あずまんがー龍騎!
【あずまんがー龍騎!】
【第49話 : 時果つる世界】

【Act1 : AM10:27〜AM10:30 : 榊、黒ちよ : 病院屋上(鏡) : 沈黙する希望】

《 …  ソ        ベ        ト    
        ー  ど      ン      … 》

歪な不協和音がタイガの手の中に黒き棘を与え賜う。
それはオルタナティヴがもっとも愛用していた邪を打ち砕く鉄の塊。

《ソードベント》

亡者の嘆きがリュウガの手の中に闇の刃を創り賜う。
それはリュウガがもっとも同属の血を吸わせた呪われし聖剣。

両者互いに得物を手にしながら微動だにしない。

一つは先手必勝が通じる相手ではないこと。
一つは知っている相手であるということ。
一つは負けられない戦いということ。

墓標のない墓が反射するサンクチュアリを戦いの舞台にすることにためらいはあったが、
彼の地でシアゴーストを相手に戦っているであろう龍騎とナイト、この戦いを終えるこ
とでしか葛藤と呪いを解呪することができないリュウガの過去を知っているタイガは。

――スラッシュダガーをランス代わりに突撃した。

距離にして数メートルの間合いをタイガ特有の俊足にて一気に詰める。
目標はミラーワールドでの生存と強化を施す力の源――カードデッキ!

――剣舞。

尋常ならざる動きに人ならざる動きが対抗する。

飛び込んできたスラッシュダガーをリュウガは左手を添えたブラックドラグセイバーで
火花を放たせながら直角に叩き落とし、病院の屋上のタイルに鉄の塊を接吻させる。

「えいっ!」

続けてブラックドラグセイバーでタイガを一閃。光が襲うよりも先にデストバイザーを
具現化させてそれを弾いたタイガは、剣と斧を交互に暗闇の化身の頭上へと振り下ろす。

「…」

放たれたタイガの両撃をリュウガはブラックドラグセイバーで受け止め、物理法則を無
視した動きで空中へと浮かび上がり、両脚でタイガの鳩尾に衝撃を与えて距離を作る。

「…っ」

屋上のフェンスにぶつかるまでの僅かな距離を強制移動している間もタイガは攻撃を止
めない。鉄の塊を投げつける。呪われし聖剣で弾かれる。氷の斧に力を求める。呼応する。

《アドベント》

フェンスにぶつかる寸前のタイガを支えるは鋭利な爪で敵を切り裂く白銀の虎。
デストワイルダーは両手で支えていたタイガをリュウガの頭上へと放り投げ、自身は己
が認めた主の敵へと突進した。タイガの斧、デストワイルダーの爪がリュウガに奇襲する。

――斬。

頭上からの攻撃を防いだリュウガをデストワイルダーの爪が掴んで倒す。
拘束から逃れようとするリュウガを白虎が引きずり投げる。
態勢を整えようとした黒龍を蒼虎が跳び立ち叩く!

…派手な衝撃音がミラーワールドを満たし――リュウガは沈黙した。

【Act2 : AM11:43〜AM11:46 : 神楽、智 : マジカルランド(鏡) : 分裂する絶望】

観覧車の頂で確認した世界の終わり――ミラーワールドの崩壊に喜び勇む龍騎とは対
照的に、ナイトの心は身体を包むダークウィングの翼同様真っ暗だった。

――ミラーワールドが消える?

ナイトにとってこの力はミラーワールドから人を襲う悪いモンスターから他の人達を
守る為の力だと教えられ、一途に信じていた――インペラーが脱落するまでは。

高校の頃同じクラスだった旧友の死を旧友から伝えられたとき、ようやく自分が持つ
力が死と隣り合わせの力だと知り愕然とした――ゾルダが腕の中で消えるまでは。

誰かを守るためでもなく。
モンスターに襲われたわけでもなく。
同じ力の持ち主に友人の命を奪われたナイトは。

遺されていったレポートを前に泣くことしかできなかった。

…喪失感が胸を満たしながらも、それでも誰かを守る為に戦い続けようと決めた矢先、
黒ちよが耳元で囁いて行った悪意ある助言と龍騎の確信がナイトの心を仮面で覆って、
ある決断を促した。

≪トリックベント≫

堕ちゆく赤龍が目にした者は、朝とも夜ともつかない黄昏の陽を背に飛翔するナイト。
翔びゆく騎士が耳にした音は、友を討ち倒す為に力を構築する自身のカードバイザー。

黄昏の騎士
影を負いて
闇を抱きて
力を増して
赤龍を襲う。

――目に見えない奇跡の秘薬を求めて。

空でも地上でもない場所で、重力の法則に従っている龍騎に追いついたナイトの残像が、
形となって龍騎を襲う。3つの異なる方向から襲い掛かってきたナイトの刃を刻まれた
龍騎は、体勢を整えられずに地面と衝突した。

