〜AM10:37 : ゆかり : 病院(周辺) : 誤った選択肢】

『マダ倒レル時デハナイダロウ? 我ガ主ヨ。』

負傷している肉体に意識を集中。
四肢のあちこちに外傷を負っているが掠り傷程度。
戦いの場ですら相手を気配っているとは滑稽な悲劇。

だが今は劇の時間ではない。

次に状況把握。

ファムが消えた今、倒すべきライダーはあと―4人。
リュウガという不安定要素には純粋な力で淘汰。
我は存在する。全てに打ち勝つ為に。

『ダカラ寝テイナイデモット俺ヲ楽シマサセロ…!!』

べノスネーカーのすらりと伸びた尾がゆかりの肋骨で守られていない腹部を襲い、
そうしてゆかりは意識を取り戻した。

「…っ!!」

戦いに飢えたベノスネーカーがミラーワールドから放つ必殺の尾撃。
みなもが死んでからというもの寝起きの悪いゆかりを起こすのはいつもこの痛み。
慣れたとは言え痛いものは痛いのが世の常である。ゆかりはベノスネーカーに抗
議した。

「あんたねー……もう少し優しく起こしなさいよ!!」
『手加減シテイルダロ。ナンナラモット強ク叩イテヤロウカ?』

いつかベノスネーカーを蛇刺しにして喰ってやると決めているゆかりは、今がその
時なのかしらと寝覚めの頭で真剣に迷う。完全に覚醒しきっていない主を嘲けなが
らベノスネーカーは脅かす。

『今スグ起キナイナラ契約破棄ト見ナスゾ』
「…へーへー。わかりました。戦えばいいんでしょ。戦えば」

気怠けに左右に手を振りつつベノスネーカーからの一言でゆかりは気を引き締める。
仮面ライダー王蛇として強制された共生。それはいついかなる時も隙あらばゆかり
を襲い、贄を求める。一時はベノスネーカーとの契約を破棄してもっとまともなモ
ンスターとの再契約も考えたことがあったが諦めた。方法がわからないからである。

「さて、と…」

先程の戦いを記憶から凍結して封じ込める。己が殺めた者がかつて殺められた者で
あることも忘れた振りをして欠伸をする。何故ならゆかりの手はもうすっかり血に
染まっており、これからも血塗られるのだから――最後の、一人になるまで。

「んじゃ行こっか」

優衣の想いが、
木村の願いが、
みなもの約束が、

ゆかりの重圧であり、鎖であり、重荷であった。優衣という形となって立ち塞がっ
たそれを受け入れることなく力で薙ぎ払った今、もう振り返ることも立ち退くこと
も許されない。ただ、真っ直ぐに進むしかないのだ。

十二の墓標を求めて歩は前に進む。
命を求めて、命を求められて。

『次ハ誰ト戦ウ?』

いつから歯車が狂ったのだろう。ゆかりは次に戦う相手を選択しながらぼんやりと
想う。

優衣の申し出を断った時? 
リュウガの誘惑に魅力を感じた時?
みなもとの約束を反古した時?

「そうねー…」

いずれにせよ結局のところ、ゆかりは仮面ライダーという呪いの上で踊らされた傀
儡でしかなかったのだ。もっとも人形にも人形なりの願いがあり、操作された怒り
があるが。

諸悪の根源である神崎士郎の生死が判別しない今、ゆかりがみなもへと贈る次なる
花束の色は闇を連想させる深淵の黒で決まった。

「ここは景気よくリュウガといきますかー!」

【Act2 : AM10:31〜AM11:07 : 神楽、智 : マジカルランド(近辺) : 韋駄天の龍】

変身することによって超人的な力を得ることは、仮面ライダーになった誰しもが肌で
感じ取れること。だが、その力を通常の移動手段にまで昇華させた者はそう多くない。

神楽はそんな、稀有な存在だった。

飛び出した龍騎の後を追ったナイトが追いついた時、タイムリミットが鎧を蝕みつ
つあった。龍騎もそれに気付き、ぴったりとくっついて来たナイトへと振り返った。

「智、時間だ」
「それはいいけどさ、これからどうするんだよ? …鏡なんてどこにもないぞー」

見渡すかぎり一面コンクリートのジャングルであり、反射する物質がない。これで
は時間がきても断末魔をあげるという暗い選択肢しか選べないのではないかとナイ
トが不安をぶつけようとした矢先。いつのまに入手してたのか、龍騎の拳の中には
キラリと光るガラスの破片。

