仮面ライダー 神楽
【仮面ライダー 神楽】
【第六話】

『仮面ライダー 神楽』 第六話 <壱>

 「ああ、びっくりした・・・・・・でも、久しぶりね。どう、大学の方は?練習についていけてる?」
 「あ、あ、はい。なんとか・・・・・・」

 彼女もまた、事件による臨時休校を利用して現場を見に来ていたのだ。
 ・・・・・・驚いたのも一瞬のこと、黒沢は心底嬉しそうに元・教え子に問いかけた。
 一方、神楽はパニック状態で、受け答えするのが精一杯。なにせ先送りにしていた『懸案』が、
いきなり目の前に現れて微笑んでいるのだ。無理もない。

 「ん〜?おかしいわね、肩周りの筋肉が痩せちゃってるじゃない。最近、故障でもしたの?」
 「うっ!ええっと、あの、その、すみません!ちょっと急いでますので、失礼します!」
 「あ、こら、待ちなさい!」

 静止も聞かず、神楽は一礼をすると脱兎の如く走り去ってしまった。
 後に残された黒沢は、悲しげにその背を見送るしかなかった。
 (・・・・・・避けられてる。どうして?私と話すのがイヤなの)

 普段の彼女なら「何よ、ヘンなコねぇ」と、首をかしげるだけで済んだ出来事なのだが、タイミ
ングが悪かった。自らの教師としてのあり方に迷いを感じているちょうどその時、近年最も情熱を
注いだ娘から邪険にされてしまったのだから。

 (・・・・・・もしかして、あんたにも無理をさせちゃってたの?私は、私は・・・・・・)

 しばらく立ち尽くした後、黒沢は重い足取りでその場を立ち去った。

 「え〜、それで逃げ出してきちゃったの?」

 小一時間後、花鶏のカウンター席に神楽の姿があった。
 モーニングのホットサンド(二人前)を、物凄い勢いで口に放り込んでいる。ヤケ食いだ。

 「くそっ、もうだめだ。最悪だ。一発で見抜かれちまったし、長いこと泳いでないって」
 「あんたらしくないわね。もっと早く報告にいっとけばよかったのに」

 かおりは洗い物をしながら、あきれ顔で言った。ちょうど客足が途絶えたところで、中には身内
しかいない。榊は門番のようにレジ前に立ち、沙奈子は奥で休んでいる。

 「だってさぁ、辞めた直後は頭ん中ゴチャゴチャだったし、なんかその後もずるずると・・・・・・」
 「まぁ無理もないか。ほんと、ひどい目にあったんだもんね、あんたは」

 神楽はあれからほぼ毎日、花鶏に顔を出していた。榊のこともあったが、それ以上に、この店は
居心地が良かったからだ。――大学を辞めた事情も、すでにかおりには話し済みだ。

 「でもさ、ちゃんと話せばわかってくれるって。黒沢先生、優しいし」
 「優しいさ、もちろん。でも、怒るとえれー怖いぞ。水泳部じゃねぇ奴は知らないだろうけどな」
 「ええ〜、そうなの?」
 「ああ、男子部員でもピーピー泣いたぜ・・・・・・でもさ、怖いからオタオタしちまってるわけじゃ
ねー。なんていうか、先生だけにはさ・・・・・・あ〜うまく言えねぇ!」
 「ふふふ、神楽ってほんと、黒沢先生が大好きなんだね」
 「ああ?な、な、何言ってんだよ」
 「いい子でいたいんでしょ〜、先生に対しては。もし打ち明けて、ダメな奴だって見捨てられた
らと思うと、怖いんだ?」 「そ、そんなんじゃねぇよ!うう〜」

 神楽は返事に詰まり、ごまかすように熱い紅茶を一気飲み。・・・・・・当然の帰結として、コンマ数
秒後、口内を焼かれて派手に噴き出すはめになった。

 「んじゃーね。・・・・・・あんら、ひゃんと帰れるの〜」
 「らいじょーぶ、らいじょーぶ、。あぱーとの前じゃん。じゃぁね」

 ――その日の深夜、いや厳密には翌日。タクシーの降り際にそんな会話を残して、女教師は同僚
と別れた。彼女――黒沢みなもは、今宵も谷崎を呼び出して深酒をしてしまったのだ。
 ふらつく足で築五年のアパートの階段を登る。自室にたどりつきベッドを目前とすると、ついに
力尽きたのかコートを着たまま倒れ込んでいった。

