それぞれの冬 ――13 Fighters――
【それぞれの冬】
【第7回  血】

【前回までのあらすじ】

2000.11.28  後藤、【アーク】のデッキを受け継ぐ
2000.11.30  大山将明、【デューク】のデッキを入手
2000.12.09  瀧野智、原因不明の難病により入院
2000.12.10  神楽、【セイバー】のデッキを入手
        谷崎ゆかり【スコピオ】、モンスターとの戦いにより負傷
2000.12.20  学校にモンスター出現
        大山将明、谷崎ゆかりを破る――【スコピオ】の離脱
2000.12.21  黒澤みなも【スレイダー】、大山将明と引き分ける



 12月23日、土曜日。
 クリスマスを控え、商店街は様々な飾りに彩られる。その飾りのうちでも、
ひときわ目立つのが、駅前にある大きなクリスマスツリーである。毎年この季
節になると、付近の商店が総出で準備にあたる。また、ツリーの飾られている
期間中は辺りの街灯はともされず、人々は、ツリーに巻きつけられた無数のラ
イトの中家路を急ぐのである。
「……」
 黒澤みなもは、無言でツリーの頂上に据えつけられた星を見上げた。
「……ゆかり」

 去年の冬――おととしの冬もそうだったかもしれない――黒澤と谷崎はクリ
スマスの夜を女二人で過ごした。
 街中にあふれかえるカップルたちの陰口を叩きながら、痛飲する。
 いわゆる『独り者同士ぱーっと呑んで騒ぐパーティ』である。
 その帰り道、酔った谷崎ゆかりはこのツリーの上にある星を欲しがった。
「にゃもー、あの星がほしいー」
「何言ってんのよ。子供じゃないんだから」
「あんた体育教師じゃん!」
 理不尽な叫びとともに、ならば自分で手に入れるまでとばかりにツリーにし
がみつく。酔った身体のこと、巨大なクリスマスツリーの頂上まで登りおおせ
るわけもなく、ずるずると地べたに倒れ、しまいにはその場で嘔吐する始末。

 そのような馬鹿馬鹿しい光景も、今ではひどく懐かしく思えるのだった。
 谷崎ゆかりは、もういない。
「今年は……本当に、一人ね」
 小さく呟き、星から目を離し、再び歩き始めた。右手にはスーパーの買い物
袋。左手首にはめられた腕時計は、まだ午前11時をまわったばかりだった。

 アパートに辿りついた黒澤は、大儀そうに買い物袋をテーブルの上に載せる
と、崩れるようにソファに座りこんだ。
 体中を徒労感が覆っている。
 いつしか、彼女はソファにもたれて午睡をむさぼっていた。

 電話のベルの音で目が覚めた。
 スリッパをひきずり、受話器をとる。
 声の主は、母親だった。やけに息が荒い。
「みなも……!」
「どうしたの? 母さん」
「武が……武が、帰ってきたんだよ!」
 彼女は耳を疑った。数年前に家を出て行方知れずになったままの弟が、実家
に帰ってきたというのだ。彼女は、受話器をおくと、靴を履くのももどかしく
愛車に乗り込み、実家へ急いだ。
 長い間音信不通だった弟に、今日やっと会える。
 そう思うだけで、親友を失った黒澤の心は、多少なりと慰められるのだった。

 合鍵をポケットから取り出す。
 久しぶりの手ごたえとともに、懐かしい家の扉が開いた。
 玄関に、男物の靴が二足と女物の靴が一足、並べておいてある。
 黒澤はさほど気にもとめずに靴をぬぎ、同じように並べて家に入っていった。
「ただいまー」
 ドアを開けた先のリビングには、少し小さくなったように見える彼女の母親
と、最後に見たときに比べて随分痩せたように見える弟の姿と――大山将明が
いた。 

「こんにちわ、先生」
 母よりも弟よりも先に、大山が口を開いた。
「……え? ……あ……」
「この人が、武を連れてきてくださったのよ」
 母親がえびす顔で説明を加える。
(――でも、どうして?)
 黒澤が疑問を禁じえずにいると、大山がにやりと口元を歪めた。

 音。

(!)
 黒澤がはっとして部屋の隅にある鏡に目をやると、そこには大山の契約モン
スターである黒豹の姿があった。
「逃げて!」
 黒澤が叫ぶと同時に、それは鏡から飛び出してきた。疾風のごとく、黒い獣
が彼女の弟へと突進していく。
 かの獣に追いすがろうと、彼女は床を蹴った。肩に何かがぶつかった。横か
ら大山がしがみついてきたのだ。脚が絡みあい、二人は平衡を失って倒れた。
「離れなさい!」
 黒澤は、怒鳴りながら腕をひきはがし、大山の腹部を蹴り上げた。
 弾き飛ばされた大山は壁に激突する。
 黒澤は立ち上がった。

