仮面ライダー 神楽
【仮面ライダー 神楽】
【第五話】

『仮面ライダー 神楽』 第五話 <壱>

 ――龍騎!

 答えは耳にではなく、直接脳に響いてきた。痛みを覚えるほどのボリュームで。

 (・・・・・・ぐわ、あたま痛てぇ!龍騎だぁ?あの龍か、言ったのは?)

 そう、かつてデストワイルダーが、神楽に名乗ったときの感覚と同じだった。すなわち、聴覚を
介しない会話だ。
 (・・・・・・面白ぇ。で、だからどーしたってんだ、ええ?)
 神楽は次を待ったが、それ以後、龍からの語りかけは無かった。龍騎とやらの反応も無い。ただ、
静かに立っているだけだ。

 (・・・・・・なんで黙ってるんだ?そっか『誰だ』としか聞いてねぇからか、そりゃそうだ。よぉし、
こう見えても私だって記者の端くれだ!色々聞き出して、プロの取材の凄さを・・・・・・おっ?)

 だが神楽が口を開く前に、龍騎は踵を返した。同時に、龍がこちらに向かって突進を始める。

 「お、やるのか?よっしゃあ、大歓迎だ!背を向けたのはフェイントのつもりかぁ?甘ぇ!」

 身構えるタイガ。しかし・・・・・・龍は漂うゼノバイダーの魂をその口に飲み込むと、そのまま天空
へと上昇し、消えてしまった。
 あっけにとられている間に、龍騎も姿を消していた。
 ・・・・・・後にはぽつり、彼女だけが残された。まるで道化のように。

「何だってんだよ、ちくしょう!・・・・・・しかたない、帰るか。腹減ったし」

 神楽が空腹を抱えて花鶏の前に戻ってきた頃には、一転して店内は空いていた。13時を過ぎて
昼休みも終わり、勤め人達は仕事場へ戻ってしまったからだ。
 かおりや榊の姿は見えず、席につくと年配の女性が水を運んできた。

 「いらっしゃい!ご注文は?」
 「ランチ、大盛りで!」
 「・・・・・・あ、ごめん!大盛りはできないのよぉ〜。サンドイッチとサラダだから」
 「じゃあ、二人前!」

 二組ほど残っていた他の客がクスクスと笑い声を漏らしたが、気にもとめない。
 やがて出てきた『ランチ二人前』をまるで早食い競争のごとく食べつくすと、神楽はここへ来た
もうひとつの目的を思い出した。――先ほどの女に声をかける。

 「すみません、かおりん、じゃなくて、かおりさんは?」
 「え、あなた、かおりの知り合い?」
 「はい、高校時代の友達です」
 「あら〜、だったら早く言えばいいのに。今ね、奥で休憩してるから。そこから入っちゃっていい
わよ。入ってすぐを右ね」

 そう言って女――この店の主人・沙奈子はカウンター脇のドアを指し示した。神楽が一礼をして中
へ入ってゆくのを見届けると、今の会話で中断した皿洗いを再開する。
 (・・・・・・嬉しいねぇ、かおりにお客さんなんてさ。千尋ちゃんが地方の大学行っちゃってからこっ
ち、誰も訪ねてこなかったからねぇ)
 ところが・・・・・・!
 笑顔でナイロンたわしを手に取った、ほんの数秒後だった。――かおりの絶叫が轟いたのは。

 「キャァァァァァァ〜〜、お化けぇぇぇぇ!!イヤァ、来ないでぇ、成仏してぇ〜」

 あまりの大声に、沙奈子も客も大慌て。店内はパニック状態になってしまった。

 ・・・・・・ややあって、神崎家のダイニングキッチンには、沙奈子に叱られて小さくなっているかお
りの姿があった。

 「まったく、あんたって子は!せっかく来てくれたお友達になんてこと言うの」
 「・・・・・・ごめんなさい。叔母さん、でも」
 「でもじゃない!ちゃんとあやまっときなさいよ、あたしはお店にもどるから。・・・・・・神楽ちゃ
んだっけ?ごめんなさいね、ランチはサービスにしとくから、ああ〜、いいから、いいから」