 「ひっく、みじゅひまのばかやろ〜!わらしが、そんなことで内申悪くつけるおんにゃに見えた
のかよ〜!かぎゅらもなんら〜!人の顔みて逃げらしゅのか〜!ひつれへな奴ら〜」

 しばしの間、呂律の回らない独り言が続いた――愛用の低反発マクラを叩きながら。それも数分
すると止み、一拍の沈黙の後、はぁぁ〜と大きなため息をして黒沢は身を起こした。
 (・・・・・・だめだ、このまま寝ちゃうと明日起きれない)
 臨時休校は今日だけだ。――この事件で生徒たちは動揺している。ここで、教師たる自分がしっ
かりしなくてどうする。
 責任感とモラルが彼女の体を動かしていた。

 (出来るだけ吐いとくか、あと、熱いシャワー・・・・・・)
 まぶたの重さに耐えながら、洗面所のドアを開ける。とたんに、背筋に寒気が走った。
 (あうう、まさか風邪?まったく・・・・・・ええ!?)
 顔色を確かめる為、鏡を覗き込んだ彼女の表情が凍りついた。
 そこには、在りうべからぬものが映っていたのだ!
 短い悲鳴が上がる!!
 ・・・・・・しかしその声が、他の部屋の住人達の耳に届くことはなかった。


 ――翌日。谷崎ゆかりは何年ぶりかの大遅刻をやらかしてしまった。
 黒沢みなもが迎えに来なかったからである・・・・・・。

『仮面ライダー 神楽』 第六話 <弐>

 そして、同日夕方。彼女らの勤務先である某私立高校。
 廊下をズカズカと闊歩する谷崎の姿があった。誰が見ても不機嫌とわかる表情だ。その理由は、
まだ残る二日酔い。遅刻――それ自体ではなく、それが原因でされた説教。そして・・・・・・
( ・・・・・・あ〜、ムカつく!あの馬鹿、何やってんの!何回携帯かけても繋がんねーし!クソッ)

 そんな彼女を遠巻きに見て、生徒たちが囁きあう。
 「ゆかりちゃんだよ、えれ〜機嫌悪そう・・・・・・触らぬ神にたたりなしだな」
 「・・・・・・しかし先生なのに遅刻しといてさぁ、あの態度って?ほんと、あの人だきゃ〜」
 「ゆかりちゃんはほっとこう。それよりさ、黒沢先生が休んじまってるほうが心配だよ」
 「失踪した女、水泳部だからな。でも、あの水島って、最近悪い噂があってさぁ・・・・・・」

 少し離れた所で、別の一団もひそひそ話。女子二名、男子が三名ほどだ。
 「いい気味〜、黒沢の奴、無断欠勤だって。そのまま居なくなんねぇかなぁ」
 「ほんとあいつムカつく、ヤニ吸ってただけで人のこと叩きやがって。ぜってー許さねぇ」

 彼女らは二ヶ月ほど前、校舎裏で喫煙していたところを黒沢に見つかった。激しく叱責され、な
おも反抗的な態度を取ったため、頬をぶたれた。――それを根に持っているのだ。しかし、自分た
ちにそれ以上のお咎めがなかったのは、黒沢が一件を胸のうちに収め、他に報告しなかったおかげ
とは知る由もない。

 「ねぇ、これをネタにあいつを追放できないかなぁ。『無責任教師辞めろ』とかって」
 「そりゃ無理だ、一日ぐらいじゃな。ゆかりちゃんみてーのが、クビにならねぇ学校だしよぉ」
 「うう、ゆかりちゃん恐るべし。・・・・・・しかし、水島の奴も使えねぇよな。失踪?何?わけわか
んねぇ〜。あいつ使って黒沢の奴、精神的に追い詰めてやろうと思ってたのによぉ」
 「自分の手は汚さずにな、へへへ。お、そうだ。いいこと思いついた!慰謝料もらおうぜ、水島
から」 「はぁ?一家みんな失踪したんだぜ、どうやって」 「へへへ、まぁ聞けよ」

 「いや〜『そこまで熱くなってるなら、お前が担当しろ』って、編集長も話がわかるなぁ。やっ
ぱり仕事は気合だぜ、イェーイ!」

 神楽はご機嫌でMTBを走らせていた。時刻は深夜、向かうは現場――水島邸。
 あれから帰社し、独断専行の件で叱責を受けた彼女だったが、ひたすら『私にやらせてください』
と一歩もひかず、ついに大久保を根負けさせたのだ。