「っ…!! なにすんだよこの…バカ智!!」

周囲にコンクリートの粉を撒き散らしながら立ち上がった龍騎は冗談っぽく非難の声を
ナイトに告げる。ずっとコアミラーを懸けてオーディンと戦い続けた龍騎にとって、今
の攻撃が単なる威嚇なのか、それとも殺意ある衝動なのかは経験上熟知している。それ
でも、今のことはいつもの冗談の延長線であって欲しいという微かな願いからわざと大
振りな動きで白煙を振るい落としながら、龍騎はナイトに近付こうとした。

「神楽!」

その途端、今の今まで黙っていたナイトが龍騎の名前を告げ、それに呼応するように龍
騎の身体が僅かに震える。期待と不安の入り混じった気持ちは隅に置き、龍騎はそっけ
なく訊ねた。

「何だよ。言っとくけど、謝るなら今のうちだぞ」
「さっき言ったことは本当、なの?」
「さっきって…ミラーワールドのことか?」「…」
「…ああ、この感じは間違いない。コアミラーの気配が消えた。だからもうすぐこの世
 界は終わる。でもそれが一体どうしたんだよ? それより早く謝れバカ智」
「…神楽はさ、最後に生き残った仮面ライダーはどんな願いでも叶うって知ってた?」
「…!? 智、おまえ誰からそれを!?」「………」

沈黙するナイトに龍騎は先程の殺意の意図を知る。ナイトもまた願いを叶える為に動こ
うとしている。だが、それはこの場で2人で殺しあうということ。コアミラーと融合し
ていたリュウガの気配が消え、タイガの気配も消えつつある現状を知っている龍騎は。

――ナイトまで失うことだけは避けたかった。

「………いいか智、それは全部嘘っぱちだ。オーディンが私達を戦わせようとして仕組
 んだ大嘘なんだ」「………」
「ま、バカのおまえが信じるのも仕方ないけどな。………皆、死んだ。死んだんだ……
 生き残った私達が…私達まで戦ってどうするんだよ!? それじゃあオーディンの思惑
 通りじゃないか! よみだって…よみだってそんなことおまえに望んじゃいねーよ!!」
「………」

押し隠していた涙が仮面の中で止め処なく流れ落ちていく。力なくうなだれるナイトに
龍騎は説得を続けた。

「智………帰ろうぜ」「帰る…どこに?」
「…死んだ皆の分まで生きれる世界に。それが…私達の、戦いだ」
「…」

言葉を発しないナイトにゆっくりと歩み寄る龍騎。

――闇が隠れた騎士に手を伸ばす赤龍。

「…私の…私の…」「?」

――2つの影が交じりて龍騎となる。

「私の帰る場所は………」「場所は…?」

――それぞれが、それぞれの、

「よみがいる世界だ!!」

――願いを求める龍騎に。

≪サバイヴ≫

【Act3-1 : AM10:31〜AM10:33 : 榊、黒ちよ : 病院屋上(鏡) : 償還される黒龍】

≪アドベント≫

人一人分の質量を叩きつけられたことで衝撃音という悲鳴をあげ、白煙という涙を流し
ていた混凝土の床が悲鳴と涙を流し終え、視界が明瞭になって虎は気付いた。
龍の姿がないことに。

―――否。

音もなく姿を消し去る術はこの戦いにおいても不可能に近いことをタイガは知っている。
リュウガもまた自らと同じ法則に従って戦っている筈。タイガは床をもう一度視認して
床に人一人充分通れる亀裂を発見し、理解した。この亀裂がリュウガの仕業であることに。

おそらくリュウガが床に激突する瞬間、拳で床を粉砕して衝突を避けたのだろう。これ
ならあの派手な衝撃音と白煙が発生したのも納得できる。タイガは深く息を吸った。

「…」

デストバイザーを握り締めて慎重に亀裂に向かって歩を進めるタイガ、後に続くデスト
ワイルダー。二匹の虎が仲良く亀裂を覗き込み…登校中に出会った友人に挨拶するよう
な自然さで、タイガは亀裂から覗き見える病院施設内に佇んでいるリュウガに話しかけ
られた。

「あ、榊さん! さっきのは流石に私でもダメかと思っちゃいました。今度は私の番ですね♪」
「!」

亀裂を覗き込むタイガに話しかけるは黒鉄のフィルターで保護された冷たく燃ゆる深紅
の瞳の持ち主、リュウガ。次いでその僕たるドラグブラッカーの牙が、タイガが身構え
るよりも速く噛み砕かんと牙で拘束し…天空から一気に地上へと加速した。

タイガを媒体に破壊されていく砂と石とセメントの結晶。
ぶつけられる力と怒りと憎しみと殺意の交響曲。

―――屋上の床下から一階の天井まで全ての面を穿ち、タイガは放り捨てられた。

「榊さん、このていどで倒れたらいやですよー」

契約した主への仕打ちに猛り狂うデストワイルダーと屋上で戯れながらリュウガは呟く。
そう、タイガには自分という不条理な存在の中に渦巻く怨恨を何もかもぶつけてから倒
れてもらわないと困るのだ。

―――もう少し手心を加えた方が良かったのかな?

