LastKaixa
【ラストカイザ】
【第01話/過去からの招待状】

これはまだ、スマートブレインが本格的に大企業化する10年前の話。社長で
ある花形、副社長である乾、美浜財閥から引き抜かれたコンサルタントの村上
の3人は当時のスマートブレイン社の、最上階の部屋の前で集まっていた。ス
マートブレインの社員にすら入室が絶対に許可されない最上階中央に唯一つ存
在する謎の部屋に入っていった3人は恭しく部屋の主に膝を曲げて頭を垂れた。

『花形…』

外観上その部屋は、人が3人も集まれば狭く感じられるような広さしかない。
しかし閉ざされた部屋は…無限の広がりを誇っていた。星々が輝く暗黒の中で、
両脇の乾、村上同様多少緊張しながらも、花形は姿の見えない声に返事をした。

「…はい」『報告せよ…』
「現在オルフェノクの総数は私を含めて18名。残念ながらまだ…声明時期で
 はありません」『そうか…ならばまた…』
「お待ちください!」

声の主が遠ざかるのを感じとった村上は急いで立ち上がると、自らの案を提案
した

「…私に提案があります。素質のある人間だけをオルフェノクにするのではな
 く、素質の可能性がある者も含めて、オルフェノクへの試練を行うべきです」
「反対だ!」

村上の意見に反対しながら乾も立ち上がった。炎を宿らせたような瞳で真っ向
から村上を睨みつけて、村上の提案の危険性を指摘した。

「そんな迂闊なことをすれば、やがてオルフェノクとしての未来は一つだけに
 なってしまう!人間との戦いの未来に!」「ふっ…」

明らかに挑発の意味で行われた村上の嘲笑にアドレナリンが上昇した乾は、全
身を蒼い炎に包みながら怒鳴った。

「村上!なにがおかしい!」
「上の上たる、オリジナルのあなたが戦いを恐れるとは…意外ですね」
「戦いを恐れてなどいない!だが無益な戦いは避けるべきだ!」
「2人ともよさないか!」

花形の一喝に蒼い炎となっていた乾とニヒルな笑みを浮かべていた村上は、押
し黙った。再び深々とした静けさを取り戻した星空の中で、今後の決定を決め
る声が3人の耳に流れた。

『我々は種としての存在を一刻も早く確立せねばならない。花形よ、村上の意
 見を取り入れるのだ…』
「ありがとうございます」「!!」
「…はい…わかりました…」

………
……


「おい、見たかあの紙?」
「今日上が、各部署に送った今後の方針の昇進試験についてだろ?」
「ああ!これで遂に俺達も昇進できるぞ!」
「でも、変じゃないか?今まであんなに時間のかかった審査とやらを中止にし
 て昇進試験を行うなんて?」
「そんなことどうでもいいじゃないか!ほれ、早く昇進試験を受けに行こう!」

この日を境に、スマートブレイン社の昇進試験、通称「オルフェノクへの試練」
は異常に長い審査判定を待たずに行われることになる。競争率の激しいスマー
トブレインに入社したにも関わらず、いつまでも昇進出来ないことに嘆いてい
た社員達は喜び勇んで社長室と対にある副社長室の隣の部屋、昇進判定室へ飛
び込んで行った。

「…」

乾は今日もまた何の罪も無い社員が昇進判定室に入っていくのを見て歯軋りし
た。昇進判定とはオルフェノクとしての素質があるかどうかを調べることであ
り、素質が無い場合は…命が消える結果となる。この日入っていった社員も、
昇進判定室から出てくることは無かった…

「なぁ、聞いたかあの噂?」
「ああ…昇進出来なかったら問答無用で首になるっていう噂だろ?」
「それがさ、首になった社員は何故か数日経つと行方不明になるらしい…」

昇進試験に落ちると問答無用で退社されることがやっと社員達にもわかってき
て、昇進判定室も落ち着いてきた頃…乾は村上が自分と同じ副社長に就任した
ことをきっかけにスマートブレイン社と決別することにしたのである。

「どうしても行くのか…」「…ええ」

航空機が離着陸を繰り返す空港の中で、花形は長年自分を支えてくれた副社長
が、会社では一度も見れなかった穏やかな顔をしていることに気が付き深い溜
息をついた。

「どの飛行機に乗る予定なんだ?」「JAL532便です」
「そうか…村上が今後入社時にオルフェノクの試練を行うべきだと私に提案した」
「…」
「村上が、社長に就任するのも時間の問題だろう…」
「…花形社長…これを受け取ってください」

