それぞれの冬 ――13 Fighters――
【それぞれの冬】
【第2回  戦いの幕開け】

 目を開けた神楽の前には、谷崎ゆかりの姿はなかった。その代わりに、黄色
の鎧を身にまとった『誰か』が立っていた。両の肩に無数の突起。その胸は暗
い黄色の鉄甲に堅く護られている。腰にはベルトとこれまた黄色のカードデッ
キ。脚も硬い黄色の革に覆われている。左手首の籠手にあたる部分には、奇怪
な形状の赤い飾りものが装着されていた。
「ほら、ぼけっとしてないで!!」
 その『誰か』は、振り向くと、自分の姿を見て唖然としている神楽に、いら
だたしげに声をかけた。その声は、確かに谷崎ゆかりの声だった。
「は、はい」
 神楽は、担任のしたとおりに構えをとり、そして叫んだ。
「変身!」
 身体が何かに包まれていく感覚があった。足先から順に、体に重みが加わっ
ていく。一瞬重心がぐらついたが、視界が仮面のフィルターに遮られる頃には
その重みに違和感は感じられなくなっていた。
 そして、神楽は、ガラス戸に映る変わり果てた自身の姿を見た。剣道の面を
髣髴とさせるスダレ状のフィルターに覆われた顔面、頭部を包む紺色の兜。胸
部・両肩・脚部と、身体の大部分が紺色の鉄甲に包まれ、谷崎と同様、左腕に
奥地の原住民のオーパーツを思わせる怪しげな飾り物がとりついている。
「……これは……」
 うろたえる神楽を尻目に、谷崎はガラス戸に向かい歩を進めた。
「あ、先生、ぶつかりますよ!」
 神楽は、止めようとして声をかけたが、谷崎は、ぶつかるどころかガラス戸
にそのまま吸い込まれていってしまった。そして、ガラス戸の中からこちらに
向かい、早く来いとばかりに激しく右腕を振る。 

 神楽は、ガラス戸に歩み寄り、おそるおそる指先をあててみた。ガラス戸は、
水面のごとく何の抵抗もなしに指先を受け止めた。さらに腕を伸ばすと、肘ま
で吸い込まれた。次に、肩まで吸い込まれた。意を決して顔をガラス戸に潜り
こませてみると、その先にもう一つの世界があった。
 駅前の商店街に乱立する看板は全てが反転し、その並びもいつも目にするも
のとは逆だ。駅の経路図や料金表も、全て文字が反転していた。

 だが、それらに気をとられている余裕はなかった。かの怪物が、空をくねり
ながら神楽に向かって襲いかかってきたのである。かろうじて身をかわした。
風圧が彼女のわき腹を押した。振り返る怪物と神楽との間に数歩の間合い。
「武器をとるのよ」
 谷崎は、そう言ってデッキから一枚のカードを引き抜き、左腕のかの飾り物
に取り付けた。
『ソードヴェント』
 無機質な音声とともに、谷崎の右腕に剣が握られた。
 怪物が再び動き出す。
 谷崎が神楽の前に躍り出た。怪物に向かい一閃。金属音が響く。火花。次の
瞬間、怪物の尾がしなり、谷崎を弾き飛ばした。谷崎は、吹き飛ばされつつも
自ら地面に転がって着地の衝撃を和らげ、その脚で立ち上がった。
 勢いづいて突進してくる怪物に対し、谷崎は上から斬りおろす。剣が怪物の
脳天を打った。同時に一歩後ずさる。怪物の尾が空を切った。

 斬撃。火花。風。金属音。谷崎と怪物との戦いはいつ果てるとも知れなかっ
た。
 突然、谷崎の大喝一声。力任せに斬りあげた。鈍い音とともに怪物はのけぞっ
た、かに見えた。次の攻撃に移ろうとした谷崎の頭上から、青黒い液体が降り
かかった。怪物の唾液。
「ぐっ」
 谷崎は凄まじい熱を感じた。青黒い液体が鎧をつたい、それとともに、煙を
あげながら黄の鎧が溶けていく。谷崎は目まいを感じ、よろめいた。そこに尾
の一撃が飛んでくる。鈍い音が響き、谷崎は十メートルあまりも弾き飛ばされ
た。地べたに転がる。
 谷崎は顔を押さえた。体が痺れていく。立ち上がろうと試みたが、身体に力
が入らない。
 怪物が空を切って襲い掛かった。
「先生!」
 神楽は、担任を守ろうと、自らも武器をとるべく一枚のカードをデッキから
抜き取り、左腕のオーパーツに組み込んだ。
『ファイナルヴェント』
 機械音とともに竜巻があがった。それは、今まさに谷崎に襲いかからんとす
る怪物の体を中空に吹き上げた。竜巻は神楽へと向かう。いつの間にか神楽の
右腕に大剣が握られていた。風に向かい一閃。
 大剣が神楽を支点に反時計回りに90度回転すると、竜巻は止まった。真っ二
つになった怪物は神楽のはるか後方で爆発、炎上した。

「先生!」
 神楽は、まだ倒れている谷崎に駆け寄り、抱き起こした。
「……私の、……とどめは、あんたがさしな」
 仮面の奥で、谷崎が呟いた。
「何言ってるんですか!」
 神楽は、谷崎に肩を貸し、先ほど自分たちが通り抜けてきたガラス戸に戻った。
 ガラス戸を抜けると、そこは元通りの世界で、看板も路線図もいつも目にす
るのと同じものだった。彼女たちを覆っていた鎧も、いつの間にか消えていた。
「先生、大丈夫ですか」
 自分の肩を借りてぐったりしている担任に神楽は尋ねた。
「……なんで助けた?」
「え?」
「ライダーの数は13人……戦いに勝ち残れば、何でも望みがかなうらしいわよ」
「……望み……ですか? ……ライダーって……?」
「何も知らないのね、あんた」
 吐き捨てるように呟くと、谷崎は微笑した。

 救急車が到着するまでの間谷崎が神楽に語った内容はおおよそ次のようなも
のだった。
 かのカードケース状の物体は、『ライダー』になるための道具であるらしい。
モンスター以外では、『ライダー』のみが鏡の中の世界『ミラーワールド』と
鏡の外の世界を自由に行き来できるという。
 そして、カードデッキの数は全部で13個。『あずま士郎』なる人物が、様々
にその姿を変えつつ、13人の人間にデッキを配ったという。神楽と谷崎はその
うちの二人というわけだ。
 13人のうち、最後まで戦い抜き、生き残った者は、その欲望をかなえること
ができる……。あずま士郎は谷崎にそう告げたという。

「だから、あんたも、あの時私に止めを刺せばライバルが一人減って戦いが有
利になってたってわけよ」
 ひととおり説明を終えた後の谷崎の一言は、何やら寂しげな響きを帯びてい
た。少なくとも、神楽はそう感じた。

(次回予告)

榊「……お前はどうして逃げないんだ」
神楽「え?」

戦わなければ生き残れない

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【第3回  白銀の騎士】

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