 「昨日はさっぱりだったが、なぁに、化け物が出るのはやっぱ夜中さ。ああ、腕が鳴るぜ!」

 ・・・・・・目的が完全にすり変わっている。英断を下した大久保の立場っていったい?
 やがて到着した現場周辺は、時間も時間だけに人気は全くなかった。なにせ『呪われた家』なの
だから。――いや、誰か居る。裏手の塀ぎわ、電柱の影に。――怪しい。

 「そこで何やってんだ、お前?」 「関係ねぇだろ!ああ?犯すぞ、でけぇ乳しやがって!」

 それは若い男だった。相手が女と知ってナメたのか、横柄な態度で迫ってくる。
 しかし『でけぇ乳』はまずかった。・・・・・・数分後、彼は神楽の前に正座させられ、泣きじゃくる
はめとなっていた。

 「ひっく、お、俺は見張りさせられてただけです。ホントはイヤだったけど、付き合いで」
 「ああ?誰が言い訳しろっていった?何をやってたのかって聞いてんだ!」
 「ヒィィ、言います。だから、もう殴らないでぇ。よ、よ、夜中はビビって誰も近寄らないから、
忍び込んで慰謝料代わりになんか頂こうって。でも、言い出したのはマジ俺じゃなくって・・・・・・」
 「何ぃ!誰か入ってんのか、この家の中に!バカが!」

 ――そこへ、鳴り始めた。神楽の脳内に、あの音が!
 「ちぃぃぃ!間に合うか!?」

 神楽は男に一撃打ち込み失神させると、塀を乗り越え敷地内へと突入した。

 ――すでに屋内は静寂に包まれていた。全ては終わった後だった。
 しかし鏡の中の反転世界では逆に始まるところだ。すなわち、食事という名の殺戮が。
 四個の白い塊が地に転がっている――蜘蛛糸でラッピングされた人間だ。
 かすかに蠢いている――まだ、生きているようだ。
 いや、いっそ死んでいたほうがよかったかもしれない。これから一人づつ、生きたまま喰われる
恐怖を味わわなくてはならないのだから。
 巨大な影が歩み寄る。それは蜘蛛――だだし、大きさはトラック並みで、体は金属を思わせる銀
色に覆われている。かつて神楽が初陣で戦った敵――いや、少し違う。加えて、ケンタウルスの如く、
人型モンスターの上半身が生えていた。その名はディスパイダー・リボーン!
 久々の大漁にそいつが満足げな笑みを浮かべ、一人目の獲物に手をかけようとしたその時!
 『フリーズ・ベント』
 認証音とともに巨体は凍りつき、微動だにしなくなった。
 そこへ!風のように走り来た勇姿は――仮面ライダータイガ!

 「間に合ったぜ、よっしゃあ!ちょっと待ってろ!すぐに、たっぷり可愛がってやるからな!」

 タイガ=神楽は四個の塊を軽々と持ち上げると、ディメンションホールを駆け抜けて、鏡から水
島家の居間へと投げ込んだ。
 「そこで転がってろ、コソ泥!お前らも、後で可愛がってやるぜ!」

 ・・・・・・モンスターも不良も、一緒くただ。
 タイガは急いで戦場へと、とんぼ返りをした。
 だが、ものの三十秒の不在の間に、戦況は著しく変化していた。フリーズが解けて動き始めた大
蜘蛛が、何者かの攻撃を受け悲鳴をあげている!
 黒を基調としたボディに銀の防具。そして特徴的なのは、額と左肩にある一本角。犀の頭を模し
た得物を装備した右手が、物凄いパワーで大蜘蛛を打ちのめしている。――新たなライダーだ!
 タイガ=神楽は油断なく、デストクローを装着して叫んだ!

 「待てよ、そいつは私の獲物だぜ!!」

 『仮面ライダー 神楽』

 「なんてパンチ力だ。一発で脚をへし折ってやがる」
 「た、谷崎先輩ぃ!」
 『コンファイン・ベント』「き、消えた!?」
 「チェックメイト・・・・・・そうよね?」
 「赤ちゃん生めなくなっちゃうわよ?ほらぁ!」

  戦わなければ、生き残れない!

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