デストワイルダーの爪を前腕でいなしながら僅かばかり不安になったリュウガは、タイ
ガを通して作られた穴を覗き見る。立ち上がったタイガとリュウガの視線が絡み合う。
龍は観る。傷つき、一度は倒れながらも、それでもなお誇りを失わない一匹の虎を。

―――それでこそ榊さんです。

「ドラグブラッカー!」「…デストワイルダー!」

名前を呼ばれただけで獣達は理解する。目の前の敵を全力で屠れと命令されていることを。
ドラグブラッカーはタイガに、デストワイルダーはリュウガに、一気に襲い掛かった!

【Act3-2 : AM10:32〜AM10:35 : 榊、ドラグブラッカー : 病院館内(鏡) : 氷結→粉砕】

死の匂い、死の予感が、タイガを中心に強く充満している。ドラグブラッカーから与えら
れたコンクリートの抱擁は、それほどまでにタイガの肉体に強く死を擂り込んでいた。

僅かに開かれた瞳からは慣れ親しんだ偽りの視界。
微かに動かせる四肢で立ち上がるはタイガの意志。

≪フリーズベント≫

四肢が自由に動かせなくても戦いは続く。氷結の力、冷気の吐息で不自由さを共有させる。
眼前に迫っていたドラグブラッカーの動きが鈍り、ドラグブラッカーによって全身が噛み
砕かれるよりも先に、タイガは常時隠し持っている鏡の中に飛び込んだ。

―――暗転。

遠くに人のざわめきを感じる。近くに獣の息吹が匂う。
戻らなければ殺られる。単純な話だ。そう、単純な話。

―――いそがないと…

榊はカードデッキから計6枚のカード全てを抜き出した。

ソードベント/アドベント/フリーズベント/ストライクベント/ファイナルベント/ファイナルベント

次いでカードデッキの中から今の状況にもっとも適切なカードを2枚繰り上げる。

フリーズベント/ストライクベント/ソードベント/アドベント/ファイナルベント/ファイナルベント

―――よし、これで… あとは…

「へん、しん…!」

―――暗転。

全身を締め付けられるような痛みに耐え、何とか祝詞を紡ぎ出したタイガは再度戦場へ向
かう。タイガの白い吐息が虚空に消える。院内はフリーズベントの影響で見事凍り付いて
いた。身体の凍傷を最小限に抑える為、壁という壁を粉砕しながら運動していたドラグブ
ラッカーはタイガの帰還に気付き、喜び勇んで牙で歓迎しようとしたがそれよりも速く、
タイガは冷気によって祝福されし斧でドラグブラッカーを停止させた。

≪フリーズベント≫

凍った世界がさらに凍て付く。支配者以外誰の存在も許さないアイスレクイエムの前に、
ドラグブラッカーは悲鳴のような咆哮を残し…氷の彫像と化して完全に沈黙した。

≪ストライクベント≫

氷の彫像を斧や剣によって切断するだけの体力が残っていないのならば貫けばいい。爪を
もった獲物は牙を持った狩人に歩み寄り、満身の力を込めてリュウガの契約モンスター、
ドラグブラッカーを貫いた。

! ! ! ! ! !

声にならない声で院内が満たされる。
氷の彫像からデストクローが引き抜かれる。
ドラグブラッカーの目から光が失われる。
空中に浮かび上がらせていた魔の力が消失する。
地に堕ちて粉々に砕け散る。
タイガ1人立ち尽くす。

…粉雪が舞うようにリュウガの力の源を冥府へと転送したことを実感せしタイガは、床に
膝を着けてデストクローを解除する。脅威から解放され、激痛を促す呼吸を行うだけで精
一杯となったタイガは、そのまま倒れこんだ。

―――デストワイルダーを失うまでは。

【Act3-3 : AM10:34〜AM10:36 : 黒ちよ、デストワイルダー : 病院屋上(鏡) : 奉げられる刀】

! ! ! ! ! !