 恐縮して代金を払おうとする神楽を手で制しつつ、沙奈子は部屋から出て行った。
 かおりは、じりじりと後ずさりして、神楽からなるべく離れようとしている。

 「お前なぁ、さっきから何びびってんだよ、ほら、足もちゃんとあるしさ、お化けじゃないって!」
 「だって、戦ったんでしょ?モンスターと」
 「ああ、他のライダーともな。へへっ、楽勝さ。泣いてあやまるから見逃してやったけどな。ああ
そうそう。カードの使い方だけどなぁ、間違ってたぜ!お前ぇ・・・・・・」

 (・・・・・・来たぁ!やっぱりバレてる、怒ってる。榊さん、早く戻ってきて!殺されちゃう〜)
 体の震えが止まらなかった。生死にかかわることに嘘を教えたのだ、シャレでは済まない。なの
に頼みの榊は外出中だ。――彼女を守るものはいない。
 神楽の手がゆっくりと伸びてきて、肩を掴んだ。思わず首をすくめ、目を閉じるかおり。
 ・・・・・・だが、神楽はニカっと笑って言った。

 「知ったかぶりすんなよ、まったく。いいカッコしたいからってさぁ。昔っから、お前そーゆう
とこあるよな。知らないのにテストのヤマ知ってるって、みんなの前で言ったり」
 「へ?・・・・・・そ、それやったのは私じゃなくて智でしょ!」
 「あ、そーだっけ?まぁいいや、ははは・・・・・・」

 かおりはヘタヘタとその場に座り込んでしまった。
 (・・・・・・はぁぁ、よかった、わかってない。よかった、神楽で)

 「あ、適当なとこ座って。今、お茶淹れるから」

 数回の深呼吸の後やっと落ち着きを取り戻し、かおりはティーポットを手にした。
 なぜか自然と笑みが浮かび、鼻歌まで出てしまう。
 (嬉しい?そう、嬉しいんだ、私。・・・・・・騙したのがバレなかったから?ううん、違う、それだ
けじゃない。神楽が無事だったからだ。・・・・・・ほんと身勝手だな、自分で罠かけといて)
 ――昨夜は自責の念に悶々として、一睡もできなかったことが思い出される。
 (・・・・・・もう、止めよう。柄でもないことするのは。もっと教えてあげよう、知っていることを。
やっぱり神楽が死ぬなんて、ヤだもん・・・・・・)

 ・・・・・・小一時間後、神楽は戻ってきた榊と入れ替わるように神崎家を辞した。昨日の件もあって
榊といるのがちょっとだけ気まずかったし、第一、店員でもある彼女らの仕事の邪魔だ。
 ――ちなみに、自分も勤務中であることはすっかり忘れている。
 (ライダーは13人いて、ブチ殺しあって最期に生き残った一人は、どんな願いもかなえてもらえ
るだとぉ?それであのドンパチ野郎、私を殺ろうとしたのか。でも龍騎ってのは何もせずに帰っち
まったしなぁ。わかんねぇな。・・・・・・しかも、それを仕切ってるのが、かおりんの兄さんだぁ?
あの時会った、人の話を聞かねぇ奴か?ああ〜、もうアタマん中、ごちゃごちゃだぜ!)

 かおりの話を反芻しつつMTBを押してぶらぶら歩くうち、駅前の繁華街に出ていた。良い天気
だったので、道端では様々な露天商が店を出している。
 ――食べ物。アクセサリー。100円の古雑誌。音楽カセット&CD。そして占い。
 (不景気の割には、色々出てるな・・・・・・って、おいおい何だ、あの出店は?コタツかぁ?)
 それは明らかに小型のコタツだった。半畳ほどの敷物の上に置かれ、布団も入っている。
 ――台上に立てられた板には、子供が書いたような字で『うらない』とあった。でも、肝心の占い
師は・・・・・・
 (居眠りしてるじゃねーか!ったく、のん気な奴だぜ。ははは)

