LastKaixa
【ラストカイザ】
【第02話/懺悔の涙】

スマートブレインという会社がある。10年前までは無名の会社だったが、コ
ンサルタントとして招かれた村上が、副社長になってからはメキメキと成長し、
1年前の花形社長行方不明事件が発生してからは、社長という確固たる地位を
手に入れた村上が管理している会社、スマートブレインがここにある。

「2人の奪取に…失敗しましたか」
「ごめんなさい★でも、とーっても怖かったんですよ!」
「…護衛を付けなかったのは私のミスですね…」

しわ一つ無いスーツを完璧に着こなしている村上は、真夜中の社長室で青を主
体としたドレスを身に纏った女性、スマートレディと話をしていたが、デスク
に置いてあった携帯が持ち主を呼んでいるのに気が付いて対応した。

「私だ」
「コード03、木場勇治奪取に成功…」「素晴らしい…」
「??」
「…失礼。実は先程、もう1人観察状態の男性がいたことを発見しましたね。
 御覧ください」



【No.03―木場勇治】

男性。
トラックとの正面衝突により当病院へ運ばれる。
トラックの運転手と搭乗していた他2名は即死。
物理衝撃緩和能力―オルフェノクとしての素質あり。
手術後は意識を取り戻さず、植物状態となる。

7月24日
容態が急変、死亡。

遺体は7月25日まで霊安室にて保管。様態に変化が生じた場合は報告せよ。



村上の座っている椅子へと近づいていったスマートレディは、黒檀で作られてい
る机上のパソコンから表示されている個人情報(顔写真)を見て目を輝かせた。

「カッコイイ男の子☆」
「…部下に命じたところ、彼の奪取に成功したようです。先程行ったばかりの
 あなたに依頼するのは申し訳ないのですが…迎えに行ってもらえますか?」
「はーい♪」「ありがとうございます」
「…それにしても、最近は自分からオルフェノクちゃんになることが流行なん
 ですねー」

ステップを踏むような軽やかな足取りで、社長室の扉に向かっていたスマート
レディの呟きに、村上は笑みを浮かべたまま応えた。

「運命が、死者をオルフェノクへと誘うのですよ…」

不法侵入者が玄関を破壊して地下病棟に保管していた遺体を連れ去っていった
事件が起きた美浜病院では、蟻の巣を突付いたような騒ぎが発生していた。

「…見た?今の?」「見た見た!」
「ん〜…なによこんな時間に…」「ね、今の見た?」「今の〜…何よ〜?」

「だから見たんだよ!象みたいな化け物が遠ざかっていくのを!」
「えー本当?」「本当だって!な」「うん!すごいおっきかったんだから!」

患者達だけではない。1階受付カウンターの中に、対策処理が目的で婦長に集
合命令を下された看護婦達も、ひたすら先程のことを話し合っていた。

「あの化け物が握りしめていった人大丈夫かしら…」
「聞いたところによると、今日死亡した患者さんだって」
「えー!?死体を盗んだの?」「うわー…」
「皆さん落ち着きなさい!看護婦の私達まで騒いだら、誰がこの事態を収拾す
 るのですか!」「…」

婦長の渇に看護婦達が頭を下げていた時、美浜病院の持ち主に報告をしていた
地下病棟専任担当の医師、宮城が戻ってきた。

「宮城さん、それで……様は何ておっしゃっていましたか?」
「…明日の朝までに破壊された場所の清掃と機密情報の暗号変更、そして、患
 者さん達を落ち着かせてください…だそうだ」
「わかりましたね皆さん?」「「はーい…」」
「…あと、今日の夜勤には、特別手当を支給するそうだ」
「「!!」」

現金なもので、先程の襲撃で精神的に疲れきっていた看護婦達も宮城の最後の
一言で活力を取り戻し、それぞれの担当する患者達の元へ走っていった。残さ
れたのは婦長と宮城だけである。

「…宮城さん」「…ああ」
「あなた達、地下病棟が担当している人々は…」
「………機密事項ですので、その質問には答えられません…」「……そう…」

宮城の沈んだ顔に絶対黙秘を見出した婦長は追及を諦めて、侵入者が破壊して
いった玄関の状況の再確認に足を踏み出した。

「……私達は…間違っているのかも知れないな…」「え?」
「いや…何でもない。婦長、あとはよろしくお願いします」

美浜病院から徒歩で30分ほど歩くと目の前に見えてくる公園のベンチに不審
な男が座っていた。いくら夏の夜だからといっても、上半身裸でコートだけ羽
織っているのは変だ。更に隣にパジャマらしき姿の男性が横たわっているとく
れば…通報するしかないだろう。だが、男にとって幸いなことに、周囲には誰
もいなかった。村上の命令で病院から「強奪」してきた木場を横目に、ベンチ
で待機命令を下されていた男は、これから賞賛と昇進が約束された「お迎え」
が来るのを今か今かと待ちかねていた時。薄暗い歩道を歩いてくる少女を発見
した。真夜中を歩いているというだけで危険なのに、なんと少女は不審人物の
座るベンチの前で立ち止まったのである。当然男は威嚇した。

