仮面ライダー 神楽
【仮面ライダー 神楽】
【第三話】

『仮面ライダー 神楽』 第三話 <壱>

 ・・・・・・ややあって、いまだ煙と粉塵おさまらぬ空間にひとつ、黄色く光る球体が浮かんだ。

 「いいぞ、マグナギガ」

 そう言い残すと、ゾルダは屋上より飛び降り、一階玄関前に着地した。
 許可の言葉を聞いた鋼鉄の牛は口を開き、もの凄い勢いで大気を吸引し始める。爆煙・粉塵・細
かい瓦礫まで巻き込んで、彼方にあった球体をたちまちその口内へと飲み込んだ。

 半径ほぼ百メートル。ほんの数十秒前まで密集した住宅街だった場所に発生した更地――先ほど
のファイナル・ベントの威力で――へとゾルダは歩を進めた。

 「モンスターがくたばったのは、まっ、当然だけど」

 先ほどの球体はモンスターの魂とでもいうべきエネルギーの塊。それが出現したということは、
すなわち『死亡』を意味するのだ。

 「もう一匹は、ああ見えてもライダーだからな。一応はね」

 油断なくマグナバイザーを構えつつ、ゾルダは『眼』で周囲を丹念にスキャンした。遠距離から
の射撃を主要武器とする彼には、他のライダーより優れた視覚認識能力が備わっている。

 ・・・・・・たちまち目的のものは見つかった。

 更地の辺縁、かろうじて建物が全壊せずに残っている境界線の瓦礫に、半ば埋もれるようにして
タイガは倒れていた。

 「そこまで吹っ飛んだってわけか。どれ・・・・・・」

 うつ伏せに倒れているタイガに向かって、ゾルダはためらいもなく撃った。一発、二発、三発。
しかし、その体には着弾の衝撃での揺れ以外、なんら反応は見られない。

 「死んでるな・・・・・・まぁ、当然か。とはいえ、念には念をいれとくか・・・・・・」

 近寄っては撃ち、近寄っては撃ちを繰り返しつつ距離を詰め、やがて両者の距離は数メートルに
なった。ここまで近づいて観察しても、タイガには命の灯火のかけらすら感じられなかった。

 「よし、と。それじゃあ終わりにするか・・・・・・木っ端微塵にしてな」

 ゾルダの手が、デッキから一枚のカードを引いた。

 『シュート・ベント』

 マグナバイザーはその認識音とともに彼の手から消え、替わって巨大な砲が現れた。ギガランチ
ャーと呼ばれるそれを両手持ちで構え、ゾルダは照準をタイガの頭へと合わせた。
 引き金に指がかかる。
 ・・・・・・しかし、次の瞬間!
 タイガ=神楽の体は、何の予備動作もなしに空中に跳ね上がったのだ!

 「へへっ!死んだふり成功っと!」
 「何ぃ!」

 彼女はここまで吹き飛ばされたのではなかった。コンマ数秒で走りぬいたのだ。生命の危機に本
能が、そしてタイガの力が、反射的に行わせた緊急回避だった。さすがにエネルギーを使い果たし、
意識を失い倒れていたが、皮肉にもゾルダの銃撃が覚醒を促し、慎重な接近が回復のいとまを与えた。
 後はひたすら耐えて、敵が至近距離に近寄るのを待っていたのだ。

 「ち!」

 ゾルダもすぐに反応し、砲身を上に向け、タイガを打ち落とそうとする。が、武器を大型のもの
に持ち替えたことがあだとなった。彼にとってもギガランチャーは重く、取り回しがきかない。と
っさに撃った一発も、下にそれてしまう。

 「今度はこっちの番だな、てぃ!」 「うう!」
 「すげぇ痛ぇの我慢した分、たっぷりお返しさせてもらうぜ!てやぁ!おりゃ!」

 ランチャーを蹴り落としながら着地し、その勢いのまま肩から体当たりをかます。しかし、ゾル
ダはびくともしなかった。続いて顔や胸に放ったパンチにも、まったく動じない。彼の装甲はライ
ダー中でも一、二位を争うほど堅牢なのだ。