 ベール付きの被り物をしている上、天板に突っ伏して眠っているので顔はわからない。
 神楽はたいして気にも留めず、その前を通り過ぎた。

 『仮面ライダー 神楽』 第五話 <弐>

 それから数週間後。まだ宵の内。
 相次ぐ『謎の失踪事件』にもかかわらず、繁華街はそれなりの賑わいをみせている。――発生箇
所が一定しないのが幸いだった。おかげで、誰もが自分だけは大丈夫と無意識のうちに思い込み、
今このひと時を楽しむことができていた。
 ・・・・・・そんな夜の街の、とある居酒屋の一席。

 「にゃも〜、いい加減にしろよ〜。ため息ばかりでさぁ。酒、不味くなるぞ〜」
 「あんたの方が、どうかしてるのよ。生徒が消えちゃったのよ、例の事件で!」
 「別にぃ〜、私のクラスじゃないし。あ、おねーさん、吟醸酒お代わりね!あとお刺身も」

 口論している一組の女性客――にゃも、と呼ばれた方が黒沢みなも、呼んだ方は谷崎ゆかり――
彼女らは神楽や榊、かおりが卒業した高校の教師であった。
 こんなものは、二人にとっては数え切れないほど繰り返されてきた光景なのだが、今宵のは少し
趣向が違う。いつもは宥め役の黒沢の方が荒れているのだ。

 「まぁ、わからんでもないけど。水島って言ったっけ、そのコ?やる気も素質もあるって、部活
じゃあずいぶん目を掛けてたもんね。おまけに頭も良かったし。あんたのクラス、体育祭や定期テ
ストでのいいコマがなくなっちゃったわけね〜」
 「生徒はコマじゃないわ!いい加減にしてよ!」

 被害者の担任であり、所属部の顧問でもある黒沢にとって悲しみもひとしおなのだが、相方はそん
なこと全くおかまいなしである。

 「あー面倒くさい!いいじゃん、あんなコ、いなくなったってさ」 「な、なんだとぉ〜!!」

 一瞬、店内が静まり返るほどの大声が出てしまった。集まる注目にさすがに赤面し、黒沢は周囲の
客や店員に頭を下げて取りつくろった。

 「あーあ、恥ずかしいニャ〜」
 「もう、あんたが酷いこと言うからじゃない!いくらなんでも・・・・・・」
 「やれやれ、じゃあ教えてあげる。あんたさぁ、最近、靴がなくなったり、ジャージが焼却炉に
放り込まれたりして悩んでたでしょ?それ、水島が犯人よ」
 「な、言うにこと欠いてなんてことを!!なんであのコが!」
 「ほらぁ、また大声。みんな見てるじゃない。・・・・・・あんたさぁ、シゴき過ぎたのよ。少々才能
があるからって、所詮、ウチみたいな進学校に来てるコよ?部活なんて履歴書のネタ作り、テキト
ーに楽しくやりたいんだって。逆恨みされちまったのよ」

 谷崎はそう言い捨てると、吟醸酒のお代わりを注文した。彼女に『割り勘』という言葉は無い。

 「そんな・・・・・・キツすぎるんだったら、そう言えばいいでしょ?」
 「さぁ?担任に反抗したら内申が悪くなるって思い込んじゃったんでしょ、たぶん。でさ〜、悩
んだあげく、悪い子たちにそそのかされて、復讐に出たってわけ」
 「くっ!そこまでわかってたんなら、なんで早く私に教えてくれなかったのよ!」
 「ん〜、ごめん。元ネタは生徒との雑談からなんで、裏とるのに時間かかってさぁ。それにも〜
少し泳がせといて、背後の奴らも一気にシメようかと思ってね」 「・・・・・・・・・・・・」

 黒沢の言葉が途切れる。生徒らと良好な関係を築けていると自負していたし、実際、多くの教え
子に慕われていた。――それだけに、ショックも大きい。

 「でもさ〜、あんたそのへんの加減はできてたじゃない、前は。もしかして、あのバカのせい?」
 「・・・・・・誰よ、あのバカって」
 「神楽よ、去年卒業した。えらい頑張りようだったもんね、水泳。あんたも引き込まれるように熱
く熱〜く指導してたじゃない。あの快感が忘れられなかったわけ?夢よもう一度ってさ?」
 「そ、そんな、こと、な・・・・・・い」