「さっすが神楽!」「いつも鏡があるとはかぎらないからな。…まずは一旦戻るぞ」
「へーい」

異世界からの境界線を抜けると同時に自分の身体が自分の身体ではないような違和
感、そして貧血に良く似た立眩みが身体を襲う。何度味わっても決して慣れること
のない不快感をじっと耐えている智に神楽は言葉を掛けた。

「あー…大丈夫か智?」

立ち上がるのも億劫な智は地面に座り込んだまま返事をする。

「…気持ち悪いー」

鏡を媒体とした力の代償として求められるのはしばしの休息。暗黙の了解としてわ
かりきっていることではあったが、こうしている間にも次々と命の灯が消えている
のだ。

「智…わりぃけどのんびりしている暇はねえ。次いくぞ!」「……へ?」「変身!」
「ちょ、ちょっと待ってよー神楽! 待てったら! …ええぃ! 変身だー!!」

………
……


二人が幾度目かの変身を繰り返しながらマジカルランドに辿り着いた時。
マジカルランドは阿鼻叫喚という言葉がぴったしの場所と化していた。

「神楽…どうしようー」

力の酷使も相まってか、珍しく弱気な態度でナイトが自分を見つめるのもしょうが
ないと龍騎は想う。なにしろ目の前のマジカルランドは白と青の二色で埋め尽くさ
れた状態なのだ。

「どうしようって…わ、私達がどうにかするしかないんじゃないかな」
「こいつらを?」

ヴ   フェヴ ヴ    ヴフェヴ    フェ   ヴフェー  ヴ  ヴ
  ヴフェ フェー  ヴ   ヴフェ ヴフェヴフェ  ヴー   フェー

「こ、こいつらをだ!」

あまりにもたくさんのシアゴーストとレイドラグーンが、ミラーワールドを行った
り来たりしており、頭の中でまるで壊れたラジオのように鳴り続ける共鳴に龍騎は
うんざりした。

――こいつは、持久戦になるな。

もっともその持久戦とは二対不特定多数という前後多難な戦い。いや――戦いにす
らならないかも知れない。黙って敵を見つめる龍騎にこれまた黙って龍騎を見つめ
るナイト。

「…行くか」「い、行くの?」
「智…おまえ何弱気になってんだよ! これぐらい楽勝楽勝!」

――神楽はそれが空元気だと知っている。

「そ、そうだよな! あんたに楽勝なら私には大楽勝だな! はーはっはっはは!」

――智もそれが楽観的観測でしかないことを感じている。

「おまえって、相変わらず失礼なやつだな…まぁいい。とにかくだ、私達が優先し
 なきゃなんねーのは…」
「人を助けること!」「人命救助だ!」

――仮面の中で二人は笑う。

「おっ! 智わかってるじゃん!」
「そういう神楽こそ、ただの運動バカじゃなかったみたいだな」
「本当のバカに言われたくねーな」「なにをー!」「やるか!?」

――あの頃のように。

拳を振り回すナイトに逃げる龍騎。仮面と目の前の惨状を除けばそれはありふれた
最後の日常。二人は改めてマジカルランドを見つめる。そう、要塞となったマジカ
ルランドを。

「さて、と。智………行くか。」「………うん。ねえ、神楽…」「ん?」
「別に心配しているって訳じゃないんだけどさ……死なないでね」
「………ああ。おまえもな!」

【Act3 : AM10:20〜AM10:26 : 榊、黒ちよ : 病院(屋上) : 蒼虎と黒龍の邂逅】

風が舞い、そうして榊はまた一人取り残された。手渡された一枚のカードだけが優
衣が存在していたという証であった。あまりにもあっけなく、現実味のない訣別。
託されたカードの上に涙がとめどなく零れ落ちる。