…一度だけ同じ感覚を体験したことがある。リュウガは思い出す。そう、あれは神崎士郎
が使用したシャドウベントで本体から引き剥がされた時に感じた…

―――半身が引き裂かれる感覚。

デストワイルダーと鬼ごっこを楽しんでいたリュウガは、院内から洩れて聴こえた声なき
声と、形容し難い別離感、喪失感を感じ取って足を止めた。

…リュウガという存在は、ライダー同士の戦いを撹乱・篩い分ける為に神崎士郎が保険と
して構築したライダーであり、他のライダー―――タイガも含まれる―――達には余程の
ことがないかぎり敗北は、ない。その力の源たるドラグブラッカーも同様である。

リュウガもドラグブラッカーの実力を知っているからこそタイガを任せ、束の間の間から
かい半分にデストワイルダーを相手していたのだ。が、窮地に追いやれば鼠ですら猫に噛
み付く。ましてや相手は爪を持つ虎。噛み付かれるだけでは済まなかったのだ。絶対的な
余裕が裏目にでた結果に、リュウガは俯いた。

―――ドラグブラッカー…ごめんなさい。タイガ…いいえ、榊さん相手でしたのに迂闊でした。

波が引くように急速に力が失われていくのを感じる。黒き力によって装飾されていた愛剣、
ブラックドラグセイバーも同様に力の原型、只の刀と成り下がっている。

効果は永続。
後悔は一瞬。
決断は両断。

猛虎が飛び掛ってくるのを視認したリュウガは、強風を受け流す柳の如くしなやかさで身
体をグランメイルの能力限界まで捻り…

―――斬。

どこにでもある刀程度の威力と耐力の獲物に満身の力を込め、リュウガは今まで自分を影
から支えてくれたパートナーの弔いを、一刀両断したデストワイルダーで供養した。

折れて使い物にならなくなったブラッグドラグセイバーの所有権を放棄し、2つに別れた
デストワイルダーが空気に溶け込むように消えて亡くなるまでリュウガは不動だった。
そしてドラグブラッカーがタイガを用いて破壊した床の亀裂を再び観たのである。
…宿敵が在る病院内を。

―――牙を失い見下ろす黒龍、爪を失い見上げる蒼虎。
        どちらも悲しいまでに傷つき、どちらも哀しいまでに凛としていた。

【Act4-1 : AM11:46〜AM11:49 : 神楽、智 : マジカルランド(鏡) : 轟く疾風】

ナイトは龍騎が取り出したカードの意味も、力も、まだ知らない。

ナイトの身体を動かすのは蝙蝠の甲冑を司るライダーシステム。ナイトは意識しない
ままダークバイザーの切っ先で龍騎の手中に眠る未知のカードを虚空へと踊らせ…

―――自らに生き残る機会を与えた。

≪サバイヴ≫

ナイトを軸心にボレアスの猛々しさが、エウロスの智恵が、ゼピュロスの英気が、ノ
トスの生命力が、集束し、開放される。風のサバイヴの是認を受けた者はナイト、風
のサバイヴの拒絶を受けた者は龍騎。

荒れ狂う風の二面性が結果を導き出す。すなわち。
竜巻によって龍騎は吹き飛ばされ、竜巻によってナイトはナイトサバイヴへと進化した。

「智…」

立ち上がった龍騎は頭を垂れる。ミラーワールドの崩壊か、戦いのタイムリミットま
でサバイヴの力でナイトの攻撃を耐え続けるという選択肢が消失した今、戦いを放棄
せずに生き残る為には、もう手加減はできない。

―――結局、あいつの思惑通りになったって訳か。

「神楽ー、お前1人だけこんなカードを持っていたなんてずるい!」

どんな時でも想ったことをすぐに口に出すのはナイトサバイヴの性格。死闘しか残っ
ていない未来を前に、ほんの少し残された時間。

「ああ、わりぃ。それ、榊からもらったカードの1つなんだ。おまえと一緒に帰りた
 かったから使おうとしたんだけどさ…何か裏目に出ちゃったな。私って何でいつも
 肝心な時にこうなんだろうな………」
「………それは…それが、神楽の性格なんだからさ、仕方ないじゃん!」
「…そっか、仕方ない、か…」

ゴルドフェニックスの象徴たるサバイヴの翼は片翼だけではない。敵である筈のリュ
ウガから受け取ったもう1つの翼も、龍騎のデッキの中で時を待ち続けている。

「…智、私は負けない。お前には、絶対負けない。そして必ず生きて帰ってみせる。
 それが私の…生き残った者の責任だ」
「…私だって…絶対に、神楽に勝ってみせる!!」

≪ガードベント≫

龍騎が打ち鳴らす終焉の合図。
ナイトサバイヴが駆け抜ける深淵の破滅。

ナイトサバイヴはガントレットのように防護されたダークバイザーツヴァイが光る左
手で龍騎を殴りつける。打ち消すように龍騎が準備していたドラグシールドに穿孔が
奔る。ダークバイザーツヴァイによる零距離射程からの純粋なエネルギーの射出は、
盾という壁をあっさり打ち砕いた。

