仮面ライダー 神楽
【仮面ライダー 神楽】
【第四話】

『仮面ライダー 神楽』 第四話 <壱>

 ――翌朝。
 たった一日で激変した神楽の事情などお構いなしに――当たり前だが――OREジャーナルでは
通常業務が行われていた。
 もちろん彼女自身も、眠気と痛みに耐えながら、たまった仕事を黙々とこなすしかなかった。
 午前十時を過ぎた頃、向かいの席=令子のパソコンから軽やかなメロディーが流れてきた。メー
ルの着信音である。令子は内容を確認するや、はぁ〜と、ため息をついた。

 「どうしたんですか、なんか悪いことでも?あ、また、嫌がらせのメールですか!」
 「もっとタチが悪いわ・・・・・・あいつからよ。ケガして入院したから見舞いに来てくれだって!ふ
ざけるなってーの!」
 「あいつ?ああ、あのセンセイですか?へっ、おーかた誰かに闇討ちされたんじゃないですか?」
 「多分ね、いい気味だわ。だけど、ほっとくと後でうるさいからなぁ・・・・・・神楽ちゃん、悪いけ
どお使い頼める?」 
 「え〜!い、いえ・・・・・・わかりました」

えらい言われようのその人物の名は、北岡秀一。
 法外な報酬と引き換えに、どんな黒でも白に変えてしまう――悪名高き天才弁護士。
 と、ある取材がきっかけで関わるようになったのだが、なぜか令子に一目惚れしてしまい、何か
とアプローチしてくるのだ。
 神楽にとってもイヤなタイプで、会いに行くのは正直、気詰まりだったが、尊敬する先輩の頼み
ではことわれない。代理で見舞いに行くことになってしまった。

小一時間後、虎ノ門界隈にある病院に神楽の姿があった。
 その深層、VIP専用個室のひとつが北岡の部屋だ。
 入り口の前に、若い男が一人いる――彼の忠実な秘書兼ボディガード、由良吾郎である。
 神楽が近寄ると、その前に立ちふさがった。

 「・・・・・・なんか用ッスか?」
 「ちわ〜、吾郎さん。センセイいる?」
 「だから・・・・・・なんの用ッスか?先生がご招待したのは令子さんッスけど」
 「見舞いっす・・・・・・なんてね。令子さんの代理で。入るよ?」
 「だめッス!」「なんで!」「令子さんだけッス!」「代理だって!」「だめッス!」

 騒ぎが聞こえたのか、中から北岡の声がかかる。

 「ゴロちゃん、どうしたの?誰?」
 「すみません、先生。OREジャーナルの、小っちゃいのが」
 「だ、誰が小さいってぇ!コラァ」「神楽ちゃんかぁ・・・・・・いいよ、入れて」

 応じた部屋の主の声はどこか弱々しく、確かに病人のそれであった。

 ――入った室内は、さながら一流ホテルのようだった。それも一泊何十万もしそうな。
 豪華なベッドに横たわったまま、北岡はだるそうに口を開いた。

 「・・・・・・で、何?」 「だから、見舞いだって」
 「はは、そんな無愛想な顔で見舞いっていわれてもね」
 「令子さんに頼まれて仕方なく来てんだ。じゃなきゃ、あんたなんかの・・・・・・」
 「おいおい、ご挨拶だなぁ。そうやって、娑婆を大手を振って歩けるの、誰のおかげ?」
 「ああ?・・・・・・私の親父があんたに払った五千万のおかげだろ!このペテン師が!」

 ――神楽と北岡の因縁は、OREジャーナル以前から発生していたのだ。

 神楽は高校時代、水泳部だった。運動神経に恵まれ、また彼女自身が真面目な努力家であったこ
ともあり、部内ではナンバー1だったが――所詮、進学校のヌルい部活動。校外での試合では関東
大会予選が限界だった。

 しかし、体育大学へ進学してから状況は一変する。そこの水泳部が導入した最新のトレーニング
理論による指導がぴったりはまったのか、飛躍的に成績が伸びていったのだ。

 ・・・・・・だが、それは悲劇の始まりでもあった。

 多くはスポーツ有名校出身の他部員にとって、無名校の新人に追い抜かれるのはプライドが許さ
ない。陰湿ないじめが始まる。――無視。ロッカー荒し。ドーピングの噂。神楽にとって、姑息で
ネチネチとしたそれらのやり口は、理解不能で耐え難いものだった。

 そして、ついに決定的な事件が起こる。校内の代表選手を決める選考会で優秀な成績をマークし
た神楽は、直後の検査で違法な薬物を検出されてしまった。・・・・・・一服、盛られたのだ。
 ここぞとばかりに囃したて、退部・退学を迫る部員たち。
 神楽はついにキレて、主犯格の女子部キャプテンとその取り巻きを殴って殴って殴りまくった。
 ――泣きながら。
 結果、キャプテン他二名は重傷。止めようとした連中も軽傷を負うはめになった。