「優衣…」

別れを惜しむように榊は空へと手を伸ばすが当然そこには何もない。伸ばした右手
が何も掴めず地面に着く。

「優衣…っ!!」

モンスターから人々を守る為にライダーになった者達の命の碑が次々とミラーワー
ルドに刻み込まれていく。残された者は神楽、智、そして榊の三人だけ。もう、三
人だけ。

戦っても生き残れないこの過酷な現実を前に榊は声を殺して泣き続けた。
――黒ちよが現れるまでは。

「さーかきさん、やっと見つけました! 随分と探したんですよー」

高校時代からの長い付き合いが、声の相手が誰であるかを知らせる。
蓄積された過去の知識が、戦う相手であることを認識させる。
榊は涙を拭きちよ―黒ちよを睨みつけた。

「…リュウガ、その身体はちよちゃんの…ちよちゃんだけの身体だ。…これ以上の
 冒涜は、許さない…」

虎の紋章が輝る蒼い力の欠片が黒ちよを威圧する。黒ちよが神楽を唆してコアミラ
ーから奪い取ったこの身体のことはその場に居合わせた神楽と優衣以外は知り得る
ことでない筈。

「…優衣さんから聞いたんですか?」「いや…見せてもらったんだ…サイコローグに」
「そう、ですか。サイコローグはそんなことが出来たんですね…」

最後まで黒ちよが知り得ることが出来なかったサイコローグの特徴も、今となって
はもはやどうでもいいことだ。大切なことは唯一つ。みんなが最も信頼していたち
よの身体で、ちよが最も信頼していた相手を打ち負かすこと。それが黒ちよの願い
であり――ちよへの復讐であった。黒ちよは榊に語りかけながら歩き出した。

「…榊さん、私はちよの中に今までずーっと一緒にいたんですよー」

――かたや神崎士郎によって呪縛から解き放たれた影。

「そしてすっごく羨ましかったんです。私もこんな風にみんなとお喋りしたい、遊
 んでみたいって」

――かたや美浜ちよがもっとも信頼していた大切な人。

「でもそれは叶わぬ願いだったんです。私が私として誕生した時、私にはみんなへ
 の殺意と憎悪だけしか残されていなかったんです」

――どちらもちよという概念に結び付けられており、

「私は自分を…ちよを呪いました。こんな形で私を誕生させたことを。こんな形で
 しか世界と関わらせてくれなかったことを。…そして決めたんです」

――どちらもちよという因縁で縛り付けられていた。

「こんなライダーシステムを使ってまで、ちよが守ろうとしたみんなを…榊さんを
 倒すことを」

気が付けば二人の間にあった距離は手を伸ばせば届くまでの位置に近づいていた。
ピタリと足を止めて改めて榊を見上げ、黒ちよは思わず感嘆の声をあげた。

「ふえー…相変わらず榊さんって背が高いんですねー。」
「…」
「榊さん、私の身長取りましたね? かえしてー。かえしてくださいー。」

無邪気に榊へと手を伸ばして無理難題を要求する黒ちよ。それはまるであの頃の続
きのよう。榊も一瞬、全てを忘れて戸惑うが、沈黙を守り続ける。黙して語らない
榊の態度に、黒ちよは寂しそうに笑顔を向けながら言葉を紡いだ。

「ごめんなさい榊さん。…どうしても一度やってみたかったんです」

そう呟き、下を向いた少女があまりにも儚くて。気が付けば榊は黒ちよを抱き寄せ
ていた。

「榊、さん…」

目の前にいる相手は、かつてちよと呼ばれていた存在ではない。何人もの友人の命
を奪い、今も榊の命を狙っている危険極まりない相手。それでも。そうした存在に
創りあげた者の業であって黒ちよには咎がない筈。