 遅かった。

 弟は既に黒豹の胃の中に収まり、母は上半身を失っていた。
 唖然とする黒澤の背後で、大山がおもむろに起き上がる。

「これで、私的な事情は解決されましたね」
 落ち着き払った声だ。人間二人が獣に食いちぎられ絶命する、その光景を目
の当たりにしてなお、大山は冷静であった。
「……な……なにを言っているの……?」
 ゆっくりと振り向いた黒澤の顔は、ショックのあまりひきつっていた。
「あなたがより崇高な目的に邁進していくことの障害となる存在が、これで消
滅したのです。喜ばしいことではありませんか」
 大山は、晴れやかな表情で黒澤に告げた。
「さあ、黒澤先生、世界平和を実現するために――力を貸して欲しい」
 対する黒澤の心は、怒りに満ちていた。放心してしまいそうな自己をかろう
じて統制し、低い声で呟く。
「……どれだけ奪えば気が済むの!?」
 旧友である谷崎ゆかり。自分を産み、育ててくれた母。ともに育ち、また、
自分がその行方を長年探していた弟。それら全てが、この男――大山将明の手
により葬られた。
 彼の望むものが何であるかなど、彼女のあずかり知るところではない。
 自分にとって大切な存在を、事もなげに次々と消していく彼は、憎んで余り
ある忌まわしい者であった。
「あなたは許さない……絶対に」
 黒澤は鏡に向かってデッキを掲げた。
「無駄骨でしたか……残念だ」
 大山もポケットから悠然とデッキを取り出す。

 光とともに、二人の身体を装甲が覆った。
 漆黒の鎧に身を包む大山将明――仮面ライダー・デューク。
 淡紅の鎧に身を包む黒澤みなも――仮面ライダー・スレイダー。

 黒と薄紅が向き合った。
 黒の腕の先には、棍棒の先に無数の鋭い突起を擁する通称”狼牙棍”。
 薄紅の掌に握られるのは、穂先が蛇のごとくうねった通称”蛇矛”。

 両者、互いの強さは心得ている。
 肉親二人の惨死を見せつけられたからといって怒りにまかせて突きまくる
ような戦いをするほど、黒澤も無謀ではない。他方、大山にも油断はない。

 スレイダーの矛先がわずかに外に向いた。
 デュークが間髪入れずに一歩を踏み込み、袈裟懸けに棍を振り下ろした。
 矛の柄がぐるりと回転し、それを弾く。
 薄紅の脚が飛んだ。黒い装甲の脇腹に、それは炸裂する。
 衝撃に一瞬よろめいたデュークの胸に、矛の一突きが火花を散らした。
『アドヴェント』
 胸を突かれながらも、デュークは左腕のバイザーに一枚のカードを差し込んだ。

 風を切って黒豹が走り出てくる。
 顔面を矛の先で弾いた。
 矛は空を切り、黒い影がスレイダーの頭上を横切った。
 間をおかず、デュークの棍が彼女の身体に迫った。
 かろうじて身をかわすスレイダーに、今度は黒豹が飛びついてくる。
「くそっ!」
 間断なく続く二体による攻撃を払いのけながら、スレイダーはカードデッキに
左手を伸ばした。素早く一枚のカードを抜き取り、バイザーに挿し込む。
『アドヴェント』 

 機械音のあがったのを確認すると、スレイダーは半歩後ずさるとともに、空中
に矛を一閃させた。
 気合とともに振り下ろすと、矛の先端から白い霧が吹き出で、それは奇怪な音
をあげながら固形化した。赤い瞳に赤い舌、白い体色の大蛇。かの大蛇は、血の
ごとく真っ赤な舌をちらつかせながら、黒豹に向かい這っていった。

 白と黒の絡みあう傍ら、再びスレイダーとデュークは向き合った。

 蛇矛が空を切った。
 スレイダーがデュークに猛然と突進していく。
 五歩、四歩、三歩。両者の距離は秒を待たずに狭まっていった。
 武器が打ち合う。
 スレイダーは脚を止めなかった。
 黒と紅の鎧が絡みあい、硬い音をたてた。

 再び離れた。
 デュークがよろめく。
 一瞬の接触のうちに、スレイダーの打撃が何発か彼の身体に命中していたのだ。
 攻撃の成果を確認すると、スレイダーは音もなく一歩を踏み出した。
 矛が黒の胸当てを突く。
 二、三度火花が散り、デュークの身体は5メートルあまりもはねとばされ、黒
澤家の外壁を破り屋外に出た。
 スレイダーがそれを追う。

『ファイナルヴェント』
 不意のことだった。痛恨の打撃を受けて倒れた筈のデュークが、その姿勢のま
ま必殺のカードを用いたのである。
「なっ……」
 スレイダーの背後から無数の黒紐が降り注いだ。
 かわす余裕もなく、彼女の身体はがんじがらめに縛られた。
「これが、勝負というものです」
 デュークは、起き上がりながら呟くと、空に棍を投げ上げた。
 飛び上がる黒い鎧。飛び散る黒紐。打ち下ろされる狼牙棍。
 砕けた紅のデッキが、乾いた音を立てて地面に落ちた。

 淡紅の鎧が消え、後には横たわる黒澤みなもだけが残された。
「これが、……勝負というものです」
 仮面の下で大山は再び呟き、黒澤をまたいで鏡の向こうへと帰っていった。

 ほどなくして、黒澤の姿は虚空に消え去った。

【次回予告】

瀧野「あのさ、なんでもクリスマスプレゼントもらえるとしたら何がいい?」

水原「……なんでも……」

戦わなければ生き残れない

【それぞれの冬】
【第8回  聖夜の死闘】

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