 神楽の父親は一本気な男だった。娘から一部始終を聞くと、咎めるどころか逆にいたわり、励ま
した。『よくやった、お前は何も悪くはないぞ!』と。
 彼は娘の正義を証明するため、つてを頼んで優秀な弁護士を雇った。――それが北岡だったのだ。
幸運にも、あるいは不運にも。

 結果、父は報酬として貯えの全てを差し出し、さらに借金まで背負うはめになった・・・・・・。

 「おいおい・・・・・・重傷三名、うち一人は未だベッドの上だ。おまけに加害者には反省の色、一切
なし。それをさ、二十歳前の犯罪とはいえだよ、無罪だの不起訴どころじゃなく、事件そのものさ
え無かったコトにしちゃうなんてさ、俺じゃなきゃできないよ?例え五千万払ってもね」
 「その代わり、私は大学辞めなきゃならなかったし、水泳の世界には二度と・・・・・・」
 「それにしたってさ、表向きは自主退学。水泳辞めるのもお前の意思ってことになってる。一部
の関係者以外には漏れていない。完璧じゃない?」
 「だけど、もともと悪いのはあいつらじゃねぇか!なのに・・・・・・」
 「・・・・・・はいはい、そうだね。この話は、もう終わり。済んだことだからさ。で、代理っていう
からには、何か持ってきたの?令子さんからの愛のこもったお手紙とか?」

 神楽も気を取り直し、ニカッと笑うとテーブルの上に何かを置いた。

 「何これ?」 
 「桃缶一個さ、見てのとおり。・・・・・・これで十分、だってさ。んじゃ、お・大・事・に」

 皮肉たっぷりの笑顔を残し、踵を返す神楽。
 ジーンズに包まれた形の良いヒップが、歩みとともに自然に揺れる。

 そこに、北岡の視線が釘付けになった。

 ――残念ながら、彼女の『女』としての魅力に気がついたわけではない。その尻ポケットからの
ぞく青いケースが目にとまったからだ。

 北岡は、一瞬考え込んだ後、口を開いた。

「・・・・・・神楽ちゃん。ちょっと、そのポケットの青い奴、見せてもらえるかな?」
「ん、これ。ああ・・・・・・、おっと、だめだって!」

 つい、気安く見せてしまいそうになった彼女だったが、あわてて思いとどまった。

 「なんで?」
 「あ〜、これはさ、女の、なんていうか、ぷ、プライバシー?ま、そーゆーことで。んじゃ」

 自分でも何を言っているかわからないことをまくしたて、逃げるように神楽は立ち去った。
 残された北岡は、あごに手をやって考え込む。

 (・・・・・・な〜にが女のプライバシーだよ。ただの化粧コンパクト?ま、その可能性もある。あ
れでも女だし。だが、デッキだとしたら・・・・・・青色、この前の奴、タイガのと同じだ。奴も女だ
った。口調も似ている。もっとも仮面ごしだと、声自体は結構変わるからな。断定はできないが、
ま、要注意ってとこか)

 北岡の大きな手が、枕の下から何かを取り出した。それは綺麗な緑色で、表に水牛の紋章の刻印
された――カードデッキ!彼こそが仮面ライダーゾルダ、その人だったのだ。

『仮面ライダー 神楽』 第四話 <弐>

 「はぁぁ〜、終わった、終わった。・・・・・・さてと!」

 病院を出ると、神楽はラジオ体操のごとく、腕を大きく回した。――北岡との会話で穿り返され
た、まだ癒えぬ傷。その疼きを振り払うように。
 時刻は午前11時をとうに過ぎ、昼飯どきが近い。腹も減ってきていた。

 「よし!ちょっと遠いけど花鶏にいってみるか!サテンでもランチぐらいやってるだろ」

 神楽は携帯で令子に報告を済ますと、ひらりと愛車(?)MTBにまたがった。

 ・・・・・・健脚のおかげで小一時間後には到着できたのだが、遠くから見てもわかるほど店内は満員
だった。外にも数人のOLらしき女性が順番待ちしている。かなり繁盛しているようだ。

 「おいおい、きのうはガラガラだったのになぁ。仕方ない、時間つぶして出直すか」

 ――ちなみに、昨日は臨時休業だったのだが。

 神楽は、MTBを手押しして、辺りをぶらぶらすることにした。
 ・・・・・・とはいえ、足は自然と、昨日の惨劇の場所とは反対の方へと向いていた。

 (・・・・・・あのオバさん。あんだけでかい買い物袋だ、独身でなく、きっと旦那も子供もいたんだ
ろうな。私がもう少し早ければ・・・・・・くそ、涙が出てきた。バカ、泣いてどうなる!生き返るわけ
じゃない。今の私にできることは・・・・・・うう、これは!来たか!)

 ――またしても、あの音が聞こえてきた。ミラーワールドの扉が開き、モンスターが襲来するこ
とを告げるあの音が!神楽は涙をぬぐい、走り出した。

 (今の私にできることは、もう被害者を出さないことだけだ!全部は無理だけど、私の目の届く
ところでは絶対やらせねぇ〜!!)

