それぞれの冬 ――13 Fighters――
【それぞれの冬】
【第5回  決意と怒り(前編)】

 谷崎を討った病院よりの帰途、大山は数週間前の出来事を思い出していた。

――吾妻士郎からデッキを託された翌日。
 大山は、放課後、人気のない屋上で親友の後藤に相談をもちかけた。

『ミラーワールド』というもうひとつの世界が鏡の向こうにあり、そこにモン
スターたちが棲んでいること。それらが人を襲っていることが、最近多発して
いる謎の失踪事件の原因であるということ。
 そして、人間には『ミラーワールド』に自ら出入りすることはおろか、その
様子を窺い知ることすらできぬということ。ただし、デッキを所有する『ライ
ダー』と呼ばれる者たちのみが自由に『ミラーワールド』との接触を図れると
いうこと。デッキの総数は13、吾妻士郎はそれらを任意の13人に手渡したとい
うこと。
 そして、12の『ライダー』を倒し、生き残った『ライダー』は自らの願いを
かなえることができるということ。

 大山は、前日の夜『吾妻士郎』と名乗る謎の青年から聞いた話の概要を後藤
に伝えた。
 なぜその相手が後藤だったかは、この際関係なかった。大山は、自分の考え
を肯定してくれる存在――『世界平和』という目的のために12人の命を奪う、
という行為を正当と評価してくれる人間を求めていたのだ。
 だが、後藤の答えは、大山の期待を裏切った。
「おまえに、人は殺せないよ」

 そう言って、後藤は、学生服のポケットから四角形の塊を取り出した。
 水色の地に、紫色の羽を広げた雄大な鷹のレリーフ。
『ライダー』に変身するための道具であるカードデッキを、後藤もまた持って
いたのだ。
「仮面ライダー・アーク。そういう名前らしい」
 後藤は、そう言うと、デッキを再びポケットにしまった。
「僕は、ライダー同士の争いなど馬鹿馬鹿しいと思っている。止めたい」
 あっけに取られる大山にの目を正面から見つめ、後藤は言い切った。

 なんでも、後藤は、先日モンスターに襲われたところを、『アーク』により
救われたらしい。しかし、『アーク』は、戦いの末重傷を負い、動くこともで
きなくなった。そして、後藤にデッキを手渡し、告げたのである。
 ミラーワールドを壊せば、モンスターが人を襲うこともなくなると。そして、
近い将来起こるであろう『ライダー』同士の戦いを止めることができるであろ
うと。

「でも、ミラーワールドの中心である『コアミラー』を守るモンスターには、
今の僕の力では太刀打ちできないようだ」
 後藤は、空を仰ぎ、歯噛みした。
「力を貸してくれ、大山」
 再び大山に向き直り、後藤は言った。しかし、大山の表情は冷たかった。
「……駄目だ」
「え?」
「僕は、平和をもたらす使徒となる。世界が平和になるなら、12人の犠牲など
軽いものだ」
 大山は断言した。ポケットに手を伸ばす。
 手中には、士郎により託されたカードデッキ。漆黒の地に、白色で縁取られ
た黒豹のレリーフ。仮面ライダー・デュークに変身するための道具であると、
士郎は言っていた。 

「勝負だ、後藤」
 自らのカードデッキを後藤に突きつけ、大山は挑んだ。
「おまえに、人は殺せないよ」
 後藤は取り合おうとしなかった。
 問答無用だ。平和のため、障害は克服しなければならぬ。大山は、屋上に備
え付けてある大鏡に向かってデッキをかざし、変身した。一瞬にして漆黒の鎧
が身体を覆う。
「……仕方ないな」
 後藤も、気乗りせぬ様子ではあったが、大山同様デッキを大鏡にかざした。
 一瞬の閃光の後、後藤もまた仮面ライダー・アークへと変身する。
 頭頂に角状の突起のある水色の鉄仮面。胸から肩に滑らかな曲線を描いて広
がる胸当てに、胴から脚を厳重に護る装甲。いずれも、晴れ渡った空のごとく
澄んだ湖のごとく淡い薄青色に染められている。両手に鋼の鞭。
 二人は、ともに大鏡の中に吸い込まれていった。