 「フッ・・・・・・素手とはな。ほんと、わかってないようだな、ライダーの戦い方ってやつを」
 「ふん、大きなお世話だ、よっと!」
 「おご!」

 ・・・・・・どこを蹴られたのだろう?ゾルダは奇声をあげると、前かがみになって固まってしまった。

 「へっ!ライダーの戦いはよく知らねぇが、『野郎』とのケンカなら慣れっこだぜ!」
 「ぐ、ぐ、お前、女か?」
 「何ぃぃ?見りゃわかるだろ、んなこたぁ!」
 「み、見りゃあって・・・・・・」

 神楽にはまだ自覚が乏しかった。自分が197センチの異形になっていることに。デッキ所有者
は変身後、それぞれのライダー固有の体格になってしまうのだ。さすがに防具のない腰から脚にか
けての部分は女性らしいラインを残しているのだが、この状況ではそんなところにまで観察してい
る暇などあるはずもない。

 「よぉし、だったら使ってやるぜカードを!こうなりゃ、一番凄ぇヤツをな!」

 タイガ=神楽の手が引き抜いたのは、デストクロー――彼女言うところの『爪』ではなく、デッ
キと同じ紋章――虎が描かれたものだった。知っていて選んだわけではない。『一番凄ぇヤツ』と
いう彼女の思念にデッキが勝手に反応したのだ。

 「さっき見せてもらったぜ、カードの使い方!何か入れるもんがあるんだよな・・・・・・おわ!」

 ――カードを入れる。その動作を思い浮かべたとき、タイガの手に突如、大きな斧が現れた。木
を切るそれではなく、戦場で人を斬る為の『戦斧』だ。――何か入れるもん、こと、召喚機。その
名をデストバイザーという。

 「これか!お、ここが開くな。よし、カードを入れて、セット完了!」
 『ファイナル・ベント』

 「お、斧がしゃべった?ファイナル?・・・・・・最終とか、そんな意味だっけ?うわ、なんだ!」
 「うわ、なんだこいつは!うぐっ!」

 タイガとゾルダ双方から、同時に叫び声が発せられた。
 突如現れたモンスター――いわば銀地に青い縞の二足歩行の虎――がゾルダを仰向けに押し倒し、
左手で地面に押し付けるとそのままタイガ=神楽に向かって突進しだしたのだ。
 物凄いパワーだ。ゾルダの背が大地との摩擦で火花を散らしている。

 一瞬驚いた神楽だったが、それが敵ではないことは本能的にわかった。
 あとは、体が勝手に動いた。腰を落とし、いつの間にか『爪』が装着された腕を、右を前、左を
後ろに引いて半身に構える。
 全身を巡るエネルギーが、その左爪に集中してゆく。

 (そして、あの虎がこちらに放り投げる獲物を貫いて、真上に差し上げる!よし!)