「…ん?なんか用かガキィ?」「…彼を引き渡してもらえませんか?」「!!」

例え目の前にいるのが両手を背中に組んでいるおさげの可愛い、小さな少女と
いえども、自分の将来が約束される眠れる者の引き渡しの要求に、男はベンチ
から立ち上がって剣呑な態度で断った。

「断る!!…ガキはとっとと家に帰んな。さもないと…」
「…痛い目に遭う、ですか?」「…?」

心を先読みされたかの如く少女の言葉に一瞬拍子抜けした男だったが、少女か
らの冷たい視線に、カチンときて吠えた。

「……ああ、そうだあぁ!!!!」
「はーい!ご苦労様です★」「…やっと来たか…おらよ」

黒い紋章を額に浮かべて今にも襲い掛かろうとしていた男は、背後に停止した
NSXから降りて近づいて来るスマートレディを確認して、ベンチに横たわら
せていた男を無造作に投げつけた。

「キャッ!…ご苦労様です☆」「ああ。社長によろしく伝えてくれ」「はーい♪」
「スマートレディー、さん」「はーい?」
「…その人は私の病院の患者です…引き渡してもらえませんでしょうか?」
「え〜…そんなこと言われても……お姉さん困っちゃう。えーん★」
「…おい、おまえはとっとと帰れ…あとは何とかしてやるよ」

スマートレディーの甲高い声にうんざりした男は気だるそうにさっさと行けと
手を振った。スマートレディーは泣き真似を止めて素早く渡された木場を後部
席に押し込んで、来訪した時と同様、NSXで銀色の風となって消え去った。
あとに残された男と少女は、間合いを作りながら油断なく相手を睨みつけた。

「ガキィ…随分と文句がありそうな顔だなー…あぁ!?」
「ええ。邪魔をしたあなたには、代価を支払ってもらいます…!!」
「おもしれぇ…払わせて…見やがれぇぇぇええ!!!!」

黒い紋章が駆け出した男の力を呼び覚す。

側頭部を守る2匹の象と牙
全身を覆う甲冑の如き皮膚
豪腕と象の特質を持つ存在

―――エレファントオルフェノク

「ぬおおおぉぉぉぉぉおおお!!!!」

大地に足跡を残しながら走っていたエレファントオルフェノクは、妨害するも
の全てをぶちまかして粉砕する突進態へと変化し、躊躇うことなく目の前の少
女に、巨大な足で襲い掛かった!

「…」

迫り来る危機に慌てることなく、少女は左手に持っていたデルタドライバーを
小さな腰に装着し、右手に持っていたデルタドライバーのエネルギー供給装置、
トランスジェネレーターに起動コマンドを音声入力した。

「…変身です」《standing by》《complete》

デルタドライバーの指定ポケットにトランスジェネレーターを差込んだ少女を、
純白の光が身体のラインに沿って、使用者に未知なる力を与えるパワードスー
ツを構築し…少女はデルタとなった。こうして文字通り、象と蟻ほどの大きさ
に差がある戦いは始まったのであった…

「社長さん、ただいま☆」

再び話はスマートブレイン社長室に戻る。スマートレディが扉を開けて入って
きたのを確認した村上は、結果を訊ねた。

「…どうでしたか?」
「私の所有しているマンションで寝かせてます★」
「思ったよりもあの男は使えるようですね…妨害は大丈夫でしたか?」
「エレファントちゃんがあとは任せろって☆」
「…オルフェノクでも人間でもない未知の存在である彼女は、出来る限り生き
 たまま捕らえたかったのですが…残念ですね…」
「残念でした〜♪それで社長さん、あの男の子はどうやって目覚めさせましょうか?」
「そうですね…」

村上は机の引き出しから、小指の爪ほどの大きさの黒いカプセルがいくつも入
った瓶を取り出して、スマートレディーに手渡した。

「…これを飲ませてください」「これって…何の薬なんですか?」
「人間が飲めば証拠を残さず殺すことが出来る…劇薬です」「まぁ…」
「…これを飲んで目を覚まさなかったら…」