 左右が反転した屋上で、漆黒の鎧と水色の鎧が対峙する。
 漆黒のデュークが始めの一歩を踏み出した。狼牙棍が空気を引き裂く。
 対するアークは左手の鞭をしならせ、その根元を捉えた。腰をひねり、引く。
「くっ」
 仮面の奥で大山が顔をしかめた。前のめりに倒れこみそうな身体を、右足を
前に一歩踏み込んで支えた。
 目の前に火花が散る。
 アークの右手の鞭が、デュークの仮面に炸裂したのだ。よろめくところへ、
返す鞭での一打が襲う。たまらず、デュークは屋上のタイルに倒れこんだ。
 アークは、両手に鞭をぶら下げ、タイルにへばりつきのたうちまわるデュー
クにつかつかと歩み寄った。

 その脚を、狼牙棍がすくった。
 鎧と床が打ち合う音がして、アークは尻餅をついた。
 うまく敵を転がしたデューク、ここぞとばかりに起き上がり、蹴り飛ばし、
叩きつけ、雨霰と攻撃を浴びせた。一方のアークは、蹴飛ばされてタイルを転
がり、棍棒の殴打に呻いて寝返りをうつばかり。
「そろそろ、とどめか」
 20打ばかりも一方的に敵を攻撃し続けた末、大山は呟いた。
 デッキから一枚のカードを引き抜く。ファイナルヴェント――一撃必殺のカー
ドだ。これを用いての攻撃がまともに当たれば、ライダーといえども死は免れ
ない。
「とどめだ」
 次は、相手に聞こえるよう、声を張り上げた。
 ゆっくりと、漆黒のバイザーにカードを挿し込む……
 デュークの手は、鈍かった。
 目の前で死のうとしているのは、自分が殺そうとしているのは、親友の後藤。
 その一瞬の躊躇いを、アークは見逃さなかった。
 床を蹴り、立ち上がった。その脚で猛然とデュークに向かっていく。
 ふたつの鞭が、立て続けにデュークの鎧に降りかかってくる。
「はっ」
 気合とともに発したアークの一撃に、デュークは弾き飛ばされた。弾け飛ん
だ先には、先程彼らが通ってきた大鏡があった。

 大鏡からごろごろと大山が転がり出てきた。続いて、後藤も出てくる。
「おまえに、人は殺せないよ」
 床に転がりながら呻く大山に、後藤はそう言い捨てて去っていった。

(――だが、今の僕は、違う)
 大山は、苦々しい記憶を振りきるかのように首を振った。
 仮面ライダー・スコピオ――担任である谷崎ゆかりを、殺した。この手で、
殺した。自らの欲望のためにその力を利用しようとする、悪しきライダーであっ
たためだ。その死は、必然だ。悪しきライダーを葬ることは、正義の行為だ。
自分は正しい。決して間違ってはいない。そして、正義を実現する力も備わっ
ている。
(――そして、理解者もいる)
 古文教諭の木村だ。後藤に敗北した大山に、木村は言った。世界平和のため
に戦うことは正義の行為であると。大きな目的のためには小さな犠牲を惜しん
ではならないと。
 その後、大山と木村は、事あるごとに世界平和に向けての情熱を語り合った。
仮面ライダー・ハデス。それが木村の変身するライダーの名であるという。同
じ目標をもつライダーとして、大山と木村は次第に互いへの信頼を深めていっ
た。自分が谷崎を躊躇うことなく倒すことができたのも、木村の教示があった
からこそだと大山は感じた。
(平和のために、僕は戦う)
 大山は、灰色の曇り空のもと、ひとり決意を新たにした。

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