 神楽は技のフィニッシュに向けて、意識を集中させた。迷いも躊躇も一切ない。――敵を倒す。
心にあるのは、ただ、それだけだった。

 ・・・・・・しかし、彼女は大きなミスを犯していた。ゾルダの手にはまだ、マグナバイザーが握られ
たままだったのだ。

 「うぉぉぉぉっ!」

 意識が飛びそうになるほどの激痛に耐え、彼は愛銃を虎のどてっ腹に連射した。至近距離の銃撃
の威力に、たまらず虎は手を放し、苦痛に転げまわる。

 「ちぃぃぃぃ!スカったか。だったら、こいつでメッタ切りだ!」
 
 すぐに気を取り直し、デストクローで攻撃しようとゾルダに駆け寄るタイガ。だが、その鉤爪か
ら、腕から、そして全身から霧のようなものが立ち上り始める。

 「わわわ、これはあの時の!き、消えちまう。・・・・・・あれ、あいつも」

 見れば、ふらふらと立ち上がりかけているゾルダにも同様の現象が。

 「ち、あと少しで勝てるのに!うう、だめだ消えちまう!ああ〜!」

 無念さに身もだえするタイガ=神楽。しかし、東條の消失を目の当たりにした恐怖はまだ彼女の
記憶に新しく、抗することはできない。

 「お、覚えてろよ!」

 なんだか悪役のような捨て台詞を残し、手近な鏡に飛び込むしかない神楽だった。

『仮面ライダー 神楽』 第三話 <弐>

 緒戦をかろうじて生き延びた神楽。だが、大変なのはむしろその後だった。
 現実世界に戻り変身を解いたとたん、体を激痛が襲ったのだ。変身中に回復できなかったダメー
ジは、かなりの部分、生身の体に持ち越されてしまうようだ。しばらく神楽は動くこともできず、
道端に座り込むはめとなった。幸い――そういう若者は最近多いので、通行人には怪しまれなかっ
たが。
 横浜まで電車で戻り、帰り道、それこそ『気合』だけでMTBを走らせ、会社に戻った頃には精
神的にも肉体的にも限界に近かった。
 ああ・・・・・・しかし、夜更けの編集部には大久保がひとり、怖い顔で待っていた。

 「神楽〜、お前、定時(連絡)も入れずに何やってたんだ?こんな時間までよぉ」
 「す、すみません、編集長。つい忙しくて・・・・・・」
 「忙しくて?ほぉぉ〜、それじゃあ何かつかめたんだろうな、失踪事件がらみで」
 「はい、あらかた・・・・・・」 「何ぃ!」

 (・・・・・・しまった!)神楽はあせった。確かに、謎の事件の真相は、あらかたわかってしまった。
しかし、それをどう説明し、納得させるのだ。――できはしない。彼女自身ですら、今日の体験が
なかったら一笑に付してしまうような話だ。――ごまかすしかない。

 「あらかた・・・・・・わかりませんでした!」
 「はぁ!?お前なぁ、そんな日本語あるかぁぁぁぁ!!」

 ・・・・・・幸い、大久保は大らかな――というか、いい加減な性格だったので、丸めた雑誌で頭を数
発叩かれただけで解放された。
 その大久保も十分ほどすると、戸締りと火の元確認を命じてのち、帰ってしまった。

 神楽は、疲れ果てていた。とにかく眠りたかった。――だが、耐えた。次の戦いはいつ始まるか
わからない。備えなければならない。――窓のブラインドを閉めると、彼女はデッキを手にした。

 ・・・・・・神楽にとって、三度目のミラーワールド。それは全てが反転してはいたが、通い慣れた、
いや、住み慣れたOREジャーナルのオフィスだった。室内の鏡で変身したのだから、当然だが。
さすがにここで暴れるのは気が引ける。――タイガ=神楽は窓を開け、道路へと飛び降りた。

 「さてと、やるか。まずは『爪』!」 『ストライク・ベント』
 「よし、出たな。おお〜、なんだか両手に力がみなぎってくる感じだぜ。そりゃ!」

 神楽はその威力を確かめるべく、デストクローで次々と周囲にある物を攻撃していった。電柱が、
車が、まるで発泡スチロールのようにやすやすと裂かれてゆく。

 「す、凄ぇ〜!よし、次は・・・・・・なんだ、これは?氷?」

 他にどんなカードがあるかは、脳内にイメージとして浮かんでくるのでわかった。その中の『氷
の塊』のような図柄のカードを選んで念じ、デッキから引き抜いた。

 「これだよな。どんな効果があるんだ?ま、使ってみるか」 『フリーズ・ベント』
 「な!凍っちまったぞ、凄ぇぞ、おいおい」

 デストバイザーの認証音と同時に、目の前のトラックが白く凍りついてしまったのだ。試しにデ
ストクローで叩いてみると、ガラスが割れるような音をたてて砕け散ってしまった。