「!?」

弐刀のゴルドセイバーを手に襲ってきたオーディンですら滅ぼせなかった龍鱗の盾を
失った龍騎に、もはや守る術はない。ナイトサバイヴはそのまま流れるような動きで
ダークバイザーツヴァイからダークブレードを引き抜き…

―――龍騎を貫いた。

【Act4-2 : AM11:50〜AM11:52 : 神楽、智 : マジカルランド(鏡) : 唸る烈火】

身体に異物が侵入する。カードデッキにダークブレードが貫かれるより先に龍騎がで
きたことは端末を引き抜き、甲冑を強制解除することのみ。結果…ダークブレードは
生身の神楽を貫いた。

「つぅ…」

神楽の口から呻き声が洩れる。仮面を剥いだ神楽はダークブレードを突き刺したまま
動けないナイトサバイヴを睨み付け、ナイトサバイヴにしどろもどろの弁解を促した。

「な、なにしてんだよ神楽!? 私はおまえを傷つけたくないのに!! おまえがカード
 デッキを引き抜かったらそんな怪我しなくてもすんだんだよ!? なのにどうして!?」
「…いいか智。カードデッキを破壊されたら私はここから出られなくなる。それはつ
 まり死ぬってことだ。腹を刺されて死ぬのも、カードデッキを破壊されて帰らなく
 なるのも同じことなんだよ!」
「それは、そうだけど…」

神楽の腹部にじわりじわりと血の染みが死国の地図を製図する。押さえている手に溢
れ出た血もまた同様、紅蓮の鍵を真紅に染めつつある。神楽は言葉を続けた。

「智…おまえホントにバカだな。救いようのないバカだ。伝説のバカだ。」
「か、神楽だってバカのくせに人のことをバカに…するなよ…」
「ああ、私もバカだ。こんな戦いを終わらせることもできなかったし、一度は神崎の
 言葉に騙された。お前を止めることもできなかったし、今だってこんな傷を作っち
 まった。」

―――傷つけたという実感と傷つけられたという実感。どちらも2人を呪縛する。

「この傷じゃあ私も危ないけどさ…智、どうしても最後のライダーになりたいんだな?」
「…」
「…最後のライダーになってよみを取り戻す、か…智、わかった。私も…」

―――全力で戦うよ

ナイトサバイヴを両手の掌中で全力で突き飛ばす。ぞぶりという感触と共に抜け落ち
たダークブレードを彼方へと蹴り捨て、ナイトサバイヴがダークブレードに気を取ら
れている隙にデッキからカードを引き抜く。

ガードベント/サバイヴ/ソードベント/ストライクベント/アドベント/ファイナルベント

―――ガードベントじゃあ…智の攻撃を防げなかったら使えねーな。ストライクベン
   トも…タイムラグがある…

サバイヴ/リターンベント/ソードベント/アドベント/ファイナルベント

神楽のデッキから2枚のカードが地に堕ち、咆哮が続く。

「変身!」

龍の力が龍騎の周囲に凝縮する。グランメイルの中で流れ続ける血が通常の活動時間
の刻限以下を龍騎に予感させる。仲間達を傷つけ、倒してきたリュウガを許すことは
できないが時間がない。龍騎はカードデッキに眠らせたままだった不死鳥のもう片方
の翼、炎のサバイヴをドラグバイザーで召喚した。

≪サバイヴ≫

ハデスによる業火が大気を燃やし尽くし、ヘスティアの加護によって龍騎がサバイヴ
の力を身に纏いし時。血塗られたダークブレードを回収したナイトサバイヴは鞘に剣
をしまい、暦からの遺産をダークバイザーツヴァイに認証させた。

≪コンファインベント≫

全てを打ち消す魔力が急速に大気を彩る灼熱を蝕みつつあるが龍騎は惑わされない。
何故なら戦いによって消えていった仲間達全ての責任を背負って生き続けようとする
龍騎の意志はどんな魔力でも打ち消せず、炎を再燃させる為に必要な薪も榊から受け
継いでいる。龍騎は封ずる魔力に抗う魔力で対抗した。

≪リターンベント≫

―――逆行。

大気の火炎と時空の流れが龍騎を中心に歪み、再構築される。無の力に侵食されつつ
あった炎は勢いを取り戻し、時は龍騎にサバイヴの力を許した。対峙する風と炎。最
後まで勝ち残るべく風が轟き、最後まで生き残るべく炎も唸った…

【Act5 : AM10:37〜AM10:43 : 榊、黒ちよ : 病院館内(鏡) : 勝者であり敗者、敗者であり勝者】

天と地の狭間に闘う者の原型を誇るライダー達が存在している。

契約することで得られる魔の力が失われし今、研ぎ澄まされた動きとは言い難い動作
で天へと登るタイガ、地へと堕ちるリュウガ、どちらも気力だけでグランメイルを維
持させていた。