しばしの沈黙。しばしの抱擁。それが二人の最初で最後の邂逅だった。潤んだ瞳で
榊をぐいっと突き放した黒ちよは、目をごしごしと袖でふきながら可愛らしいポー
チを開き、チロルチョコ大のクリスタルを一つ取り出して地面に投げる。どんな魔
法なのか、たちまちのうちに二人の間に鏡という境界が構築される。流れるような
動作で黒ちよが暗黒の輝きを誇るリュウガのデッキを取り出した時。たまりかねた
ように榊が口を開いた。

「ちよちゃん! …私は…私は!!」
「榊さん!」 

榊以上の強い口調で黒ちよは言葉を遮った。

「…その続きを言ったらダメです。それを聞いたら私は……私は…今すぐ榊さんを
 殺してしまいそうなんです。だから…このまま私と戦ってください」

戦うことだけが黒ちよに残された優しさ。榊は謝ることしか出来なかった。

「……すまない」「いえ、そんな」

黒ちよが慌ててフォローするのもやはり相手が榊だからであろう。それだけ榊のこ
とを大切に想っており…想っていたのだ。

「…私は…ちよちゃんのことが、大好きだった」
「…私も榊さんのことが大好きだったですよー」

.鏡にデッキを反射させる。
               。るす着装を物り贈のらか側うこ向
  自然に身体を動かす。
               。るえ唱を詞祝の為るす化現具を力

           ― 変 身 !! ―

【Act4 : AM10:45〜AM11:20 : 黒ちよ、ゆかり : 公園 : 刻まれる墓標】

猟師は我が物顔で噴水前のベンチを陣取りながら猟犬からの報告を待っていた。
やがて待ち侘びていた近況が噴水の中からゆかりへと届く。

『えびるげらすガ見ツケタゾ。襲ウカ?』

デッキを手に持ち、いつでもダイブできる態勢を整えているにも関わらず、何気な
い風を装いながらゆかりはベノスネーカーから詳細を聞く。

「ふーん。で、リュウガは何をしている訳?」
『仮面らいだーたいがト戦ッテイル』
「じゃあ今は動かないでいいわね」

あっさりと返答した主の声を聞いて不満げにベノスネーカーが問い返す。

『何故ダ?』
「いい? 私はあんたみたいに戦い大好きってわけじゃないの。勝ち残りたいの。
 ここまで生き残ったライダー同士のぶつかりあいなら命の削りあいは必然よ。タ
 イガとリュウガ、どっちが残ったとしてもこの方法なら絶対勝てるはずだわ。」
『漁夫ノ利カ。』
「…あんた、モンスターのくせに妙にそういう諺とか知っているわよね。なんで?」
『知ルカ。』
「ま、いいけどさ。と言う訳で、メタルゲラスとエビルダイバーにも連絡よろしくー」

ベノスネーカーの返事はなかったが、気配が遠ざかっていくことで渋々ながらもゆ
かりの提案に承諾したことがわかる。ゆかりはリュウガとタイガの戦いが終わるま
でまた待つことにした。

――それにしても…何だってあんな奴と相性がいいのかしらね?

ゆかりはメタルゲラス、エビルダイバーとは今のような会話が出来ない。以前その
ことをベノスネ−カーに訊ねてみたらライダーとモンスターの相性だという。

――私はあいつみたいに悪いやつじゃないんだけどねー。

そんなどうでもいいことを考えながら時間を磨耗させる。ふと空を見上げたら、入
道雲が大気の片隅で空を占領していた。ゆかりは何だか笑いたくなった。自分達が
こうして命の奪い合いをしていようが、ミラーワールドに人が引きずり込まれよう
が、結局朝がきて昼がきて夜がくるのだ。

「ほーんと…何をやってんだか…」

苦笑しながら手の中に収めた紫の毒を見つめる。脳裏を掠めるみなもや、木村、優
衣の比重が段々大きくなっている。これ以上座っていたら、きっと戦えなくなって
しまう。

「変身!」

身体を動かして時間を消費することにした王蛇は、ミラーワールドの公共物を破壊
したり、カードをより効果的に使えないかどうか色んな組み合わせを試しながら時
間を潰す。