村上の指示を受けたスマートレディは、再び夜の首都高速道路をNSXで駆け
抜け、木場を置いてきたマンションの中へと入っていく。触れるだけで音も無く
開いた扉から部屋の内階段を上っていき、ベットで眠ったように死んでいる木
場に微笑みながら、瓶からカプセルを一錠取り出した。

「はぁーい。お薬の時間ですよ…♪」

木場の口にカプセルが水と一緒に流れ込んだ。体内で分解されたカプセルの粒
子が木場の血液内で踊り狂う。それと同時に木場の身体をまるで侵食するよう
に黒い紋章が刻み込まれていく。手足の先端部から身体の中心部、そして、黒
い紋章が額へと到達した時…白い瞳が見開き、木場は永い眠りから目覚めた。

「…ん…」「お・は・よ・う♪」

白い瞳も黒い紋章も一瞬で沈んで、知性と感性を取り戻した木場が最初に目に
したものは、青いドレスを身に纏った神秘的な女性であった。

「あなたは…?」「私の名前は…スマートレディよ★」
「スマートレディ…?」

木場はベットから身体を起こすと、スマートレディと名乗った女性を見つめた
が、スマートレディの吸い込まれていくような瞳の輝きに、本能的な危険を感
じて目を背けた。スマートレディはそんな木場に微笑を浮かべたまま説明を始
めた。

「あなたはとーっても運がいいのよ☆」「運がいい…?どういうことですか?」
「…一度死んだあなたは、オルフェノクとして甦ったんです★」

オルフェノクという聞きなれない単語が心に引っかかったが、それよりももっ
と重要な単語に木場は驚いて問い返した。

「死んだ…僕が、ですか…?」「ええ。あなたは交通事故で死んだんですよ♪」

木場はシーツから両手を出して手のひらを見つめた。今までの人生で一番馴染
み深い両手で、そっと頬を触る。ほんのりと暖かさを感じられる頬。全てが、
以前と変わらないように木場は思えた。

「嘘…ですよね…?」「嘘じゃないですよぉ☆」
「でも、今こうして生きているじゃないですか…?」「うふふ」

ベットに座っていたスマートレディは、妖しく笑って木場の左手を掴み、左胸
の心臓の鼓動を確認させた。木場の顔は蒼ざめていった。

「……心臓が………動いていない…?」「…どう?わかったかしら?」
「………そうだ!!一緒に乗っていた父さんと、母さんは!?」
「あなたを残して死んだみたい。え〜ん★可哀想」「そんな……嘘だよ…」

スマートレディの残酷な告知に木場はがっくりとうな垂れた。すべての希望が
消えたように思えたが、木場は僅かな希望を想い出した。

「千恵に………会いに行かなきゃ…」「千恵?その子は、だーれ?」
「僕の……大事な人なんだ」
「ふーん…今日はもう遅いから明日がいいわよ★これマンションのカギ。無く
 さないでね☆」

今にも飛び上がって外に出て行きそうな木場の手に強引にカギを握らせ、有無
を言わせない態度でシーツをかけたスマートレディは、微笑みを残して階段を
下りて姿を消した。後に残された木場は、ひたすら自分が死んだ日のことを思
い出していた。

『一度死んだあなたは、無事オルフェノクとして甦ったんです★』

「そうだ…あの日、僕は、父さんと、母さんの結婚記念日の祝いに予約を取っ
 ていたレストランに3人で向かっていたんだ。そしたら急にトラックが飛び
 出して…」

ベットに横たわっている木場は一旦言葉を切って、右手で顔を覆い隠した。

「僕は……死んだんだ…」

覆い隠した右手から止め処ない涙が零れ落ちていく。木場は己の不注意が招い
たあっけない結末にひたすら後悔した。叱ってくれる父親も、守ってくれる母
親ももうこの世には…いないのだ。

「千恵……僕は……どうしたらいいんだろう……」

誰もいないマンションの中で、木場は夜明けが来るまで1人で苦しみ続けた…

【Open your eyes for the next LastKaixa】

「乾君……真理……俺は…俺はっ!!」
「お願いだ…真理を……真理を…生き返らせてくれ……!!」
「……わかりました。そのかわりあなたには色々と手伝ってもらいますよ…まずは…」
「あああああああああああぁぁぁぁああ!!!!!!!」

【ラストカイザ】
【第03話/奪われし記憶】

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