登る速度と落下速度が三階で交差する。タイガはリュウガを、リュウガはタイガを発
見した。両者互いに対の存在の真正面となる位置に立つ。距離にして数メートル。か
つては一瞬で翔べた距離も今では無様に奔って詰めるしかない距離。

「…まさか榊さんにドラグブラッカーが倒されるとは思いませんでした」

一歩前に進むリュウガ。まだ攻撃の届く距離ではない。

「リュウガ、デストワイルダーを、おまえが…」

一歩前に進むタイガ。まだ攻撃の届く距離ではない。

「ええ。一太刀で斬り裂きました。榊さんだって私のドラグブラッカーを倒したんだ
 からおあいこですよー」「………」

一歩前に進むリュウガとタイガ。もう、攻撃は届く。

リュウガの言葉を受けてタイガの周囲に冷たい殺気が集う。タイガに感化されてリュ
ウガも左手を深く引き、拳と周囲に意識を集中させてどんな攻撃で襲われてもそれよ
り凶悪な正拳突きを炸裂させる精神状態に整える。冷たい殺気と張り詰めた神経だけ
が2人に通いあい―――爆発寸前、タイガの殺気が収まっていった。

「? どうしました榊さん。まさか勝負を捨てた訳ではないですよね?」
「いや………その、リュウガ…頼みがあるんだ」
「…契約したモンスターを倒された怒りを抑えてでも頼みたいこと、ですか…?」

油断無く左手を引いたままリュウガは首をかしげた。

「何でしょうか?」「もう、戦いたくない…」「………榊さん、それは…」
「………わかっている。私も、そこまでは望んでいない。…これが頼み、なんだ…」

タイガは鎧の隙間からリュウガにも見えるように1枚のカードを取り出す。タイガに
とって、たった1つだけの存在を。

「それは…」
「マヤー。マヤーはずっと、神崎士郎に囚われていたんだ…」
「…ええ」
「…優衣が見つけてくれて…やっと取り戻した。でも、私はどうすればこの中からマ
 ヤーを助け出せるかわからない…だから…その…」
「私にどうにかしてほしい、ということですか?」
「…」

マヤーの封印を解くというタイガの望みを叶える。それはミラーワールドの力を手に
入れたリュウガにだけ可能なこと。だがそれは…

「確かに…今の私なら、マヤーを元に戻すことができます」「!」
「でもそれは…私が持っている力、得た力全てを使わないと難しいです。残念ですが…」
「そう、か…」

リュウガの返答を聴くやタイガの全身から命の輝きが色褪せていく。リュウガの身体
を動かしているのが、タイガとの決着を着けることなのに対して、タイガの身体を動
かしていたものはマヤーを助け出すこと。それが叶わないなら全てが無意味なのだ。
命の灯火が消え失せようとしている目の前の相手に、リュウガは慌てて塩を送った。

「ま、待ってください榊さん!」「…?」
「………わかりました。マヤーを助けましょう」「…え?」
「その代わり、榊さんは私のことを…私を倒すことだけを、考えてください…この後
 どんな結果になろうとも…マヤーだけは助けますから」
「………ありがとう」
「…お喋りはここまでです。榊さん、戦わなければ…」

戦士が戦士を認めた合言葉であり、そして…

「…生き残れない!」

雌雄を決する合言葉!

タイガが動いた。
大地に火花を散らせながら必殺の横薙ぎで空間を削り取る。

リュウガは耐えた。
脆い鎧が崩れることもためらわず、戦えなくなることも恐れずに。

リュウガは揮った。
タイガの横薙ぎを受けても耐えていた力と気力を拳に秘めて。

タイガは逸らす。
心臓とは逆の位置で正拳を受容し、肺の機能を1つ停止させる。

リュウガは繰り返す。
放った拳とは反対側の拳でもう1度タイガの心臓を狙う。

タイガは弾く。
この場に相応しくない魔力に満ちた鉄の塊で己が敵を全力迅振する。

リュウガは咆哮す。
空中に浮かび上がる力も持たない落下によく似た最後の一蹴で。

タイガも呼応する。
鉄の塊を置いて頼りない爪で未来に向かって駆け出す。

過去と未来が、慈しみと憎悪が、絶望と希望が―――交差した。

過去が未来を砕き、
憎悪が慈しみに癒され、
絶望が希望に翳を与えた。

―――静謐なる戦場に勝者が1人。
    其の名、かつてちよと呼ばれし者。かつてリュウガと呼ばれし者。

【Act6 : AM11:53〜AM11:56 : 神楽、智 : マジカルランド(鏡) : 促がされる破滅】

壊れ逝く世界の中で龍騎サバイヴとナイトサバイヴだけが向かい合う。どちらもその
身に生き残る力を秘めて。先手必勝。ナイトサバイヴが龍騎のガードベントを打ち砕
いた光の矢を牽制代わりに射た。