「変身じゃー!」

四度目の変身を終えた時。背後に現れたベノスネーカーがそれを告げた。

『クルゾ。』

ベノスネーカーの声が王蛇を戦う戦士へと変貌させこれから戦うであろう相手、リ
ュウガとタイガのことを考える。

認めたくないが、リュウガは純粋な戦士としては最強に属するだろうと直感が告げる。
一方のタイガは、サバイブという未知のカードで強化されて以前撃退されたことがある。
どちらも厄介ではあるが、今この時だけは勝てるかもしれない。否。勝ってみせる。
王蛇は牙杖を構築しながらベノスネーカーに次の相手を訊ねた。

「…で、どっちがこっちに向かっているわけ?」「りゅうがダ」

戦いの勝者は常に一人。戦いが終わったということはライダーが一人消滅すること。
つまり

「残り三人。…いよいよね。」「負ケタラ許サンゾ」「しつこい!」

《ソードベント》

ベノサーベルで空気を切り裂きながらベノスネーカーが告げた方角へと翔けるーいた!!!!
「遅いわぁ!」

不意打ちにも関わらず、空中高くから振り下ろした王蛇の斬撃は、リュウガに届く
ことなくブラッグドラグバイザーが撥ね除ける。空中で態勢を整えながら地に足を
降ろした王蛇が見たもの。それは満身創痍の黒炎だった。

――今なら、勝てる。

ほくそ笑む王蛇にリュウガは声を絞り出した。

「ゆかり先生…見逃してもらえませんか?」
「それはだめね。私は死にかけた獲物を見のがすほどお人好しじゃないわ。それに
 相手があんたなら…なおさらよ!!」

気合一閃。ベノサーベルがブラックドラグバイザーを吹き飛ばす。頼もしい盾をも失
ったリュウガは、次々と飛んでくる蛇の牙に対して、両腕を傷つきながら後退する。

「そりゃー! そりゃそりゃそりゃそりゃっ!!」

勝利を確信した王蛇が、ベノサーベルを投げ捨て、零距離射程でファイナルベントを
ベノバイザーへとベントインしたその時。リュウガは己からデッキを破壊して変身を
強制解除し、ポーチに手を沿えた。

「………なによ、これ…」

勝利を確信した王蛇の身体に突き刺さるはレイドラグーン達の手刀。衝撃に堪えきれ
ず、王蛇は右手からベノバイザーを墜落させた。

「…仮面ライダーとしては反則になりますが、仕方、ありません。ゆかり先生は、こ
 の子達とでも遊んでいてください」

ミラーワールドの力の結晶、リュウガの最後の切り札、蟲繭。圧縮され、中に封じ込
められていたレイドラグーン達が王蛇の左手より先に爆発したのだ。

「…っ…あんたたちぃ…離れろぉ!! …!! リュウガ、戻りなさい! リュウガァァ!!」

身体を捻ってレイドラグーンを振り払った王蛇は、遠退いていく黒ちよに制止の声を
かけるが幽鬼の如く黒ちよは姿を消す。あとに残されたものは致命傷を負った王蛇と
無数のレイドラグーン。

再び王蛇を襲うべく突進してきたレイドラグーン達の合間を転がりながら、地面に転
がったベノバイザーを拾って目的のカードをベントインする。

《アドベント》《アドベント》《アドベント》

仮面の中で吐血しながら王蛇は両脇と真上に仲間を呼び出す。今すぐ帰還して手当て
が必要な傷であったが、レイドラグーン達がそれをさせない。活路を切り開くしか、
ないのだ。