不意に、乾が手荷物として持っていた2つのアタッシュケースのうち、スマー
トブレイン社のロゴが入ったアタッシュケースを花形に差し出した。

「これは…?」
「…人類がオルフェノク以外の道を切り開く鍵…デルタギアです」
「デルタギア…?」

花形は差し出されたアタッシュケースを開いた。ケースの内部は弾力性のある
クッションで内部の電子製品を保護しており、保護されている電子製品は素人
目でも高度な技術が織り込まれていることがわかる。

「いつの間に、こんな物を?」
「極秘プロジェクトというやつです。本当は持っていくつもりだったんですが…」

花形は乾の弁解を聞きながら説明書らしきものを発見して目を通し、アタッシ
ュケースに入っているデルダギア一式が未知の機能を持った戦闘兵器だと理解
した。

「どうしてこれを私に?」
「…袂を分かちますが私とあなたの志は同じです。それはスマートブレインの
 技術を集結させた対オルフェノク用パワードスーツです…花形社長、私に代
 わってこの計画を継続してください…全ての者達の未来のために」

オルフェノクの力に溺れず、最後まで全ての未来を信じて行動し続けた男から
未来を切り開く鍵を受け取った花形はゆっくりと頷いたが、一つだけ懸念を消
しきれなかった。オルフェノクの巨大な力の利用こそが未来を作ると信じて止
まない、副社長の村上である。

「…わかった。だが、村上に気付かれた場合はどうする?」
「…間違いなく奪われます。人類の未来を守るためにも、オルフェノクの力に
 陶酔する村上にデルタギアを決して奪われてはいけません…もしもの時は、
 村上ほどの人材を使いこなしていた美浜財閥に…」
「とうさーん!」

素早く封印するようにアタッシュケースを閉じた花形は、乾の背後からやって
きた存在に気が付いて会話を中断した。8歳くらいのまだまだやんちゃ盛りの
乾の息子である巧が乾を強く引っ張ってロビーへと連れ去っていく後姿を見な
がら、花形は会社へと戻った…



ニュースを中断して只今入ったニュースをお伝えします。
先程羽田空港を出発したJAL532便が原因不明のトラブルによって離陸直
後に炎上し、現在消火活動が行われています。炎の勢いが激しく、まだ乗客は
誰も発見出来ていません。羽田空港の整備士によりますと…



会社に戻った花形を出迎えたのは、社員ではなく、緊急のニュースであった。
副社長室に飛び込んだ花形は、不敵な笑みを浮かべて平然と立っている村上に
一瞥を投げた。

「村上!」「これはこれは花形社長。突然どうかしましたか?」
「お前というやつは…!!」「…」

花形は村上を睨みつけていたが、社長室に戻って、リムジンを手配し、一階へ
と降りて行った。

「相変わらず、恐ろしい方だ…だが、それもそろそろ終わりです…あなたも、
 そうは思いませんか?」

花形の突き刺すような視線を思い出しながら、村上はいつのまにか自分の背後
に立っていた女性に声をかけた。

「あの人が社長さんですかー?」「ええ。あなたには期待していますよ」
「はーい☆」

「社長、これ以上は…」「…そうか、ご苦労」

リムジンから降りた花形は、関係者でごった返している成田空港から少し離れ
た人気の無い、空港荷物専用の倉庫で、オルフェノクの力を発動させた。

額に浮かび上がる呪われた紋章

戻れない過去
進めない現実
見えない未来

3つの束縛から解放された花形は、禍々しく渦巻く2本の角を持ったゴートオ
ルフェノクとなり、残像だけを残して倉庫を飛び越え、道なき道を走り抜けて
猛火を物ともせずにかつての仲間を探して航空機内へと飛び込んだ!

「乾!」「花形社長、ですか…?」「乾!!」

燃え盛る炎の中で乾とすでに息絶えているらしい妻の代わりに、大切そうに何
かを抱きかかえていた。座席に向かって斜めに突き刺さっている、航空機を形
成していた材料に閉じ込められたままの乾に花形を言葉を掛けた。

「何故、力を…?」
「私はこのまま…人として死にます」
「…そんなことを言うな!今助ける」

ゴートオルフェノクは両手を使って突き刺さっていた機材をめきめきと音を立
てながら引き剥がしていった。

「ぬおおおお!」

気迫を込めて機材を放り投げたゴートオルフェノクに、乾は大切に抱きかかえ
ていた者を差し出した。彼と妻が今まで育ててきた大切な存在…乾巧を。

「もういいんです…花形社長、巧を人として…育ててやって…くだ…さい…」
「乾…乾………っ!」

村上の行動を充分予測できたにも関わらず、防げなかった惨劇に胸を痛めなが
ら、ゴートオルフェノクの手のなかで安らかに眠っているように見える託され
た存在のために、名残惜しみながらも再び外気溢れた安全な場所へと疾走した。