純粋なエネルギーが龍騎サバイヴの身体に傷をつけるよりも速く龍騎サバイヴが動く。
火炎の力で強化された龍の頭部を象った剣銃、ドラグバイザーツヴァイで乱れ飛んで
きた光の矢をはじき、切り裂き、逸らし、打ち落とす。

「おおっ!」

ナイトサバイヴが驚嘆の声をあげている最中、龍騎サバイヴはカードをベントインす
る。認証はまださせない。

「そんなんで驚いているようじゃあ、戦い慣れていない証拠だぜ!」
≪ソードベント≫

乱れ飛ぶ光の矢を避け続けながら、ナイトサバイヴの懐に入った龍騎サバイヴは勢い
よくドラグバイザーツヴァイに力を認証させる。ドラグバイザーツヴァイの先端に剣
が構築され、衝撃でナイトサバイヴは跳ね飛ばされた。

≪ブラストベント≫

龍騎サバイヴの追撃はナイトサバイヴの外套となって主を守っていたダークレイダー
からの翼による竜巻で届かず、ナイトサバイヴはダークレイダーの力で空へと舞う。

≪アドベント≫

龍騎サバイヴもまたドラグランザーに飛び乗りナイトサバイヴを追跡する。灼熱の塊
をナイトサバイヴに砲射するドラグランザー、竜巻で火炎弾をコーヒーカップやジェ
ットコースターのコースに逸らしながら主の意識のまま飛び続けるダークレイダー。

2人が戦っている間にも力を失ったミラーワールドの崩壊は加速していく。当初は地
平線の彼方の出来事が、何時の間にか動物園の檻に束縛されしものを観れるぐらいの
距離、マジカルランドまで迫っていた。

「もうここまで…」

戦う場そのものが無くなれば、願いが叶うのかどうかすらわからないまま戦いも終わ
ってしまう。焦りが逃げていた者を一転追う者へと変化させ、ナイトサバイヴはダー
クブレードを握り締め、ドラグランザーの真上へと急下降した。

「な!? …止まれドラグランザー!」

ダークブレードがドラグバイザーツヴァイに弾かれる。
ドラグランザーの背中に着地したナイトサバイヴが龍騎サバイヴに迫る。

―――剣戟。

互角の力で互角の戦いであったそれはやがてナイトサバイヴ優位となっていく。背中
からの風の加護を受けたダークブレードが龍騎サバイヴに重く、強く圧し掛かる。抵
抗できず龍騎サバイヴは後退していったが、背中の道にも終わりがある。龍騎サバイ
ヴはドラグランザーの尻尾の先端まで追い詰められた。

「…ずりいぞ智! 契約モンスターをそんな風に使うなんて!」
「そんなこと言っているようじゃあ戦い慣れていない証拠、だよ」

先程の言葉を龍騎サバイヴへと返し、ナイトサバイヴは最後の一歩を踏み込む。
下がれば落下、進めば斬られる。それなら…

―――龍騎はドラグランザーの尻尾を掴んで飛び降りた。

「今だドラグランザー! 噛み付けえ!」「えっ!?」

鎌首をもたげて主の命令を待っていたドラグランザーはナイトサバイヴに噛み付く。
龍騎サバイヴは追い詰められていたのではなく誘導していたのだ。

≪アドベント≫

「ダークレイダー、何とかして!!」

ナイトサバイヴは分離させたダークレイダーに望みを託す。
ダークレイダーの爪先がドラグランザーの瞳を狙い、ドラグランザーはそれを避ける。

ダークレイダーが爪先で切り裂く。ドラグランザーは左に向いて避ける。
ダークレイダーが嘴で突付く。ドラグランザーは右に向いて避ける。

龍騎サバイヴが大地へと安全に着地できる距離に到達するまで、ドラグランザーはナ
イトサバイヴを銜えたままダークレイダーを翻弄していた。

「おーい! もういいぞドラグランザー!」

大地に飛び降りた龍騎サバイヴの合図を聴き、ドラグランザーはナイトサバイヴを地
上に降ろす。解放された瞬間ダークブレードを一閃させたが、そこは敵も然るもの。
難なくナイトサバイヴの一撃を避けてドラグランザーは悠々と龍騎サバイヴの後ろで
とぐろを巻いた。