「……あんたたち、全力で行くわよ」「指図ナド要ラン!!」「ガウッ!!」

レイドラグーン達を殴り続けながら王蛇はまた一歩進む。

左ではベノスネーカーが敵を払い、屠り、飲み込む。
右ではメタルゲラスが敵に突進し、貫き捨てる。
空からはエビルダイバーが敵を襲撃する。

「……どっけーーーーーー!!!!」

十二の墓標を求めて歩は前に進んだ。
命を求めて。命を求められて。

【Act5 : AM11:29〜AM11:42 : 神楽、智 : マジカルランド(鏡) : ナイトメア】

「ともーっ どこだー!!」

群がるシアゴーストをドラグセイバーで切り裂きながら龍騎は突き進む。ナイトと
別行動をとって早数十分。シアゴーストに襲われている人がいないかどうかチェッ
クしながら施設内を飛ぶが如く走る。走り続ける龍騎の目の前に黒い物体が出現し
た。ドラグセイバーを頭上へと高く持ち上げて龍騎は吼えた。

「じゃますんじゃねー…!?」

何も考えずにドラグセイバーを唸らせようとした龍騎は、今まで見てきた白一色の
世界とは異端の色の存在であることから、手を止め相手を知り歓喜を叫ぶ。

「サイコローグじゃねーか!! ってことはちよちゃんも無事なのか!?」
「…現在の私のマスターは榊、さんです」
「………そっか。…あ、でもそうすると榊は無事なんだな!?」
「榊、さんは仮面ライダーリュウガと交戦中」

――榊、さんは仮面ライダーリュウガと交戦中

榊もまた、自分達と同じくらい最悪な状況にいる。それにも関わらず目の前でサイ
コローグが呑気に自分と接触しているように見えて龍騎は激怒した。

「なっ!? それならなんでおまえはこんなところにいるんだっ!!」
「榊、さんの命令です」「そんな…そんなバカな命令があってたまるか! 今すぐ
 戻れ!」「…そうですね」

一瞬、龍騎は違和感を感じる。何かを見落としているような、小さな苛立ち。だが
それも、サイコローグが何処からか取り出した2枚のカードによって忘れ去られた。

「…命令違反ですが、時間がありません。2枚とも神楽さんにお渡しします」
「何だこれ? えーっと…サ、サバイブにー…」
「…両方とも時がくれば使用できるようになります。…今までのお礼です、神楽さん。」
「…? お、おいサイコローグ」

龍騎が声を掛けた時、すでにサイコローグは姿形を変え、大地を疾走していった。
突如現れ、突如消えていった孤高のバイク。龍騎は幻でも見たかのように呆気に取
られて立ちすくんでいたが、すぐに何をしようとしていたかを想い出し、受け取っ
たカードを押し込んで再び走った。

「おーい…かぐらー…」

ナイトもまた龍騎を探していたのだろう。龍騎は再びナイトと合流した。互いが無
事であることを確認して変身を解く。戦いの連続が身体に悲鳴をあげさせ、転がり
落ちるように帰還する二人。

「うー………疲れたー。神楽疲れたよう!」

智の魂の叫びが神楽の耳に届く。それは神楽とて同じこと。倒れこんだ態勢から腕
立てをする要領で座りなおした神楽も同感を示した。

「わたしだってつかれた。でも、これはわたしたちがやらなきゃいけないことなんだ」
「そりゃーそうかも知れないけどさー」

それでもまだ不満げな表情でこちらを見つめている智。さて何と言って宥めようか
神楽が頭を悩ませていた時、違う痛みが襲ってきて悩みを解消させた。

―キィィィン キィィィン

「っ! 神楽!」「わかってる。…すぐ近くだ。行くぞ智。立てるか?」
「あったりまえだい!」

走る。
見つける。
防ぐ。
逃がす。
追撃する。

龍騎とナイトがミワーラールドに到着すると、シアゴーストとレイドラグーンの反
応が明確に分かれる。シアゴーストの場合、手に持っている何かをしっかり手放さ
ずのそのそと逃げ出す。レイドラグーンの場合は手に持っている何かを放棄して突
進してくる。それらの姿はまるで働き蟻と軍隊蟻。逃げ出す蟻も襲い掛かる蟻も龍
騎とナイトはいずれも平等にホローコーストの対象とし、やがて血によって静粛さ
れた鏡地に龍騎とナイトだけが立つこととなった。