 結局、その後もずっと黒沢はため息まじりの暗い酒。とうとう谷崎も音を上げて、生涯初めて彼女
のほうからお開きを宣言するハメになってしまった。

 ――翌朝。OREジャーナル編集部。
 「・・・・・・で、今件に特異的なのは、同じ家屋内でその後も失踪が相次いでいることです。様子を
見に来た親戚、捜査に来た警察関係者まで。なので、近所では『呪われた家』と噂され始めていま
す。・・・・・・ちょっと神楽ちゃん、聞いてるの!」
 「あ、はい!令子さん、すみません」
 「失踪したのが母校の後輩で辛いのはわかるけど、仕事は仕事よ。いいわね?」

 ただの後輩ではない。在学期間が重ならないので顔こそ知らないが、同じ水泳部の娘なのだ。
 気持ちが現場に飛んでしまい、ミーティングに集中できない。
 事件が発覚した昨日は居残りを命じられ、地団太を踏んだ。しかし・・・・・・
 (連続?・・・・・・じゃあ、まだ今も現場にいるかも知れねぇじゃん、モンスター。だったら行くっ
きゃねー!畜生、八つ裂きにしてやるぜ!)
 神楽には、わかる。――失踪ではない、その娘は喰われたのだ。しかも、自宅で家族ともども。
――その無念を、痛みを、奴らに思い知らせてやりたかった。今すぐに!

 「よぉし、打ち合わせは以上だ。今後は・・・・・・」 「現場、行ってきます!!」
 「って、おい、待て神楽・・・・・・あーあ、消えちまった。ったく鉄砲玉め」

 ミーティングが終わるや否や、大久保が指示をだすより早く神楽は飛び出していた。

 「・・・・・・水泳部の二年か。先生もきっとショックだろうな」

 MTBにまたがる時、ふと恩師の懐かしい顔が脳裏に浮かんだ。――揶揄や形式的でなく、本当
の意味で『先生』と呼んでいた唯一人のひとの。

 「ふ〜、まだ大学辞めたこと先生に報告してねーんだよなぁ。どーすっかなぁ、ああ、頭痛ぇ〜。
ま、いいや。後で考えよ!」

 憂いを払うように、神楽はペダルを力いっぱい踏み込んだ。

 被害者――水島真奈美の家はN野区の一角にあった。
 玄関やら門やらは、警察の張った進入禁止のテープで封印されている。
 昨日の今日なので、周囲はまだ報道関係者や野次馬でごった返していた。
辺りをぶらつきながら、神楽は耳を澄ませる。だが、脳の芯まで響くようなあの音は一向に聞こ
えてこない。
 (・・・・・・ちっ、居ねぇのか。仕方ない、仕事だ、仕事)
 有能な記者である令子を差し置いて飛び出してきたのだ、何も無かったでは済まない。
 (・・・・・・とはいえ、めぼしいネタは昨日のうちに取材済みだろうしなぁ。どうするよ?)

 「げぇ、でけ〜家。金持ちって奴ぅ?むかつくぅ、消えてよし!」
 「でもよ〜、これでただの夜逃げだったら笑うよな〜」

 へらへらとたむろしていた野次馬どもの台詞が耳に障り、神楽は思わず小声で毒づく。

 「「はっ、そんなわけあるか!」」

 ――その声が、ハモった。
 思わず、声の主を確認する。お互いに。

 「え!か、神楽?」 「く、く、く、黒沢先生!?」

 ――期せずして師弟は再会してしまった。どちらも、やる瀬ない想いを抱えながら。

 『仮面ライダー 神楽』

 「ふふふ、神楽ってほんと、黒沢先生が大好きなんだね」
 「かぎゅらもなんら〜!人の顔みて逃げらしゅのか〜!」
 (何やってんの!何回携帯かけても繋がんねーし!クソッ)
 「いい気味〜、黒沢の奴、無断欠勤だって。そのまま居なくなんねぇかなぁ」
 「ちぃぃぃ!間に合うか!?」

  戦わなければ、生き残れない!

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