「う…」「…気が付いたかい?」

航空機の突然の振動で今まで気絶していた巧は、ぼんやりとした頭で目の前に
いる聡明な目をした男性を見つめた。

「花形、さん…?」「ああ」

父が勤めていた会社で一番偉い人なんだよと教えてもらっていた花形が自分を
憐れむようにじっと見つめていることも不思議だったが、なによりも自分が今、
航空機の座席ではなく、こうしてベットの上に1人でいることの方が不思議だ
った。

「お父さんとお母さんは…?」
「…巧君のお父さんとお母さんは…遠くに行っていている。帰ってくるまでの
 間、私が君のことを頼まれたんだ」「え…?」
「…明日、君と同じ友達の所へ連れて行こう…今日はもう、寝なさい…」

花形の言葉に疑問を隠しきれなかったが、再び襲ってきた心地よい睡魔に身を
委ねた巧は瞼を閉じた…

両親を失ったことをわかったのは、花形に連れられて一緒に勉強することにな
った流星塾で学ぶ生徒全てが、何らかの理由で両親を無くして身寄りがないこ
とを知った時であった。教室で指定された席に座って巧は、もう逢えない両親
のことを想って泣き続けた。

「お父さん…お母さん…うっうっ…」
「なによ!男の子でしょ!しっかりしなさい!」
「乾君、その、元気出して…」

クラス一の元気者の真理と、クラス一のいじめられっこだった草加は、泣きや
まない巧に何とか元気になってもらおうと励ました。2人に影響されて他の生
徒達も積極的に乾と関わり、励ましていった。月日が経ち…巧が悲しみからす
っかり立ち直った時。草加、真理、巧は消えない絆で結ばれていた。

「もー!澤田君邪魔しないでよ!」
「おい!草加をいじめるな!」「…ありがとう」
「ね、草加君も一緒に絵を描こう」「いいの…?」「ほら、こっちに来いよ」

過ぎたるは日々。変わらざるは絆。体育、理科の実験、写生大会…どんな時も
3人は楽しく過ごした。流星塾から卒業した生徒達がそれぞれの道を進むこと
になった時も、3人は相変わらず協力しあって借りたアパートで暮らしていた。

その日もまた、大学から帰って来た草加と美容教室から戻った真理が、バイト
から帰って来た巧と一緒に晩御飯を食べ終えた頃。真理がバックから葉書を1
枚取り出した。

「ね、ね、2人とも!実はさ、こんなのが届いてたんだ!」
「…流星塾の同窓会?」「流星塾…懐かしいなー」
「草加君もそう思うよね!」「ああ」
「実はさ、今日がその同窓会の日なんだ!さ、2人とも早く準備して!」

草加は食べ終えた食器を台所に置き、食事を食べていたテーブルと少し離れた
場所にあるソファーに座った巧が、浮かない顔をしているのに気が付いた。乾
の隣のソファーに座った草加は巧に理由を尋ねた。

「乾君、どうしたんだ?」「…俺はパスだ」
「えー!?なんで!?行こうよ!」「…めんどくせーんだよ」

ソファーでごろりと寝転がった巧を見て真理はあきれたが、巧が一度こうなる
と絶対に意見を変えないことを知っていたので、頬を膨らませながらも、ソフ
ァーに座っていた草加の手を掴んで立ち上がらせた。

「巧ったら、またそんなこと言って…いいよもう!草加君行こっ!」
「ああ、すぐ準備するよ」「おい、草加」「?」

既に先に下りていった真理を追いかけようと靴を履いていた草加は、ソファー
に座ったままの巧の声に気が付いて立ち止まると、笑顔になった。

「乾君も一緒に行く気になったのか?」
「そうじゃねーよ…草加、真理を頼むぞ」
「…わかった。真理は、命に代えても守る」
「そんな気合はいらないだろ。同窓会なんだしな」
「そうか…それじゃあ、行って来る」「ああ、俺の分も楽しんで来い」

扉が閉まるのを見て巧は大きなあくびを1つ残して眠りについた。その日を境
に草加と真理の姿が消えるとは露知らずに…

【Open your eyes for the next LastKaixa】

「コード03、木場勇治奪取に成功。これより合流地点へと向かう…」
「キャッ☆あとはお願いしますね!」
突進態となってエレファントオルフェノクは、少女を踏み潰すべく踊りかかった!
「…変身です」《standing by》《complete》

【ラストカイザ】
【第02話/懺悔の涙】

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