 疾駆する神楽の10メートルほど前を、サラリーマン風の男が歩いていた。ランチを終え、会社
に戻るところであろう。その脇の自販機のガラスに怪しい陰が見え隠れしている。

 「危ねぇ、でやぁぁ!」 「え、うわわ・・・・・・おご!」

 ――間一髪!神楽が男性を突き飛ばすと、それまで彼の体があった場所に向けて怪物の手が伸び、
むなしく空を掴んでまた引っ込んでいった。

 「ふぅぅ、あ、大丈夫ですか!・・・・・・あれ?」

 男は、突き飛ばされたショックで失神してしまっていた。とはいえ御の字であろう。自分自身が
ランチにされてしまうのを免れたのだから。

 「・・・・・・ま、良しとするか。変身!」

 幸い周囲に人目は無い。神楽は自販機のガラスを使ってタイガへと変わり、ミラーワールドへと
身を躍らせた。

 「・・・・・・どこに行きやがった。え?ぐわぁ〜!」

 いきなり、タイガ=神楽は背中に一撃をくらってしまった。しかし、振り返ってもそこには敵の
姿は見当たらない。耳を澄ませ、気配を探りつつカードを引き、デストクローを装着する。

 (・・・・・・飛び道具か?また、あのドンパチ野郎がいやがるのか?いや、今の痛み、銃じゃねぇ)

 そこへ――風切る音!再び背後から!

 今度は察知し、爪で弾いた。目でも捉えた。それは、全長1メートルほどの回転する物体だった。

(あれは、ブーメランかぁ!?面倒だな。ま、どっちみち突撃しかねぇ!いくぜ!)

 猛然と、タイガ=神楽は回転刃の帰っていく方向へダッシュした。長射程の装備の無い彼女には、
今の状況ではそれしかない。
 ――だが、その脚は速い!
ブーメランを受け取ったモンスターに次を行う間も与えず、デストクローの一撃を叩き込む!

 「ギギギ〜!!」 「どうだ!ん、こいつ・・・・・・カミキリかぁ?」

 花の名前は知らねども――演歌の歌詞みたいだが――神楽は昆虫の名前はわりと詳しかった。子
供の頃、男の子に混じって虫取りをやりまくった成果だ。彼女の言葉どおり、そのモンスターは二
足歩行のカミキリムシとでもいうべき姿だった。

 機を逃すまいと、左右の爪での連撃を開始するタイガ=神楽。対して、敵――ゼノバイダー――
はブーメランを長刀のように扱い、防御を試みる。・・・・・・かと思いきや!

 「ギギ!」 「うわ!くそ、逃げるつもりか!」

 至近距離からそれをタイガの顔面に投げつけ、ひるむ隙に一目散に逃げ出したのだ。
 直ちに後を追って走り出すタイガ。しかし、敵は虫の分際で――いや、虫だからこそ、ちょこま
かと方角を変えて逃げ回り、なかなか厄介だ。

 「待ちやがれ、この虫けら野郎!ピンで留めて標本にしてやる!」 「ギギ〜!」

 しかし・・・・・・ゼノバイダーがタイガのタックルをかわし、路地から脇の家屋の屋根へ飛び上がっ
た時だった。――彼女の耳に、いまや聞きなれた認証音がかすかに届いたのは。

 『ストライク・ベント』
 「なんだ!私じゃない。すると他のライダーが、どこかに?うわ!」
 「ギ、ギャ〜!!」

 あれこれ考えるいとまはなかった。直後、見上げる屋根の上の敵は、飛来する火の玉の直撃を受
けて木っ端微塵に砕け散ってしまったのだ。

 (・・・・・・たった一撃だとぉ!『ファイナル』って言わなかったよな。必殺技でなくて、あの威力
かよ!くそ!)

 何者かが、屋根に飛び乗った気配がした。死角になっていて目視はできない。
 すでにモンスターは死んだ。目的は達せられている。無駄な戦いをする意味は無い。おまけに相
手はたぶん――強い。
 ・・・・・・しかし、いや、だからこそ、神楽は自分を抑え切れなかった。――この目で見たい!

 「ええぃ、いっちまえ!とぅ!」

 短い掛け声とともに、タイガ=神楽は屋根へと跳んだ。

 中央に、黄色く光る玉――死んだゼノバイダーの魂をはさみ、ちょうど反対側にそいつは立って
いた。赤を基調とした体。銀の仮面と胸当て。その左手には、龍の頭を模した手甲。そして、龍そ
のものが、背後の空に悠々と泳いでいる。

 (・・・・・・こいつ、強ぇぇ!)
 見ただけで、確信した。本能が――神楽の、そしてタイガの――教えてくれた。赤いライダーの
力量を。
 怖気づく心をねじ伏せるように、大声で問いかける。

 「お、お前は誰だ!」 

 『仮面ライダー 神楽』

 「おっと、背を向けたのは、フェイントのつもりか!?へっ、甘ぇな!」
 「キャァァァァァァ〜〜、お化けぇぇぇぇ!!」
 (榊さん、早く戻ってきて!殺されちゃう〜)
 「にゃも〜、いい加減にしなよ〜。酒、不味くなるぞ〜」
 「・・・・・・先生もきっと悲しんでるだろうな」

 戦わなければ、生き残れない!

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