「…これでわかっただろ智。お前じゃあ私に勝てない」「…」
「私はお前がライダーになるずっと前からオーディンや、モンスター達と戦い続けて
 きたんだ。そして生き残ってきた」「…」
「ミラーワールドが消えるのも時間の問題だ。ここで起こった事は全部悪い…夢だっ
 たんだよ」「…」
「死んだ人達はもう戻らないんだ。…だから…だから一緒に…」「…るさい…」
「…うるさいうるさいうるさーーーい!!」

龍騎サバイヴの言葉を遮り、ナイトサバイヴは一枚のカードを引き抜いた。

―――ファイナルベントを。

ファイナルベントがベントインされ、生き残るためにはファイナルベントで対抗する
しかない。だがそれではナイトサバイヴも生きて帰還させることができなくなってし
まう。

「………そうか。そうかよ。もういい。…私は帰るよ。お前も気が向いたら戻って…」
「ダークレイダー!!」

ひとまず帰還して今の状況を回避しようと龍騎サバイヴが鏡を取り出した瞬間。
ダークレイダーの超音波が周囲一体の反射物という反射物を全て粉微塵にした。

「なっ!?」「逃げるな神楽」「おまえ…今、自分が何をしたのかわかっているのか!?」
「そんなことはどうだっていい! 神楽…これが悪い夢って言うんなら……私は、よ
 みと一緒に夢から覚めてやる!!」

≪ファイナルベント≫

【Act7 : AM10:44〜AM10:50 : 榊、マヤー、黒ちよ : 病院館内(鏡) : 奏でられる福音】

「勝負あり、ですね…」

私はリュウガの声を耳にして意識を取り戻した。どうやらファイナルベントを使って
そのまま倒れこんだみたいだ。瓦礫の中に埋もれているけど、もう、動けないな…。

「…リュ、ウ、ガ」

声を出すだけで辛い。変身が解けた私と、リュウガのままの…ちよちゃん。
確かに、勝負は決まったみたいだ…

―――結局、私は止められなかった…

これからもリュウガとなったちよちゃんが、苦しみながらも最後の、1人になるまで
戦い続けることを考えると…悲しい。でも…それが、リュウガが見つけた選択なんだ。
止められなかった私には、何も言う資格なんて…ない。

「…」

でも…約束は…約束だ。

「…マ、ヤー…を…」

私の…最後の、願い。

「榊さん、動けますか?」「…むり、みたい、だ…」
「そうですかー…それではちょっと失礼しますねー」

動けない私に代わって、リュウガがカードにされたマヤーを胸元から取り出し…

―――涙が流れそうなほど、暖かい光が奔った。

「…はい。榊さん、もういいですよー」

光が消えて、リュウガの声に目を開くと…

「…マ、ヤー…!!」「ミャーオ」

神崎士郎に連れ去られたてしまった、私の、大切な家族…!!
呼ばれたことに気付いたマヤーはリュウガの手を離れ、私の元に。
愛おしさに動かされ、私はマヤーの頭を撫でる。

大抵の猫は、私が手を差し出すと噛み付いてきた。理由は、わからない。
でも、マヤーは違う。マヤーだけが、私を拒まなかった…

「マ、ヤー…」「ミャーオ」

私は、もうすぐ死ぬ。でも、マヤーがいるから平気だ。
怖くは、ない…

見上げるとリュウガが、こちらを背に遠ざかってる。
マヤーを破くこともできたのに、リュウガは…ちよちゃんは、そんなことをしなかった。

―――伝え、たい………リュ、ウガ…

音になっていない。これじゃあ、駄目だ。
もっと、空気を吸い込まないと…っ…!!

「ちよ、ちゃん………」「…?」

やった…
届いたみたいだ。よし…さっきの要領で………

「………ありが、と……」
「…さようなら榊さん…」

さよなら…ちよちゃん………

―――………

………いけない…もう少しだけ…もう少しだけこの世界に……居たい………

「マ、ヤー…」「ミャーオ」

私が消えたら………マヤーは、この世界で、消えてしまうのかな………

「…マ、ヤー…」「ミャーオ」

もしかしたら…マヤーは、助かるのかな………

「……マ、ヤー…」「ミャーオ」

…もっと………生きたかった、な………

「…マヤー……ごめんね……そろそろ、お別れみたいだ………」

…もっと…マヤーや、皆と一緒に………嬉しいことや…楽しいことを………

「………マヤァ………」「ミャーオ」

……………

「ミャーオ」

………

……



【仮面ライダータイガ、死亡。残るライダーはあと―2人】

【最終回予告】

≪ファイナルベント≫
「みんな…」
「シアゴースト発見!」
「おまえ…よみ、なのか…?」

【この戦いに正義はない。あるのは純粋な願いだけである】

【あずまんがー龍騎!】
【最終話 : 最後の力】

【Back】

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【あずまんが大王×仮面ライダー龍騎に戻る】

【鷹の保管所に戻る】
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