「ふーっ……あれ?」「? どうしたんだ神楽?」

最初に気が付いたのは龍騎だった。制限時間が近づくにつれて鎧の具現化が強制解
除されていく法則が、発動していないのだ。それが発動しないということがどうい
うことか、ちよに教えてはもらっているが、念の為に意識を集中させて龍騎は確認
する。

「……っ!! やっぱりそうか!!」「だからどうしたんだよ神楽?」
「智、いいからついて来い!」

龍騎はナイトへそう言い放つと近くにあった観覧車の籠に次々と飛び移っていく。
龍騎の言動がさっぱりわからないナイトではあったが龍騎の後を追い、観覧車の頂
上に立ってそれを知った。

「神楽、これって…」「…ミラーワールドが消えようとしているんだ」

ミラーワールドの水平線の彼方でビルが、木々が、車が上空へと舞い上がっている。
それは構築された物体だけではない。土地も舞い上がっているのだ。三百六十度見
渡すかぎり舞い上がっているそれらは徐々に、だが確実に範囲を狭めてきている。

「なんで!?」「きっと…榊がコアミラーを破壊してくれたんだ」

神楽には叶えることのできなかったちよの悲願。神楽はこっそり苦笑した。

――また榊に負けちゃったな。

「榊ちゃんが、コアミラーを…」「…ああ。これでこの世界ともお別れだな」
「…そんな…そしたら……よみは……?」
「じゃあ智、残っているモンスターを片付けに行こうぜ!」
「………」

ミラーワールドが消えることに浮かれていた龍騎は、石のように固まったナイトに
やっと気が付いた。仲間だと信じている相手に近付き様子を尋ねる。

「? どうしたんだよ智?」
「神楽、ミラーワールドが消える前にお願いがあるんだけど。…私と……」

地鳴りが大地を支配する。そのせいもあってか、隣にいるナイトの声がよく聞き取
れない。龍騎はナイトの言葉を聴き直した。

「何だよ智。はっきり言えよ」「……私と……」「私と?」「私と………戦え!!!!」

龍騎がその言葉を理解するより先に。ナイトのウィングランサーが龍騎の鎧に閃光
を刻み込み、龍騎は観覧車から大地へと墜落していった…

【Act6 : AM11:30〜AM11:38 : 黒ちよ : 学校(鏡) : 自己紹介】

校門をくぐりぬけて玄関へ。
グラウンドを横目に職員室へと目指す。
音の消えた職員室で勧められた椅子に座り、
見えない相手に頭を下げる。
透明な導き手が教室の手前で制止の合図を送りしばし待つ。
やがて自ら教室の扉を開いて教壇の前へと歩み寄る。

「み、美浜ちよです。よろしくお願いします」

誰もいない部屋で黒ちよの声が響く。
音が無に吸収されるのをぼんやり聴きながら、
ずっと、座ってみたかった椅子に向かう。

朦朧とした意識の中、黒ちよは最後に辿り付いた場所に満足し
やがて動かなくなった。

夢見たのはいつもみんなと過ごした高校生活。
願ったのはいつもみんなと過ごす楽しい日々。

それらは叶うことなく誰にも知られずに息絶えていったが、
それでも黒ちよは幸せだった。

窓側の一番後ろの席で風が流れ、黒ちよの幕は閉じられた。
そして、全ての幕が閉じ始めた…

【仮面ライダー王蛇、リュウガ、死亡。残るライダーはあと―3人】

【次回予告】

《フリーズベント》「変身!」《フリーズベント》
「よみがこのカードを残したのは…きっと戦えってことだったんだよ!」
《リターンベント》
炎と風が進化を運ぶ。二人がサバイブを選択したのは、皮肉にも同じタイミングだった。

【戦わなければ生き残れない!】

【あずまんがー龍騎!】
【第49話 : 時果つる世界】

【Back】

【あずまんがー龍騎!に戻る】

【あずまんが大王×仮面ライダー龍騎に戻る】

【鷹の保管所に戻る】
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送