 「へへへ、こいつは色んな使い方ができるな。よぉし、次は・・・・・・これはこの前使ったファイナ
ルなんとかだよな。必殺技ってことか。そういやぁ、あの時出てきた虎って一体・・・・・・あれ、こっ
ちのカードの絵、あいつじゃないか。どれどれ・・・・・・」
 『アドベント』

 虚空から突如、あの時の虎型モンスターが現れた。
 タイガ=神楽の前に着地し、勇ましく雄叫びをあげる。

 「グォォォォ〜ン」
 「・・・・・・グォォンじゃねぇよ、こら!」

 神楽は無造作に、虎の頭をデストクローで叩いた。体育会系のノリか?あるいは動物への躾か?

 「ガガ!ガウ〜?」
 「ちゃんと挨拶しろ!名前は!」
 ――デ、デストワイルダー

 脳内に直接声が響いた。

 「で、ですと・・・・・・まぁ、いいや。で、お前は一体何なんだ。私の味方か?」

 後は脳内に現れるイメージによる伝達となった。言語体系が人間と違うので逐一翻訳するより手
っ取り早いのだ。

 「・・・・・・なるほど。私と『契約』してるわけか。正確には、東條がやったんだろうけど。で、私
に力を供給するとともに、忠誠を誓う・・・・・・か。その報酬として、定期的に他のモンスターを倒し
てその魂を与えろ?・・・・・・何ぃ、駄目なときは代わりに人間を食う許可を?それすら守れないとき
は、私を食うだぁ!こら!!」

 神楽はデストワイルダーの頭をバンバン叩き始めた。もちろん『爪』付きのままで。

 「こらっ!人を食べちゃダメだ!ましてや、私を食うだとぉ!こらぁ!」
 「ガォン、ガォォン、オオ〜ン・・・・・・」
 「何ぃ、だったらちゃんとモンスターを倒せ?・・・・・・そりゃそうだな。よし、立てよ!」

 神楽はそう言うと、すっかり怯えて――頭を抱えて丸くなっているデストワイルダーに手を差し
伸べた。虎は――恐る恐る、その手を取って立ち上がる。

 「叩いて悪かったな。お前とはうまくやっていけそうだ。えっと・・・・・・何だったっけ、名前?」
 ――デストワイルダー!
 「で、ですとら・・・・・・らーで?・・・・・・」
 「ガウ〜・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」

 ・・・・・・しばし無言での見つめ合いの後、神楽は破顔一笑、虎の背中をバンバン叩きながら言った。

 「よぉし、今日からお前の名前は『トラ吉』だ!よろしく頼むぜ、ト・ラ・キ・チ!!」
 「ガゥ?ガォォォォ〜ン!?」
 「お、なんだ。うれしいのか?へっへっへっ、私もうれしいぜ!」
 「ガォォォォ〜〜ン!?」

 ・・・・・・哀愁をおびた鳴き声が、ミラーワールドに木霊した。ああ、可哀想なデストワイルダー。
 ちなみに『トラ吉』は、神楽が子供の頃、家で飼っていた猫の名である。

 ・・・・・・そんな有様を、隣接するビルの屋上から見つめる影があった。
 黒を基調としたその体は、周囲の闇に溶け込んでしまっている。

 しかし、タイガの超感覚――あの時、はるか彼方のゾルダの攻撃を察知した――にも存在が気づ
かれなかったのは、それが理由ではない。全く、敵意や殺気がなかったからだ。
 ただ――ただ、ボーっと見ていただけなのだ。

 やがて影は、タイガが時間切れでミラーワールドから退出するのを見届けると、漆黒の闇にも似
たマントを翻し、姿を消した。

『仮面ライダー 神楽』

「ケガして入院したから見舞いに来てくれだって!ふざけるなってーの!」
「ああ?・・・・・・私の親父があんたに払った五千万のおかげだろ!このペテン師が!」
「私の目の届くところでは絶対殺らせねぇ〜!!」
『ストライク・ベント』「ファイナルでなくてあの威力かよ!」
「お、お前は誰だ!」

戦わなければ、生き残れない!

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